Presentation Information
[T2-P-8]Low fluid pressure ratio near the center of radial dikes: A case from the Amakusa Islands, western Japan
*Kentaro USHIMARU1 (1. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), Geological Survey of Japan)
Keywords:
magma pressure,paleostress inversion,local stress,Middle Miocene,Setouchi Volcanic Rocks
岩脈や岩床といった板状貫入岩体の方向は、広域応力場だけでなく地形荷重やマグマだまりに起因する局所応力場にも支配される[1, 2].放射状から平行状に遷移する岩脈群はその代表例であり、火道ないしマグマだまりの圧力と広域応力の重ね合わせを反映した構造とされてきた[3, 4].しかし,こうした岩脈群の弾性論による解析では,中心部に非常に高いマグマ圧が必要となる問題がある.例えば九州西部,天草諸島の放射状岩脈群ではマグマ圧が上載岩圧の約4倍だったと推定された[5].
本当にマグマ圧が上載岩圧を上回るなら,水平な割れ目にもマグマが貫入し,低角な岩脈・岩床群も形成されるだろう.この仮説を検証すべく,本研究では放射状岩脈の中心近傍における岩脈の方向分布を測定・解析し,応力状態を推定した.研究対象は,天草諸島に分布する中期中新世の貫入岩類である.これらは始新統および上部白亜系に貫入した流紋岩質~安山岩質の岩脈・岩床・岩株で,瀬戸内火成活動の西方延長と考えられている[6, 7].複数の岩株が露出する富岡半島から約15 kmの範囲では岩脈群は放射状をなし,遠方では東西方向に配列する[5].
ところで最近,この天草の貫入岩類が褶曲による傾動を被ったことが古地磁気研究により示されたが[8],先行研究[5]は傾動補正をせずに解析していた.そこで,富岡半島および天草全域のデータを,母岩の始新統が水平になるよう傾動補正した上で,混合ビンガム分布法[9]を用いて解析をした.
富岡半島の海岸沿いで計41枚の岩脈・岩床の方向を測定した結果,岩脈40枚の傾斜は60~90°と高角で,低角度な岩体は約30°傾斜の岩床1枚だけであった.走向はばらつくものの,全体として半島中央部の花崗閃緑岩体を中心として放射状をなす傾向がみられた.傾動補正すると岩脈群はより鉛直に近くなった.
富岡半島北西岸のデータを解析した結果,最大主応力軸が鉛直で応力比0.16の軸性圧縮に近い応力が得られ,代表的な駆動流体圧比[10]は0.19と低かった.また,天草の他区域の岩脈群も再解析をしたところ,傾動補正なしの解析結果[5]とおおむね一致した.特に平行岩脈群からは広域応力とみなせる南北引張の正断層型応力が得られた.
マグマ圧の半定量的評価として,流体圧比(マグマ圧/上載岩圧)の制約を試みた.天草諸島周辺の古第三系の厚さをふまえると[11, 12],岩脈群は少なくとも深度3 kmで貫入しただろう.この深度では平均側圧比(平均水平応力/鉛直応力)は1/3~1の範囲に収束する傾向がある[13, 14].この仮定と古応力解析の結果をもとに導出した流体圧比は,富岡半島では0.4~0.9であり,これは弾性論による推定値より明らかに小さい.また,天草全域でみても流体圧比に中心からの距離による減少傾向はみられなかった.これらの結果は,中心の高いマグマ圧のみで放射状に貫入するという力学像とは不調和である.やはりマグマ圧だけでなく他の要因による局所応力[15, 16]の寄与が必要なのだろう.
1. Gudmundsson, 2006, Earth Sci. Rev., 79 1–31. 2. Marti et al., 2016, Front. Earth Sci.,4, 106. 3. Odé, 1957, GSA Bull., 68, 567–576. 4. Mériaux & Lister, 2002, J. Geophys. Res., 107, ETG10-1–ETG10-10. 5. Ushimaru & Yamaji, 2022, J. Struct. Geol., 154, 104485. 6. 永尾ほか, 1992, 岩鉱, 87, 283‒290. 7. Shinjoe et al., 2024, Isl. Arc, 33, e12506. 8. Ushimaru et al., 2024, Isl. Arc, 33, e12528. 9. Yamaji & Sato, 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148–1157. 10. Faye et al., 2018, J. Struct. Geol., 110, 131-141. 11. 岩田・亀尾, 2001, 石技誌, 66, 278–291. 12. Ushimaru et al., 2024, Isl. Arc, 33, e12511. 13. Brown & Hoak, 1978, Int. J. Rock. Mech. Min. Sci. Geomech Abstr, 15, 211–215. 14. Zang & Stephansson, 2010, Stress in the Earth’s lithosphere, Heidelberg: Springer. 15. Roman & Jaupart, 2014, Earth. Planet. Sci. Lett., 408, 1–8. 16. McGovern et al., 2013, JGR Planets, 118, 2423–2437.
本当にマグマ圧が上載岩圧を上回るなら,水平な割れ目にもマグマが貫入し,低角な岩脈・岩床群も形成されるだろう.この仮説を検証すべく,本研究では放射状岩脈の中心近傍における岩脈の方向分布を測定・解析し,応力状態を推定した.研究対象は,天草諸島に分布する中期中新世の貫入岩類である.これらは始新統および上部白亜系に貫入した流紋岩質~安山岩質の岩脈・岩床・岩株で,瀬戸内火成活動の西方延長と考えられている[6, 7].複数の岩株が露出する富岡半島から約15 kmの範囲では岩脈群は放射状をなし,遠方では東西方向に配列する[5].
ところで最近,この天草の貫入岩類が褶曲による傾動を被ったことが古地磁気研究により示されたが[8],先行研究[5]は傾動補正をせずに解析していた.そこで,富岡半島および天草全域のデータを,母岩の始新統が水平になるよう傾動補正した上で,混合ビンガム分布法[9]を用いて解析をした.
富岡半島の海岸沿いで計41枚の岩脈・岩床の方向を測定した結果,岩脈40枚の傾斜は60~90°と高角で,低角度な岩体は約30°傾斜の岩床1枚だけであった.走向はばらつくものの,全体として半島中央部の花崗閃緑岩体を中心として放射状をなす傾向がみられた.傾動補正すると岩脈群はより鉛直に近くなった.
富岡半島北西岸のデータを解析した結果,最大主応力軸が鉛直で応力比0.16の軸性圧縮に近い応力が得られ,代表的な駆動流体圧比[10]は0.19と低かった.また,天草の他区域の岩脈群も再解析をしたところ,傾動補正なしの解析結果[5]とおおむね一致した.特に平行岩脈群からは広域応力とみなせる南北引張の正断層型応力が得られた.
マグマ圧の半定量的評価として,流体圧比(マグマ圧/上載岩圧)の制約を試みた.天草諸島周辺の古第三系の厚さをふまえると[11, 12],岩脈群は少なくとも深度3 kmで貫入しただろう.この深度では平均側圧比(平均水平応力/鉛直応力)は1/3~1の範囲に収束する傾向がある[13, 14].この仮定と古応力解析の結果をもとに導出した流体圧比は,富岡半島では0.4~0.9であり,これは弾性論による推定値より明らかに小さい.また,天草全域でみても流体圧比に中心からの距離による減少傾向はみられなかった.これらの結果は,中心の高いマグマ圧のみで放射状に貫入するという力学像とは不調和である.やはりマグマ圧だけでなく他の要因による局所応力[15, 16]の寄与が必要なのだろう.
1. Gudmundsson, 2006, Earth Sci. Rev., 79 1–31. 2. Marti et al., 2016, Front. Earth Sci.,4, 106. 3. Odé, 1957, GSA Bull., 68, 567–576. 4. Mériaux & Lister, 2002, J. Geophys. Res., 107, ETG10-1–ETG10-10. 5. Ushimaru & Yamaji, 2022, J. Struct. Geol., 154, 104485. 6. 永尾ほか, 1992, 岩鉱, 87, 283‒290. 7. Shinjoe et al., 2024, Isl. Arc, 33, e12506. 8. Ushimaru et al., 2024, Isl. Arc, 33, e12528. 9. Yamaji & Sato, 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148–1157. 10. Faye et al., 2018, J. Struct. Geol., 110, 131-141. 11. 岩田・亀尾, 2001, 石技誌, 66, 278–291. 12. Ushimaru et al., 2024, Isl. Arc, 33, e12511. 13. Brown & Hoak, 1978, Int. J. Rock. Mech. Min. Sci. Geomech Abstr, 15, 211–215. 14. Zang & Stephansson, 2010, Stress in the Earth’s lithosphere, Heidelberg: Springer. 15. Roman & Jaupart, 2014, Earth. Planet. Sci. Lett., 408, 1–8. 16. McGovern et al., 2013, JGR Planets, 118, 2423–2437.
