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[T2-P-9]Formation history of Akita-Komagatake, Northeast Japan

*Shota TAJI1, Mitsuhiro NAKAGAWA1, Takeshi WACHI2, Akiko Matsumoto1, Takeshi KURITANI1 (1. Hokkaido University, 2. EnBio Engineering Inc.)
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Keywords:

formation history,tephrostratigraphy,Sr-Nd-Pb isotopic ratio,Akita-Komagatake volcano

 火山の噴火履歴や火山体の構造・発達史は、マグマの発生や進化といった火山深部プロセスを理解する上で重要な基礎情報となる。本研究の対象である秋田駒ケ岳は、東北日本に位置する活火山である。本火山の南北斜面にはそれぞれカルデラが形成されており(南部カルデラ・北部カルデラ)、その内部には後カルデラ山体が認められる。本火山に関しては、噴火史や山体構造に関する多くの研究があるが[例:1]、テフラと山体構成物の対比については、統一的な解釈が未確立であった。本研究では、従来の火山地質学的手法に多様な手法を加えることで、本火山の発達史を解明した。
まず、1 m DEMをもとに作成した赤色立体地図を用いて、カルデラや火口地形、噴出物の被覆関係、微地形の保存状況を解析し、山体の構造や発達過程、噴出物の分布を明らかにした。次に地表踏査では、地形解析結果の確認や露頭観察に加え、トレンチ調査やボーリング掘削調査も併用することで、被覆関係や噴火様式・推移を明らかにし、同時に試料採取も行った。また、テフラ層序学は噴火様式の解明に加えて、噴火履歴に時間軸を導入できる点でも重要である。本火山では、更新世末期以降のテフラとして、上位からAK1~AK13の13ユニットが識別されており[2]、我々は層序を再確認するとともに、系統的にテフラ試料を採取した。その後、山体構成物とテフラを対比した。対比にあたり、従来の研究で用いられてきた岩相や全岩組成といった岩石学データに加え、希土類を含む微量成分やSr-Nd-Pb同位体比といった地球化学データも用いた。本火山の噴出物は玄武岩~安山岩組成を示し、Sr同位体比(87Sr/86Sr比)に基づいて、0.70395–0.70406の「低Srタイプ」と、0.70409–0.70433の「高Srタイプ」に分類できた。テフラに注目すると、AK13–12は高Srタイプ、AK11–8は低Srタイプ、AK7–1は再び高Srタイプに区分された。さらにNd同位体比(143Nd/144Nd比)を見ると、同じ高Srタイプであっても、AK13–12は低Nd同位体比を示すことで、AK7–1と区別できた。加えて、主成分・微量成分の組成により、同一タイプのテフラ相互の識別も可能であった。山体構成物についても、テフラと同じタイプ分類ができることが分かった。このように、本研究では多項目の岩石学・地球化学データをもとに、マグマタイプの多様性とその時間変化を明らかにすることで、テフラと山体構成物をより高精度に対比できた。
以上の結果から本火山の発達史を以下のように構築した。まず、14–13 kaの2度の大規模な爆発的噴火により、南部カルデラが形成され(AK13-12)、その直後に山体崩壊により北部カルデラも形成された。後カルデラ活動は北部カルデラ内で始まり、12–9.5 kaに片倉岳山体を形成後(AK11-9)、9 kaに火砕流を伴う爆発的噴火が発生した(AK8)。8 ka以降は男女岳を代表とする複数の山体を形成し(AK7)、7 kaには再び火砕流を伴う爆発的噴火が発生した(AK6)。3.5 ka以降は小規模な(マグマ)水蒸気噴火を繰り返した(AK5, 4)。その後、活動は南部カルデラ内へ移り、2 kaには火砕丘を形成したと考えられる(AK3)。そして1.5 kaと1,2 kaに女岳(AK2)と小岳(AK1)が活動した後、西暦1932年と1970–71年に噴火した。本研究により、秋田駒ケ岳の発達史に時間軸を導入することに成功した。
この成果は、火山活動とマグマの時間変遷の関係といった火山深部プロセスの理解を深めるだけでなく、例えばマグマ噴出量階段図の精度向上を通じて、火山活動の予測や防災面での貢献も期待できる。
引用文献[1]田次・他, 2023, 火山, 68, 207-228. [2]和知・他, 1997, 火山, 42, 17-34.