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[T2-O-2]Volcanic Unrest in Hydrothermal-Dominated Volcanoes and Its Interpretation through Porphyry System Frameworks

*Kazutaka Mannen1 (1. Hot Springs Research Institute of Kanagawa Prefecture)
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Keywords:

hydrothermal system,hydrothermal eruption,porphyry system

 箱根火山は2001年以降、数年に1回程度の頻度で活発化を繰り返しており、2015年には観測史上初となる熱水噴火が発生した。これらの活発化は、地震や地殻変動など地球物理学的な観測でとらえられてきたが、2012年以降に開始した火山ガスの繰り返し観測でも、マグマ性ガス比率増加のシグナルが明瞭である。一方、多項目観測の統一的解釈は未だに困難である。たとえば、2015年噴火についてもそのメカニズムの解釈は一筋縄でない。2015年噴火は6月29日12時40分頃に発生したが、異常 (volcanic unrest)は約2ヶ月前の4月初めまでに、火山構造性地震の増加のほか、マグマだまりより深い、深さ20km前後で発生する深部低周波地震の増加や、マグマだまり直上の深度8km付近の膨張などとして認識された。こうした異常は火山活動の活発化が明らかにマグマかそれに関連する流体の移動や蓄積を示唆する。しかし、噴火の直接の引き金となったのは、同日の7時33分頃に発生した標高225m付近にある熱水だまりから、大涌谷直下を北西南東方向に走るクラックへと熱水が移動・上昇したイベントで(Doke et al., 2018; Honda et al., 2018)、マグマだまりから海水面付近の長大な深度区間で何が発生したのかはよくわからない。加えて、引き金となった熱水がそのまま地表で噴出したわけではない(Mannen et al., 2018)。噴火当日に観測された熱泥流の水は浅層地下水が起源であった。噴出物も深さ130m(標高860m以上)より深い起源の物質の含有は確認されていない(Mannen et al., 2019)。噴火終了後しばらくした7月3日までに、火口池が形成された。安全上の理由でこの池の水の採取は翌年3月末となったが、採取された水は高濃度の塩化物イオン、フッ化物イオン、強酸性(pH≤1.8)を特徴とし、深部の酸性熱水起源と考えられる。つまり、マグマだまりなど深部の異常が関与しているにもかかわらず、噴火現象そのものは極めて浅いところが起源で、熱水の地表への供給は少なくとも噴火開始時にはない。一方で、2015年噴火以降の火山ガスの観測では、地表で観測される噴気中のマグマ性ガス比率の上昇は、地震や地殻変動の発生とほぼ同時である。このことは、マグマ近傍から地表まで長くとも数時間程度でガスは移動できる経路が確立していることを示唆する。速度が大きく異なるはずの圧力伝搬(=地震や地殻変動を励起)と物質移動(=地表におけるガスや流体の変動)が、その通りの場合(=噴火時の熱水移動)と、極めて近接している場合(=異常時のガス濃度比変化)があることは、二つの物質移動モードが共存するシステムを要請する。近年、鉱床学ではマグマだまりから、斑岩岩体、その上部に発達する熱水系、地表の噴気地帯、それらの周辺に発達する各種鉱床を一体的にとらえる、斑岩システム (Sillitoe, 2010) という概念が提案されて探鉱方針や埋蔵量算定に用いられつつある。日本のいくつかの熱水活動が顕著な活火山と斑岩システムの類似性が指摘されているが (Hedenquist et al., 2018)、箱根火山はこれらの火山と類似性が高いほか、箱根で異常時に発生する群発地震が鉱脈形成時の地震に対応するという考え方がある(Cox, 2016)。こうした斑岩システムの概念を熱水系が発達する活火山の活動解析に導入することは、今後の重要な方向性の一つと考えられる。講演では、箱根火山における最新の熱水系シミュレーション(Matsushima and Mannen, 2025) や電磁探査の結果(Mannen et al., 2025)を紹介しつつ、地質学への期待について述べたい。 Cox, 2016. Econ. Geol. 111, 559–587: Doke et al., 2018. EPS 70: Hedenquist et al., 2018. Resour. Geol. 68, 164–180: Honda et al., 2018. EPS 70, 117: Mannen et al., 2025. JVGR 465, 108363. Mannen et al., 2019. EPS 71, 135. Mannen, K., 2018. EPS 70, 68. Matsushima and Mannen, 2025. JVGR 466, 108383: Sillitoe, 2010. Econ. Geol. 105, 3–41.