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[T2-P-24]Magma diversity of Hakone volcano based on multivariate statistical analysis of lava compositions

*Xin Liao1, Hikaru Iwamori1, Shuhei Sakata1, Masaki Takahashi2, Masashi Nagai 3 (1. Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, 2. Department of Earth and Environmental Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University, 3. National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience)
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Keywords:

Volcano,Geochemistry,Multivariate statistical analysis

 箱根火山は、伊豆島弧と東北日本島弧の衝突帯に位置する第四紀の火山であり、日本列島の火山の典型例とされている。中~小規模の成層火山、単成火山、カルデラ、火砕流堆積体などからなる複雑な火山群であり、その構造は極めて多様である。溶岩組成・マグマ系列も多様であり、ソレアイト系列およびカルクアルカリ系列を含み、玄武岩質~流紋岩質までの幅広い組成幅が見られる(高橋・内藤ほか,2006)。これらの特徴は、活発かつ複雑なテクトニクス場における火山であること、ならびにその65万年におよぶ形成史を反映していると考えられる(長井・高橋,2008;山口・山下ほか,2021)。箱根火山に関しては、これまで岩石学的研究は蓄積されているものの、微量元素濃度や同位体比に関するデータは著しく不足している。マグマの生成・移動・分化・噴出のメカニズムは十分に明らかになっておらず、また、マグマおよび噴出物(溶岩・火山灰)の化学的多様性やその層序・時間変化についても未解明である。従来は、主に主成分濃度に基づく質量収支解析によって、結晶分別や同化などの仮定メカニズムの検証が行われてきたが(Kuno, 1950)、これらは既存モデルの範囲に留まり、データ中に潜む予期せぬ、または未知のプロセスの抽出には限界がある。本研究では、箱根火山の噴出物を対象に、主成分元素・微量元素・同位体比の包括的な分析を進めている。並行して、得られたデータに対して成分および時間的構造を抽出し、無教師機械学習(白色化クラスタ解析、独立成分分析)を用いた数値解析手法を開発することで、実際の地質プロセスとの対応関係を明らかにし、火山活動のメカニズムをデータから推定することを目指している。本研究の対象データセットは、高橋・内藤ほか(2006)、長井・高橋(2007, 2008)、山口・山下ほか(2021)による先行研究に基づいて作成されたものである。長井・高橋(2007, 2008)は、XRFによって測定された主要元素濃度データ、および中央火口丘の一部サンプルに関しては微量元素濃度データも報告している。これらのデータに基づき、主要元素濃度を含む1114件のデータセットが得られた。また、本データセットに含まれるテキスト情報を長井・高橋(2007)による箱根火山の地質史と照合することで、全てのサンプルに対して地質ステージを付与した。主成分データにはまず、総和100%による閉鎖効果を除去するためにCLR変換を行った。次に、各変数を平均0・標準偏差1に標準化し、スケールの違いによる影響を排除した。さらに、白色化処理により共分散行列を単位行列に変換し、変数間の相関を除去した。前処理後のデータに対してK-meansクラスタリングを実施し、クラスタ数はPCAによる次元削減(3次元、累積寄与率88.4%)とICAによるクラスタ分布の軸方向整合性に基づいてk=6と決定した。最終的に、箱根火山全域のサンプルは6つのクラスタに分類された。このクラスタ分類と長井・高橋(2007, 2008)が提唱した箱根火山の地質発展段階との間には、ある程度の潜在的関係性が認められる。例えば、第2ステージ(玄武岩〜安山岩質成層火山群の形成期:約35万〜約27万年前)では、クラスタ3が最大の割合を占めている。クラスタ3は箱根火山全体の中で最も低いSiO2濃度を示し、CaOおよびMgOが高く、苦鉄質で分化度の低いマグマを反映していると考えられる。さらに、Na2OおよびK2Oが低く、貧アルカリ性の特徴を持つことから、クラスタ3は火山活動初期のマグマを代表している可能性が高い。第3および第4ステージでは、クラスタ4が主導的な割合を占めている。クラスタ4はSiO2濃度が中程度で、中性〜中酸性のマグマに相当し、Na2O・K2Oも平均的でアルカリ性の偏りは見られない。一方、TiO2およびP2O5の濃度が高く、Tiに富むチタン鉄鉱やPに富む燐灰石などの鉱物を含む可能性がある。これらの特徴から、クラスタ4は比較的分化が進んだマグマを反映していると考えられる。第5および第6ステージでは、クラスタ1が支配的である。クラスタ1はSiO2、Na2O、K2Oが高く、MgO、FeO、CaO、TiO2が低いという特徴を持ち、高度に分化した中酸性マグマに対応する。一方で、一部の溶岩には直方輝石や単斜輝石、さらに斑状のカンラン石を含む例もあり、異なるマグマ系列の干渉や混合が関与していた可能性が示唆される。今後、岩石学的なモデリングにより、各クラスタの主成分元素の特徴を定量的に解析する。また、微量元素および同位体比組成と統合することにより、マグマの成因および火山発達史を議論予定である。

参考文献:
Kuno,H.(1950).Geology of Hakone volcano and adjacent areas.Part I. Journal of the Faculty of Science,University of Tokyo.SectionII,Geology,Mineralogy,Geography,Geophysics,7,257–279.

高橋正樹,内藤昌平,中村直子,&長井雅史.(2006).箱根火山前期·後期中央火口丘噴出物の全岩化学組成.日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要,41,151–186.

長井雅史,&高橋正樹.(2007).箱根火山外輪山噴出物の全岩主化学組成.日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要,42,71–95.

長井雅史,&高橋正樹.(2008).箱根火山の地質と形成史.神奈川県立博物館調査研究報告 (自然),13,25–42.

山口珠美,山下浩之,萬年一剛,&小林淳.(2021).箱根火山の地質と形成史:最近の研究レビュー.神奈川博調査研報(自然),2021,16,137-160.