Presentation Information
[T1-P-3]Distribution and tectonic evolution of the Latest Archean TTG body from the western Lützow-Holm Complex, East Antarctica
*Nobuhiko Nakano1, Sotaro Baba2, Shin-ichi Kagashima3, Fransiska Ayuni Catur Wahyuandari1 (1. Kyushu University, 2. University of Ryukyus, 3. Yamagata University)
Keywords:
Archean,TTG,Adakite,Lützow-Holm Complex
リュツォ-ホルム岩体はゴンドワナ大陸形成時の造山帯に位置し,大陸集合により形成された変成岩類が広く分布する.本岩体は,インヘリテッドジルコン年代に基づいてユニット区分され,岩体西部には25億年前や20~18億年前の原岩年代をしめす変成岩が分布することが明らかとなってきている(例えば,Dunkley et al., 2020).一方で,現状では原岩形成時期が決定した試料を用いた岩石成因学的解析が十分に行われていない問題点がある.Takahashi et al. (2018) は,約18億年前の原岩年代をしめすアウストホブデの珪長質片麻岩から25億年前のジルコン捕獲結晶を見出し,18億年前の珪長質マグマの成因を25億年前の地殻の再溶融と解釈した.Nakano et al. (2025) は,岩体西部のベルナバネの多様な岩相の全岩化学組成やジルコンHf同位体組成から,19~18億年前の島弧火成活動を追認するとともに,25億年前の原岩がスラブ溶融によって形成されたことを指摘した.本発表では,より広域的にゴンドワナ造山帯内における太古代末期〜古原生代地塊の分布やその形成・進化過程の解明を目的とし,リュツォ-ホルム岩体西部の珪長質片麻岩と関連変成岩類の解析を実施した.
調査対象とした露岩は,ルンドボークスヘッタ,ストランニッバ,インステクレパネ,ヒスタ,ベストホブデである.ルンドボークスヘッタ,ストランニッバ,ヒスタでは主要岩相である輝石片麻岩類,インステクレパネでは露岩南部に分布するザクロ石−黒雲母片麻岩,ベストホブデでは輝石片麻岩とザクロ石−黒雲母片麻岩を対象とした.これらの珪長質片麻岩に加えて,ブロックとして産するマフィックグラニュライや変成輝岩,層状片麻岩として産する砂泥質片麻岩,不調和レイヤーとして産する優白質片麻岩も対象とした.
これらの結果,ヒスタおよびベストホブデを除く,すべての珪長質片麻岩は約25億年前の上部切片年代をしめし,アダカイト質な化学組成をしめすことが明らかとなった.これらの珪長質片麻岩の化学組成は著しく不均質 (例えば,SiO2 =53–73 wt%; K2O=0.7–6 wt%) であるにもかかわらず,ジルコンのHf同位体 (eHf=+3–+8) は均質であることから,すべての試料の起源物質が同一,つまり太古代末期のTTGであり,後の同化作用や変成作用による元素移動が示唆される.一方で,ヒスタの珪長質片麻岩はアダカイト組成をしめさず,その切片年代は約19億年前であり,負のイプシロンHf値(-11–-9)をしめす.ベストホブデは輝石片麻岩を含むすべての岩相で砕屑性ジルコンのプロファイルをしめし,その堆積上限年代は8億年前よりも若い.
年代測定を実施した8試料の苦鉄質岩のうち,原岩年代が得られたものは2試料のみであり,両者とも約25億年の切片年代をしめした.このうち1試料は,Crを約2300 ppm含む変成輝岩である.ルンドボークスヘッタの2試料の泥質片麻岩は堆積上限年代をおよそ25億年前として差し支えなく,28億年前よりも古いPb-Pb年代をしめすジルコンはほとんど検出されなかった.優白質片麻岩のジルコンのインヘリテッドコアは珪長質片麻岩と同じ約25億年前の切片年代をしめすが,オシラトリー累帯構造をしめすものは5.7億年前の年代をしめし,この年代を結晶化年代と解釈できる.これらは極めて低いHf同位体比(eHf=-30–-15)で特徴づけられる.
以上の結果は,25億年前の原岩がリュツォ-ホルム岩体西部において普遍的に存在することをしめしている.また,その全岩化学組成(特にSr/YやLa/Yb)およびHf同位体比から,その成因は海洋スラブの高角度の沈み込みとスラブ溶融,生成したスラブメルトとマントルウェッジとの反応に求めることが可能である.著しく古い砕屑性ジルコン年代が認められないことから,当時は初期島弧テクトニクス場と考えるのが妥当であろう.ヒスタの19億年前の原岩とインステクレパネとストランニッバの5.7億年前の優白質片麻岩のジルコンの低いHf同位体比は,両者の原岩のマグマの起源が25億年前の地殻のリサイクルであることを示唆している.つまり,主に25億年前に形成された地塊は,19億年前の島弧テクトニクス場における下部地殻の再溶融やゴンドワナ大陸形成初期における部分溶融現象を被っている.これらをもとに,本発表ではリュツォ-ホルム岩体における太古代末期〜古原生代地塊の起源についても議論する予定である.
引用文献:[1] Dunkley et al. (2020), Polar Sci. 26, 100606. [2] Nakano et al. (2025), Gondwana Res., 142, 73–91. [3] Takahashi et al. (2018), JAES 157, 245–268.
調査対象とした露岩は,ルンドボークスヘッタ,ストランニッバ,インステクレパネ,ヒスタ,ベストホブデである.ルンドボークスヘッタ,ストランニッバ,ヒスタでは主要岩相である輝石片麻岩類,インステクレパネでは露岩南部に分布するザクロ石−黒雲母片麻岩,ベストホブデでは輝石片麻岩とザクロ石−黒雲母片麻岩を対象とした.これらの珪長質片麻岩に加えて,ブロックとして産するマフィックグラニュライや変成輝岩,層状片麻岩として産する砂泥質片麻岩,不調和レイヤーとして産する優白質片麻岩も対象とした.
これらの結果,ヒスタおよびベストホブデを除く,すべての珪長質片麻岩は約25億年前の上部切片年代をしめし,アダカイト質な化学組成をしめすことが明らかとなった.これらの珪長質片麻岩の化学組成は著しく不均質 (例えば,SiO2 =53–73 wt%; K2O=0.7–6 wt%) であるにもかかわらず,ジルコンのHf同位体 (eHf=+3–+8) は均質であることから,すべての試料の起源物質が同一,つまり太古代末期のTTGであり,後の同化作用や変成作用による元素移動が示唆される.一方で,ヒスタの珪長質片麻岩はアダカイト組成をしめさず,その切片年代は約19億年前であり,負のイプシロンHf値(-11–-9)をしめす.ベストホブデは輝石片麻岩を含むすべての岩相で砕屑性ジルコンのプロファイルをしめし,その堆積上限年代は8億年前よりも若い.
年代測定を実施した8試料の苦鉄質岩のうち,原岩年代が得られたものは2試料のみであり,両者とも約25億年の切片年代をしめした.このうち1試料は,Crを約2300 ppm含む変成輝岩である.ルンドボークスヘッタの2試料の泥質片麻岩は堆積上限年代をおよそ25億年前として差し支えなく,28億年前よりも古いPb-Pb年代をしめすジルコンはほとんど検出されなかった.優白質片麻岩のジルコンのインヘリテッドコアは珪長質片麻岩と同じ約25億年前の切片年代をしめすが,オシラトリー累帯構造をしめすものは5.7億年前の年代をしめし,この年代を結晶化年代と解釈できる.これらは極めて低いHf同位体比(eHf=-30–-15)で特徴づけられる.
以上の結果は,25億年前の原岩がリュツォ-ホルム岩体西部において普遍的に存在することをしめしている.また,その全岩化学組成(特にSr/YやLa/Yb)およびHf同位体比から,その成因は海洋スラブの高角度の沈み込みとスラブ溶融,生成したスラブメルトとマントルウェッジとの反応に求めることが可能である.著しく古い砕屑性ジルコン年代が認められないことから,当時は初期島弧テクトニクス場と考えるのが妥当であろう.ヒスタの19億年前の原岩とインステクレパネとストランニッバの5.7億年前の優白質片麻岩のジルコンの低いHf同位体比は,両者の原岩のマグマの起源が25億年前の地殻のリサイクルであることを示唆している.つまり,主に25億年前に形成された地塊は,19億年前の島弧テクトニクス場における下部地殻の再溶融やゴンドワナ大陸形成初期における部分溶融現象を被っている.これらをもとに,本発表ではリュツォ-ホルム岩体における太古代末期〜古原生代地塊の起源についても議論する予定である.
引用文献:[1] Dunkley et al. (2020), Polar Sci. 26, 100606. [2] Nakano et al. (2025), Gondwana Res., 142, 73–91. [3] Takahashi et al. (2018), JAES 157, 245–268.
