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[T6-O-2][Invited] Metamorphic texture and history of amphibolites in the Tokunoshima belt in central Ryukyus
*Masaoki UNO1, Hiroshi YAMAMOTO2, Yukio ISOZAKI3 (1. Dept. Earth, Planet. Sci., Univ. Tokyo, 2. Graduate School of Science and Engineering, Kagoshima Univ., 3. Dept. Earth Sci. & Astron. Univ. Tokyo)
【ハイライト講演】 徳之島では, 四万十付加体の構造上位に低圧高温型広域変成岩類が累重するが, それらの形成条件の詳細は明らかになっていない. 宇野氏は, 変成作用の解析手法について新たな視点から挑戦され, 流体反応の物理化学プロセスの実態に迫る研究を推進されている. その手法を徳之島のマフィック変成岩(角閃岩)に応用して得られた温度圧力条件などについてご講演いただく. ※ハイライト講演とは...
Keywords:
Tokunoshima belt,amphibolite,metamorphism,pressure-temperature path
琉球弧中部の徳之島から近年発見された角閃岩や砂質・泥質片岩からなる高度変成岩類は,これまでに認識されていなかった始新世-漸新世間の広域変成岩類と考えられ,その起源と形成過程は新生代日本列島の形成史に重要である(Ueda et al., 2018; Yamamoto et al., 2022; 山本ほか2024).徳之島帯として提唱されたこれらの変成岩類は,徳之島に広く分布する四万十帯の構造的上位に位置し,東西および南北方向に9 km,幅800 mを超えるクリッペとして分布している.構成岩石は,黒雲母を含む砂質・泥質片岩類を主とし,様々な程度に面構造の発達した角閃岩類や蛇紋岩類のレンズ状岩体を含む.鏡下の観察からは角閃岩相に達していたことが示唆されている.本講演では,角閃岩類の変成組織からその変成履歴を明らかにし,徳之島帯の形成過程に制約を与える.
徳之島帯の角閃岩類は,褐色の角閃石を含む含褐色ホルンブレンド-アクチノ閃石角閃岩(以下,褐色角閃岩)と緑色の角閃石を含む含緑色ホルンブレンド角閃岩(以下,緑色角閃岩)に大別される.褐色角閃岩,緑色角閃岩いずれも様々な程度に面構造が発達しており,また各種の熱水変質を被っている.
面構造が不明瞭かつ熱水変質を伴わない角閃岩類は,1–4 mm程度の比較的大きな斜長石や角閃石/輝石の集合体が確認され,深成岩様の組織が斜長石や角閃石に置換されている.一方,面構造が発達した角閃岩類では,角閃石および斜長石が様々な程度で動的再結晶しながら配向し,面構造を形成している.
褐色角閃岩は,褐色で比較的Alに富むアクチノ閃石やホルンブレンド(AlIVT = 0.27–0.62 apfu),斜長石(Xab = 0.39–0.57)を主とし,少量の石英やイルメナイトを含む.一部のサンプルでは,XMg = 0.62–0.70の単斜輝石やXMg = 0.50–0.61のカミントン閃石の残晶がホルンブレンドおよびアクチノ閃石に置換されている.緑色角閃岩は,ホルンブレンド(AlIVT = 0.93–1.37 apfu)と斜長石(Xab = 0.61–0.62)を主とし,少量の石英,イルメナイト,黄鉄鉱を含む.角閃石―斜長石温度計(Holland and Blundy, 1994)では,褐色/緑色の差異や面構造の強弱にかかわらず,斜長石中の角閃石や角閃石中の斜長石の包有物は658–750℃,斜長石リム―角閃石リムでは622–660℃である.
一部の褐色角閃岩では,面構造を形成する褐角閃石のリムが黒雲母に,斜長石のリムがカリ長石に置換されており,共存するアクチノ閃石―斜長石ペアは593–627℃を示す.一部の緑色角閃岩では,パーガス閃石―ホルンブレンドーアクチノ閃石―緑簾石からなる脈が周囲の斜長石を変質させており,599–610℃をしめす.
これらの岩石はさらに,緑泥石脈や緑簾石―カリ長石―曹長石脈,カリ長石―パンペリー石脈,ぶどう石±カリ長石脈に切られており,脈周囲には緑泥石,緑簾石,カリ長石,曹長石,ぶどう石及びパンペリー石の変質を伴う.
以上より,徳之島の角閃岩類は,閃緑岩類を起源として約750–660℃で加水反応を開始し角閃石を形成し,約660–620℃で角閃石や斜長石が動的再結晶しながら延性変形し面構造を形成した.さらに一部の岩石では約630–590℃の延性変形下でカリウムに富む流体流入により黒雲母やカリ長石の変質が生じた.一方で約600℃での流体流入により脆性破壊し,パーガス閃石―ホルンブレンドーアクチノ閃石―緑簾石脈が形成した.さらに低温のぶどう石・パンペリー石相程度の条件下で緑簾石―カリ長石―曹長石脈,カリ長石―パンペリー石脈,ぶどう石±カリ長石脈が形成された.
以上のように,徳之島の角閃岩類の変成履歴は660-620℃付近での延性変形,600℃付近でのカリウムに富む流体活動,ぶどう石・パンペリー石相での熱水活動で特徴づけられる.これらと周囲の岩相との関係の理解にはさらなる検討が必要であるが,600℃付近でのカリウムに富む流体活動は,角閃岩類と周囲の泥質・砂質変成岩類との接合,ぶどう石・パンペリー石相での熱水活動は周囲の四万十帯との接合と関連づけられる可能性がある.いずれにしても,600℃を超える温度条件下での延性変形や熱水活動は,日本列島の他の始新世–漸新世の地質体には無いものであり,この変成作用を説明可能なテクトニクスのフレームワークが必要である.
引用文献:
Holland and Blundy (1994) Contrib. Mineral. Petrol., 116, 433-477.
Ueda et al. (2017) IsArc, 26, e12199.
Yamamoto et al. (2022) Int. Geol. Rev., 64, 425.
山本ほか (2024) 地学雑誌, 133, 447.
