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[T2-P-21]Geochemical study of Late Cretaceous Yasu Granite in southern Part of Lake Biwa Area, Japan

*Kazuki NAKAMURA1, Kazuya SHIMOOKA1, Motohiro TSUBOI1 (1. Kwansei Gakuin Univ.)
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Keywords:

Cretaceous granitoids,Whole-rock chemical composition,Yasu Granite

 滋賀県琵琶湖周辺には後期白亜紀に形成された花崗岩質岩体が環状に分布している。これらの岩体は黒雲母のK-Ar年代より鈴鹿、比叡岩体は100-90 Maの古期花崗岩類、比良、田上、野洲岩体は80-70 Maの新期花崗岩類に区別される(沢田・板谷, 1993)。西川ほか(1983)や周琵琶湖花崗岩団体研究グループ(2000)により、湖東流紋岩が分布する東縁部には陥没構造が存在することが示唆され、湖東、琵琶湖コールドロンの存在が示唆されている。本研究で扱った野洲花崗岩体は環状岩体の最も内側に存在し、厳密には環状岩体に属さない。細野・牧野(2002)より、組織によって下部相、主岩相、上部相に分類され、岩相分布、記載岩石学的特徴、全岩化学組成、斜長石の鉱物化学組成が報告されている。周琵琶湖花崗岩団体研究グループ(2005)では主岩相は中粒黒雲母花崗岩(一部斑状)-細粒黒雲母花崗岩であり、細野・牧野(2002)で存在するとされている斑岩相は天井相としての細粒斑状花崗岩であることを指摘している。また、本岩体では下部相から上部相にかけて含水量が低下するとともに、マグマ固結時に脱ガスによる水蒸気圧力低下による過冷却が起こったとされている(細野・牧野, 2002)。全岩化学組成は主成分元素と一部の微量成分元素の測定が行われているのみであり(細野・牧野, 2002 ; 周琵琶湖花崗岩団体研究グループ, 2005)、全岩化学組成に基づく詳細なマグマ溜まりプロセスの検討は行われていない。そこで、本研究では野洲花崗岩体について、全岩化学組成分析を実施し、化学組成の特徴を把握するとともに、微量成分元素組成、希土類元素組成の特徴から野洲花崗岩体のマグマ過程について考察を行った。 野洲花崗岩体から25試料採取し、蛍光X線分析装置で主成分元素10元素と微量成分元素14元素について分析を行った。SiO2は69.9-77.8 wt.%の範囲を示した。主成分元素の挙動はハーカー図上において、SiO2の増加に伴って、Fe2O3、MnO、TiO2、CaO、MgO、P2O5は明らかな減少傾向を示し、Al2O3、Na2Oはわずかに減少傾向を示し、K2Oはわずかに増加傾向を示した。また、MgOは0.1-0.3 wt.%、CaOは0.5-1.9 wt.%と非常に低い値を示した。量成分元素は、ハーカー図上でZr、Sr、Co、Cr、VがSiO2の増加に伴い減少傾向を示し、Rbが減少傾向を示した。また、Baの含有量は中粒岩相、細粒岩相で分化が進むにつれて急激に減少した(図)。これらの結果は細野・牧野(2002)や周琵琶湖花崗岩団体研究グループ(2005)と調和的である。野洲花崗岩体にはペグマタイト中の石英中に液相包有物が存在することが報告されている(牧野ほか, 2021)。本研究における粗粒岩相における高いBa含有量はマグマ固結時の流体相の影響によるものであると考えられる。また、Ba含有量が中粒、細粒岩相で分化が進むにつれて急激に減少することは、Baが脱ガスの際に流体相とともに取り去られたためであると考えられる。一方で、上部地殻の平均化学組成で規格化したパターン図上、CIコンドライトで規格化したREEパターン図上では、全ての試料が類似したパターンを示した。これらの地球化学的特徴は野洲花崗岩が単一の珪長質マグマだまりから形成され、その後の結晶化プロセスと脱ガスにより組成を多様化させたことを示唆する。
参考文献
細野・牧野, 2002, 地質学雑誌, 108, 1-15
牧野ほか, 2021, 琵琶湖博物館研究調査報告, 30, 123-131
西川ほか, 1983, 岩石鉱物鉱床学会誌, 77, 51-64
沢田・板谷, 1993, 地質学雑誌, 99, 975-990
周琵琶湖花崗岩団体研究グループ, 2000, 地球科学, 54, 380-392
周琵琶湖花崗岩団体研究グループ, 2005, 地球科学, 59, 89-102