Presentation Information
[T6-O-3][Invited] Dynamics of the Tanzawa Metamorphic Rocks Inferred from the Pressure–Temperature Paths of Amphibole
*Tatsu KUWATANI1, Mitsuhiro TORIUMI1 (1. JAMSTEC)
【ハイライト講演】 桑谷氏は、変成作用の累進的脱水作用一般について研究され, 丹沢変成帯についても成果をあげておられる. 本セッションでは, 井之川岳変成複合体(徳之島帯)の変成岩類構成と類似した特徴を有する丹沢変成帯についての最新の研究成果を講演していただく. 本講演は, 徳之島帯の帰属について重要な示唆を与えるものと期待される. ※ハイライト講演とは...
Keywords:
Tanzawa,Collision zone,Amphibole
丹沢山地は、海洋性島弧である伊豆・小笠原弧が本州弧に衝突している伊豆衝突帯に位置している。丹沢深成岩類や変成岩類は、海洋性島弧の中部地殻・上部地殻深部が衝突・付加し露出したものと考えられており、その温度圧力履歴は衝突帯のテクトニクスを議論する上で重要な手がかりとなる。本研究では、緑色片岩中に含まれる角閃石の組成累帯構造に着目し、熱力学相平衡論に基づくギブス法を用いて、岩石の経験した温度圧力履歴を推定した。
丹沢山地では、中央の丹沢深成岩体を取り囲むように、沸石相からプレナイト-パンペリライト相、緑色片岩相、そして角閃岩相に至る塩基性変成岩がドーム状構造をなして分布している。特に深成岩体の南側では、緑色片岩相や角閃岩相において、東西方向から北西-南東方向の面構造が顕著である。緑色片岩中の角閃石は半自形から自形の柱状を示し、しばしば面構造を構成する。深成岩体南側の中央から西部では、角閃石がコアからリムにかけてアクチノ閃石からホルンブレンドを経てチェルマク閃石に変化する組成累帯構造を示す。一方、東部では、逆にチェルマク閃石をコアに持ち、ホルンブレンド、アクチノ閃石へと変化するタイプが観察された。
これらの角閃石の組成累帯構造に対してギブス法を適用し、連続的な温度圧力履歴を推定した。ギブス法では、熱力学相平衡の式に角閃石の化学組成の微小変化を代入し、初期条件からの温度圧力変化を推定する。本研究では、緑色片岩をSiO₂–Al₂O₃–Fe₂O₃–MgO–FeO–CaO–Na₂O–H₂O系でモデル化し、平衡な鉱物組み合わせを角閃石+斜長石+緑簾石+緑泥石+石英+H₂Oと仮定した。系の自由度はギブスの相律により4となり、リムの鉱物組成を参照条件とし、温度圧力条件は600°C, 0.7 GPa付近に設定した。熱力学計算の結果、アクチノ閃石からチェルマク閃石に変化する角閃石は、温度・圧力が共に上昇する前進変成作用を、チェルマク閃石からアクチノ閃石に変化する角閃石は、温度・圧力が共に低下する後退変成作用を示す履歴が得られた。両者を合わせると、温度圧力経路はヘアピン形状をとり、その勾配はおよそ0.3 GPa/100°Cであった。
丹沢深成岩体周辺には同心円状の変成分帯や、接触変成によるホルンフェルス構造が見られることから、従来は深成岩の貫入に起因する接触変成作用が主と考えられてきた。しかし、本研究で得られたヘアピン状の温度圧力履歴は、それのみでは説明できない。特に、前進変成作用時における高温高圧条件までいたる急勾配のdP/dTは、沈み込むスラブが中部地殻から下部地殻にまで達していたことを示唆している。また、低圧部における高い地温勾配は、活動的な島弧同士の衝突と、それにより引き起こされるカコウ岩質中部地殻の部分溶融の可能性を意味する。また、上昇期の温度圧力経路は沈み込み時と類似しており、深成岩の貫入イベント自体が熱構造に大きな影響を与えていないことを示唆する。加えて、この急勾配は、深成岩体の冷却を促した急速な上昇・侵食過程とも整合的である。
本講演においては、地球物理学的な観測結果とも比較しながら伊豆衝突帯のダイナミクスについて議論するとともに、徳之島帯との関連も探っていく予定である。
