Presentation Information
[T12-O-8]Paleoenvironmental reconstruction of low-latitude pelagic deep-sea during the Early Triassic Smithian-Spathian transition
*Kazuki MATSUI1, Satoshi TAKAHASHI1, Shunta ICHIMURA1, Shun MUTO2, Satoshi YAMAKITA3 (1. Graduate School of Environmental Studies, Nagoya University, 2. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 3. Faculty of Education, University of Miyazaki)
Keywords:
Early Triassic Smithian-Spathian transition,Conodont,Pyrite Framboids
【はじめに】 約2億5千万年前に起きたペルム紀末大量絶滅の後, 前期三畳紀後期(オレネキアン期)のスミシアン亜期とスパシアン亜期の境界期では遠洋域を含む広範囲に無酸素環境が発生したことが知られている.[1] しかし, 同境界直後の低緯度パンサラッサ海遠洋の深海底における環境については未だに不明点が多い. 本研究では前期三畳紀スミシアン亜期とスパシアン亜期の遠洋深海底の環境を明らかにするため, 前期三畳紀に遠洋で堆積した岩石が残る中部日本の美濃―丹波―足尾帯のセクションで溶存酸素環境(酸化還元環境)の復元を試みた.
【地質概説・研究方法】 調査地域である岐阜県各務原市鵜沼宝積寺町にある宝積寺セクション[2]の露頭を詳細に調査し, 地質構造を明らかにした. その中の層序的連続箇所を構造的下位からHS-1, HS-2, HS-3とした. 主に灰色粘土岩層が分布し, 黒色粘土岩やチャートの薄層が見られた. またHS-1には苦灰岩層, HS-3には厚い黒色粘土岩層が確認された. コノドント化石に基づいた生層序を確立するために, チップメソッド[3]とNaOH法[4]をそれぞれ用いてコノドント化石を探した. HS-1, HS-2から前期三畳紀のスミシアン亜期を示すConservatella conservativa, Guanxidella bransoni, HS-3からスパシアン亜期を示すTriassospathodus brevissimusが産出した. 岩石試料を研究セクションから採取し, 研磨断面及び薄片を作成した. 作成した薄片を偏光顕微鏡で観察し, フランボイダル黄鉄鉱の直径計測及び分布分析を行った. さらに研磨断面の観察により生物擾乱の程度を調査し, 生痕ファブリック指数(i. i.)[5]に基づいて当時の底生動物活動の程度を推定した.
【結果・考察】 観察した層全てで黄鉄鉱を確認し, そのうちHS-1下部とHS-3でフランボイダル黄鉄鉱が多数認められた. 直径分布はHS-1において平均5.3-9.4 µm, 標準偏差1.9-4.2 µm, HS-3において平均5.3-6.3 µm, 標準偏差1.4-2.8 µmであった. 得られた直径分布を, 平均6.5 µm, 標準偏差2 µmを基準[6]に当時の酸化還元環境を推定した. この結果から, ①スミシアン亜期中期から後期にかけて貧酸素環境が発達し, 含硫化水素環境が短期間発達していたこと, ②スミシアン亜期後期には貧酸素環境が発生していたこと, ③スパシアン亜期前期には貧酸素環境が発達し, 含硫化水素環境が短期間発達していたことが示された. 研磨断面を観察した結果, HS-1では明瞭な層構造が見られた. 一方HS-3下部の2層準には1 cm以下の掘られた穴のような構造が確認され, 低い生物擾乱(i. i.=3)が認められた. この結果から, スパシアン亜期前期には底生動物活動が一時的に回復していたことが示された. これらの酸化還元環境の傾向はテチス海の大陸縁辺域や北パンゲア周辺の海域でも確認されており[1], テチス海で確認されているスパシアン亜期最前期における気候寒冷化とその後の緩やかな温暖化による広域的な現象であることが示唆される.
【引用文献】 [1] Takahashi et al., 2025. Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 675, 113080. [2] 山北ほか, 2010. 日本古生物学会2010年年会講演要旨, C23, p.47 [3] Muto et al., 2018. Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 490, 687–707. [4] Onoue et al., 2024. Scientific Reports, 14, 12831. [5] Droser and Bottjer, 1986. Journal of Sedimenta. Research, 56, 558-559. [6] Wilkin et al., 1991. Geochimi. et Cosmochimi. Acta, 60, 3897-3912.
【地質概説・研究方法】 調査地域である岐阜県各務原市鵜沼宝積寺町にある宝積寺セクション[2]の露頭を詳細に調査し, 地質構造を明らかにした. その中の層序的連続箇所を構造的下位からHS-1, HS-2, HS-3とした. 主に灰色粘土岩層が分布し, 黒色粘土岩やチャートの薄層が見られた. またHS-1には苦灰岩層, HS-3には厚い黒色粘土岩層が確認された. コノドント化石に基づいた生層序を確立するために, チップメソッド[3]とNaOH法[4]をそれぞれ用いてコノドント化石を探した. HS-1, HS-2から前期三畳紀のスミシアン亜期を示すConservatella conservativa, Guanxidella bransoni, HS-3からスパシアン亜期を示すTriassospathodus brevissimusが産出した. 岩石試料を研究セクションから採取し, 研磨断面及び薄片を作成した. 作成した薄片を偏光顕微鏡で観察し, フランボイダル黄鉄鉱の直径計測及び分布分析を行った. さらに研磨断面の観察により生物擾乱の程度を調査し, 生痕ファブリック指数(i. i.)[5]に基づいて当時の底生動物活動の程度を推定した.
【結果・考察】 観察した層全てで黄鉄鉱を確認し, そのうちHS-1下部とHS-3でフランボイダル黄鉄鉱が多数認められた. 直径分布はHS-1において平均5.3-9.4 µm, 標準偏差1.9-4.2 µm, HS-3において平均5.3-6.3 µm, 標準偏差1.4-2.8 µmであった. 得られた直径分布を, 平均6.5 µm, 標準偏差2 µmを基準[6]に当時の酸化還元環境を推定した. この結果から, ①スミシアン亜期中期から後期にかけて貧酸素環境が発達し, 含硫化水素環境が短期間発達していたこと, ②スミシアン亜期後期には貧酸素環境が発生していたこと, ③スパシアン亜期前期には貧酸素環境が発達し, 含硫化水素環境が短期間発達していたことが示された. 研磨断面を観察した結果, HS-1では明瞭な層構造が見られた. 一方HS-3下部の2層準には1 cm以下の掘られた穴のような構造が確認され, 低い生物擾乱(i. i.=3)が認められた. この結果から, スパシアン亜期前期には底生動物活動が一時的に回復していたことが示された. これらの酸化還元環境の傾向はテチス海の大陸縁辺域や北パンゲア周辺の海域でも確認されており[1], テチス海で確認されているスパシアン亜期最前期における気候寒冷化とその後の緩やかな温暖化による広域的な現象であることが示唆される.
【引用文献】 [1] Takahashi et al., 2025. Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 675, 113080. [2] 山北ほか, 2010. 日本古生物学会2010年年会講演要旨, C23, p.47 [3] Muto et al., 2018. Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 490, 687–707. [4] Onoue et al., 2024. Scientific Reports, 14, 12831. [5] Droser and Bottjer, 1986. Journal of Sedimenta. Research, 56, 558-559. [6] Wilkin et al., 1991. Geochimi. et Cosmochimi. Acta, 60, 3897-3912.
