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[G-O-19]Paleoenvironmental transitions and paleotsunami history of alluvial deposits in the Ebisawa area, Joban Coast, Japan

*Yasuhiro Takashimizu1, Riku Kawasaki3, Atsushi Urabe2 (1. Faculty of Education, Niigata University, 2. Research Institute for Natural Hazards and Disaster Recovery, Niigata University, 3. TOMATO BANK, LTD.)
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tsunami deposits

 古津波堆積物の研究において,堆積当時の古環境を把握することは津波堆積物を同定する上で重要である.沿岸低地を遡上した津波堆積物は海および沿岸由来の物質でかつ陸成層に挟在されたイベント層として識別される必要があり,津波堆積物の同定には古津波来襲時の古環境や古地形の復元が必須となる.また古津波堆積物の形成年代を把握することは,津波堆積物の広域対比や津波の再来間隔復元のために有効である.ところで東北日本太平洋側の常磐海岸では三陸海岸や仙台湾沿岸地域に比べて津波履歴の解明が進んでいない.そこで本研究では常磐海岸蛯沢地域の沖積層の古環境復元をした上で,古津波堆積物の同定を試みる.このことによって常磐地域の津波履歴の解明を目指す. 研究対象とした沖積層は東西を丘陵に挟まれた約0.7%の勾配を持つ谷内を構成する沿岸低地である.谷筋に平行なトランセクトA,それと直交するトランセクトBを設定し,17地点からボーリングおよびジオスライサー試料を回収した.古環境変遷を把握するため,地層の堆積相解析,炭素・窒素・硫黄濃度分析(CNS分析),珪藻化石分析,およびX線CT解析を行った.その上で,沖積層の年代観の把握と古津波堆積物の年代決定のために放射性炭素年代を用いて暦年較正による年代解析を行った. 堆積相解析の結果,沖積層を5つの堆積相(A~E)に区分した.すなわち,堆積相A(赤〜茶褐色の有機質シルト層),堆積相B(黒〜黒褐色の有機質シルト層),堆積相C(茶〜褐色の砂質シルト層),堆積相D(黒褐色の有機質シルト層),および堆積相E(灰〜青灰色のシルト層)で,それぞれ,水田土壌・人工的な盛り土,湿地堆積物,泥〜砂の干潟堆積物,溺れ谷堆積物,および沼地堆積物と解釈された.これらの堆積相区分に加えてCNS分析とX線CT解析の結果も考慮した上で,陸成堆積物に挟在する3つのイベント堆積物を見出した.珪藻化石分析からはこれらのイベント堆積物中に海由来の珪藻群集が含まれていた.よって古環境復元,堆積物の組織の特徴と分布,および珪藻化石分析の結果から,これらの3イベント堆積物を古津波堆積物と同定した. 放射性炭素年代測定の結果,これらの津波堆積物の堆積年代は11~13世紀,8~9世紀,および3~5世紀であった.これらの結果を日本海溝沿いから報告されている古津波堆積物と比較すると,三陸海岸と仙台湾沿岸地域から報告されている869年貞観地震津波と4~5世紀の古津波イベントと推定される堆積年代の範囲が一致した.既知の古津波堆積物の分布と比較したところ,本報告のものは最も南端で確認されるものである可能性がある.一方,11~13世紀の古津波堆積物は今回,常磐地域から新規に確認されたものである.すでに12~13世紀の古津波堆積物が三陸海岸と千島海溝沿いから知られているものの,仙台湾からの報告はなく,同一津波による堆積物の可能性は低い.そのため,別の津波起源による堆積物であると推定した.