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[T2-O-3]Compositional changes and their significance of the large-scale porphyritic body that constitutes Northern Kyushu Batholith, SW Japan
*Keisuke ESHIMA1 (1. Yamaguchi Univ. Sci. Tech. Innov.)
Keywords:
Cretaceous Northern Kyushu Batholith,Large igneous activity,Porphyritic body,Compositional change,element transfer process
【はじめに】 半深成岩体はマグマが地殻浅部で固結して形成される火成岩体であり,深部で徐冷される深成岩と地表で急冷される火山岩の中間的な特徴を持つ.この中間的な特性こそが半深成岩体を地球科学,特にマグマ活動,鉱床形成およびテクトニクスの理解において極めて重要な研究対象としている.一方で,半深成岩体の研究には依然として解決すべき重要な課題が残されている.その主要な課題の一つはマグマシステムの連続性の解明である.深部のマグマ溜まり(深成岩),半深成岩体そして地表の火山岩という三者を連続した一つのマグマシステムとしてどのように捉え,その物質移動やエネルギー収支を定量的に評価するかは依然として複雑な問題である.特に,半深成岩体がマグマの「一時的な停留所」であったのか,それとも「最終的な固結場」であったのかを識別することは,マグマの上昇速度や噴火ポテンシャルを評価する上で重要である.そこで,本発表は北部九州バソリスを構成する半深成岩体(尺岳北部半深成岩体:江島, 2021, 地質雑, 127, 605–619; 巡検Bコース)を対象に岩体内部の組成変化(閉鎖系・開放系)を検討し,白亜紀火成活動最初期の深成作用と深成岩・火山岩類との相互作用について議論する.このような研究は大規模火成活動の包括的な理解,つまり,地下深部〜地表までのマグマ供給システムおよび地殻成熟過程の解明に貢献できると考えている.【地質概要】尺岳北部の地質は,脇野亜層群を母岩とし,それを貫く斑状細粒トーナル岩体(PFT),単斜輝石石英閃緑岩(CQD)および小規模岩脈類から構成される.PFT岩体は5.0 km × 3.0 kmの北東–南西方向に伸びた楕円状に産し,脇野亜層群に接触変成作用を与えている.また,ジルコンU–Pb年代値は113.4±1.0 Ma(2σ)の加重平均年代が得られ,その活動は北部九州花崗岩バソリス活動の最初期に相当する.さらに,岩体内部には熱水変質作用による石英,緑泥石およびカルサイトを主とする脈が発達し,脇野亜層群との貫入境界部では,脇野亜層群の泥質部と混じり合ったぺぺライト状の組織が観察される.CQD岩体は,PFTの東に隣接し,東西約1 km,南北約700 mの小規模ストック状岩体として産する. PFTと異なり母岩(脇野亜層群,PFT)に明瞭な境界を持って貫入する.小規模岩脈類は斑状細粒閃緑岩と単斜輝石安山岩の2岩相があり,どちらも幅1–10 m,延長は100 m以下の高角度岩脈としてPFT岩体内部で確認される.【CQDの組成変化】CQDのSiO2含有量の範囲は55.7 – 60.9 wt%であり,各元素は一連の組成変化トレンドを形成する.また,全岩–モード組成変化図では,全岩SiO2含有量58 wt%付近で組成変化トレンドの角度が変化する.斜長石の集積組織・自形性および少量の直方輝石の存在から,組成トレンドの変曲点を境にLow-SiO2 groupとHigh-SiO2 groupに区別することができる.これらのグループは微量元素組成を用いたモデル計算から分別結晶作用と集積作用を同一系内で経験したと考えられる. High-SiO2 groupには汚濁帯を伴う斜長石が一般的に産する.また,変曲点付近の試料にはAutolithが含まれる.こうした記載岩石学的特徴と化学組成の検討から,CQDは同一起源のマグマが系内で混合作用も起こしていたと考えられる.【PFTの組成変化】PFTは0.8–5.8の幅広いLOI値を持ち,記載的な変質度に密接に関連する.そこで,LOI値の量比からPFTを3タイプ(High-, Medium-, Low-LOI group)に区別して各種化学組成を検討した. PFTのアルカリ金属とアルカリ土類金属はLow-, Medium-およびHigh-LOIの順に組成幅が大きくなり,その変化トレンドは湾曲する.物質収支計算の検討結果から,Low-LOI groupは,mobile elementsの移動量が少なく,分別結晶作用で説明可能である.一方で,High-LOI groupはアルカリ金属・土類金属元素やSiO2の溶脱や付加作用が確認できる.さらに,サンプル採取密度の高い岩体西部で溶脱または付加した元素のコンターマップを作成すると,変質度の高い試料には元素の溶脱・付加作用が確認でき,岩体内部ほど,元素の溶脱や付加作用の傾向が顕著であることが明らかになった.【まとめ】本研究で解析されたCQDおよびPFTの組成変化における元素移動は,貫入後の地殻浅部での熱水変質作用が岩体の最終的な化学組成に大きな影響を与えることを明確に示した.これらの知見は北部九州の白亜紀花崗岩バソリス形成における最初期苦鉄質マグマの役割とその後の熱水活動が岩体の最終的な化学組成に与える影響を理解する上で重要な情報である.
