Presentation Information
[G-O-13]The recovery status of the springs that dried up after the Kumamoto earthquake in 2016: A case study of the springs at the southern area of the central volcanic cone of the Aso caldera.
*Shigeaki Yamada1, Satoru Kishi2, Takeshi Terada3, Toru Ryu3, Tooru Sato2 (1. Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Hokuriku Regional Agricultural Administration Office:formerly of Kyushu Regional Agricultural Administration Office, 2. Formerly of Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries, Kyushu Regional Agricultural Administration Office, 3. Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries)
Keywords:
spring,well,a self-registering meter,water quality,effective rainfall
平成28年(2016年)熊本地震の際は,地震発生後に地下水,湧水の状況に変化があったことが報告されている1).本稿は,農業用水保全を目的に九州農政局で実施した調査に基づいて,熊本地震後に枯渇した湧水(南阿蘇村・塩井社水源)の回復状況について報告する.
対象地は,阿蘇カルデラ内の中央火口丘の南麓に位置する湧水で,山麓域の夜峰山火砕岩・溶岩と崖錐・扇状地堆積物の境界部付近に湧出している.本湧水の下流には水田地帯が広がり,営農にあたって重要な農業用水源となっている.
本湧水は,地震後の湧水枯渇・回復メカニズムに関して,シミュレーション解析より,地震発生直後と地震後2年経過時点における地下水の水文学的,水理地質学的なアプローチがなされ,一旦枯渇した湧水が2年の歳月を経て,自然回復に至ろうとしていると考察されている2).
調査は,本湧水に隣接する井戸(深度18m)での自記計による水位・水温観測,本湧水の湧水量観測,湧水と井戸水の簡易水質分析(pH、EC、ORP、水温)の実施と共に,2020年10月,2024年2月に主要イオン分析,酸素・水素同位体比分析を行った.また,井戸内の水温状態を把握する目的で,2023年11月,2024年7月,11月に鉛直水温検層を行った.
湧水の湧水量は,地震前の想定湧水量約5 m3/min2)に対して,2019年までは基底で約2m3/min~最大3m3/minの流量,2020年以降は基底で約2 m3/min~最大で23.6 m3/minの流量で推移する.湧水量を断面流速法で求める際に計測する下流流路水深と地下水位には、正の相関関係がある.
自記計による井戸の水位(2016.8~2025.2)は,地震後2016~2019年まで基底水位が上昇する傾向であったが,その後,2020年以降は基底水位が平衡状態となり,降水量の変動により水位が昇降する傾向に変化している.年間降水量と年間地下水位変動量との関係は,2019年以降で正の相関関係がある.一方,地震後2016年~2018年は2019年以降の相関関係とは異なり,降水量が多い2016年は変動量が小さく,降水量が少ない2017年に変動量が大きく,2018年は2017年と同程度の降水量で変動量が0.5倍程度に小さくなる.
簡易水質分析では,観測期間(2016.8~2025.2)を通して,大きな変動は認められず,既往値2)の結果と類似した値を示した.また,主要イオン分析でも,湧水,井戸ともに,阿蘇カルデラ内の中央火口丘に起源をもつCaSO4型に類似したパターンを得た.井戸内の水温検層では,深度4.5m以深を境に,上位が変温層,下位が恒温層に区分され,恒温層では約16℃でほぼ変動なく推移しており,湧水の水温変動(15~18℃)よりも変動幅が小さい傾向であった.
湧水の酸素・水素同位体比は,地震前(2009年7月)2)に対して,2018年7月の既往値2)、2020年10月,2024年2月のいずれにおいても,酸素同位体比で0.5‰程度,水素同位体比で1.0~2.0‰程度,軽くなっている。井戸水は,地震前(2009年7月)2)に対して,2018年7月の湧水既往値2)と同様,酸素同位体比が0.5‰程度,軽い領域にあったが,水素同位体比は2020年10月,2024年2月の順に,次第に重くなり,地震前の値とは0.2‰程度の差となった.
湧水下流の流路水深,井戸の地下水位を基に作成したH-Q図から推定した流量では,2019年7月以降,先行降水量の増減で流量が増減することが推定された.また,実効雨量による回帰分析3)から予測した地下水位変動は,実測の地下水位と予測水位との差が2016年は枯渇により大きく,2017年からは次第に回復上昇で小さくなり,2018~2019年以降,基底水位が予測水位に近似する.このことから,湧水の水量,地下水位は,2018年時点2)と比較すると,2019年以降はほぼ地震前の状態に回復している可能性が考察される.
本湧水は,地震前よりも酸素・水素同位体比はともに軽い方向へシフトしたままであるが,井戸水では,2020~2024年の期間において,湧水の地震前の値と0.2‰程度の差となり,湧水付近の地下水は地震前の状況に近づきつつあると考察される.その一方で,井戸水と湧水の酸素・水素同位体比の動きの違い,湧水が軽い方向へシフトしたままである原因については,今後の検討課題としてあげられる.
なお,本稿の内容は発表者個人の見解で,組織の公式見解を示すものではない.
引用文献
1)細野・田原, 2020 ,巨大地震が地下水環境に与えた影響, 35-52
2)佐渡ほか, 2020,巨大地震が地下水環境に与えた影響, 135-150
3)独立行政法人土木研究所, 2009),地すべり地下水排除工効果判定マニュアル(案), 1-19
対象地は,阿蘇カルデラ内の中央火口丘の南麓に位置する湧水で,山麓域の夜峰山火砕岩・溶岩と崖錐・扇状地堆積物の境界部付近に湧出している.本湧水の下流には水田地帯が広がり,営農にあたって重要な農業用水源となっている.
本湧水は,地震後の湧水枯渇・回復メカニズムに関して,シミュレーション解析より,地震発生直後と地震後2年経過時点における地下水の水文学的,水理地質学的なアプローチがなされ,一旦枯渇した湧水が2年の歳月を経て,自然回復に至ろうとしていると考察されている2).
調査は,本湧水に隣接する井戸(深度18m)での自記計による水位・水温観測,本湧水の湧水量観測,湧水と井戸水の簡易水質分析(pH、EC、ORP、水温)の実施と共に,2020年10月,2024年2月に主要イオン分析,酸素・水素同位体比分析を行った.また,井戸内の水温状態を把握する目的で,2023年11月,2024年7月,11月に鉛直水温検層を行った.
湧水の湧水量は,地震前の想定湧水量約5 m3/min2)に対して,2019年までは基底で約2m3/min~最大3m3/minの流量,2020年以降は基底で約2 m3/min~最大で23.6 m3/minの流量で推移する.湧水量を断面流速法で求める際に計測する下流流路水深と地下水位には、正の相関関係がある.
自記計による井戸の水位(2016.8~2025.2)は,地震後2016~2019年まで基底水位が上昇する傾向であったが,その後,2020年以降は基底水位が平衡状態となり,降水量の変動により水位が昇降する傾向に変化している.年間降水量と年間地下水位変動量との関係は,2019年以降で正の相関関係がある.一方,地震後2016年~2018年は2019年以降の相関関係とは異なり,降水量が多い2016年は変動量が小さく,降水量が少ない2017年に変動量が大きく,2018年は2017年と同程度の降水量で変動量が0.5倍程度に小さくなる.
簡易水質分析では,観測期間(2016.8~2025.2)を通して,大きな変動は認められず,既往値2)の結果と類似した値を示した.また,主要イオン分析でも,湧水,井戸ともに,阿蘇カルデラ内の中央火口丘に起源をもつCaSO4型に類似したパターンを得た.井戸内の水温検層では,深度4.5m以深を境に,上位が変温層,下位が恒温層に区分され,恒温層では約16℃でほぼ変動なく推移しており,湧水の水温変動(15~18℃)よりも変動幅が小さい傾向であった.
湧水の酸素・水素同位体比は,地震前(2009年7月)2)に対して,2018年7月の既往値2)、2020年10月,2024年2月のいずれにおいても,酸素同位体比で0.5‰程度,水素同位体比で1.0~2.0‰程度,軽くなっている。井戸水は,地震前(2009年7月)2)に対して,2018年7月の湧水既往値2)と同様,酸素同位体比が0.5‰程度,軽い領域にあったが,水素同位体比は2020年10月,2024年2月の順に,次第に重くなり,地震前の値とは0.2‰程度の差となった.
湧水下流の流路水深,井戸の地下水位を基に作成したH-Q図から推定した流量では,2019年7月以降,先行降水量の増減で流量が増減することが推定された.また,実効雨量による回帰分析3)から予測した地下水位変動は,実測の地下水位と予測水位との差が2016年は枯渇により大きく,2017年からは次第に回復上昇で小さくなり,2018~2019年以降,基底水位が予測水位に近似する.このことから,湧水の水量,地下水位は,2018年時点2)と比較すると,2019年以降はほぼ地震前の状態に回復している可能性が考察される.
本湧水は,地震前よりも酸素・水素同位体比はともに軽い方向へシフトしたままであるが,井戸水では,2020~2024年の期間において,湧水の地震前の値と0.2‰程度の差となり,湧水付近の地下水は地震前の状況に近づきつつあると考察される.その一方で,井戸水と湧水の酸素・水素同位体比の動きの違い,湧水が軽い方向へシフトしたままである原因については,今後の検討課題としてあげられる.
なお,本稿の内容は発表者個人の見解で,組織の公式見解を示すものではない.
引用文献
1)細野・田原, 2020 ,巨大地震が地下水環境に与えた影響, 35-52
2)佐渡ほか, 2020,巨大地震が地下水環境に与えた影響, 135-150
3)独立行政法人土木研究所, 2009),地すべり地下水排除工効果判定マニュアル(案), 1-19
