Presentation Information
[T12-P-6]Organic matter identified in fossil mayfly nymph and its implications
*Yoshitaka ITAKURA1, Gengo TANAKA1, Rika KIKUCHI2 (1. Kumamoto Univ., 2. Shinshu Univ.)
Keywords:
Fossil Lagerstätten,Pleistocene,Fossil insect,taphonomy,organic matter
栃木県那須塩原市に分布する中部更新統塩原層群宮島層は非常に保存状態の良い植物・昆虫化石を産出することで知られ, 日本における保存的化石鉱脈の代表例である. しかし, 産出する化石についてのタフォノミー的な研究は少なく, 未解明な点が多い. 本研究では, 水棲昆虫であるカゲロウ幼虫に着目し, 無機物および有機物分析をおこない, 岩相とともに保存状態を検討した.
宮島層が堆積したカルデラ湖の中心部に位置する「木の葉化石園」内の露頭を精査し, 昆虫を多産する層準をつきとめた. カゲロウ幼虫化石は182個体得られ, 葉理の発達した灰色シルト質泥岩ないし珪質泥岩に含まれていた. シルト質泥岩から産出した2標本, 珪質泥岩から産出した2標本を対象に, 九州大学中央分析センターの微小部X線分析装置(XGT-9000)を用いて元素マッピングをおこなった. その結果, カゲロウ幼虫の化石は, 化石表面にSとFeが濃集するものと, 化石表面でSとFeが欠乏するものの2タイプに分けられた. 後者は珪質泥岩に含まれる化石のみで確認された. また, 粘土鉱物を構成するAl, Si, K, Cも化石表面で欠乏していた. このように化石表面で無機元素がいちじるしく欠乏することから, 生物の死骸が無機鉱物によって交代作用を受けることなく化石化し, カゲロウ幼虫オリジナルの有機物が, 化石として保存されていると考えられる. そこで, 信州大学基盤研究支援センター長野分室の飛行型二次イオン質量分析装置(TOF.SIMS 5)を用いて, 化石試料極表面の有機物分析をおこなった. その結果, 化石試料の表面からキチンおよびD-グルコサミンに同定される複数のピークが検出された. 加えて, m/z;282 ~ 496の範囲で, キチン標準物質と一致しない複数のピークが検出された.
カゲロウ幼虫化石の元素マッピングおよびデジタルマイクロスコープによる観察から, 産出した化石のほとんどは化石表面にSとFeが濃集していることが明らかとなった. このことはカゲロウ幼虫の軟体部が黄鉄鉱に交代され, 従来の軟体部保存を示す化石のように保存されたことを示す. 一方, Al, Si, S, K, Ca, Feが化石表面で欠乏する試料は, 硫化鉱物や粘土鉱物による交代作用を受けていないと考えられる. TOF-SIMSによって検出されたキチンとD-グルコサミンは, 昆虫の外骨格を形成する主成分である. このことから, カゲロウ幼虫化石にはカゲロウ幼虫オリジナルの有機物が保存されていると考えられる. また, キチン標準物質と一致しないピークは, キチン質とタンパク質が結合した生体物質の可能性があり, 今後その正体を特定する必要がある.
本研究により, 塩原層群宮島層産のカゲロウ幼虫化石の多くは, 黄鉄鉱に交代されているが, 一部の標本にはオリジナルの生体有機物が保存されていることが判明した. 化石に残された生体由来の有機物から, 有機物の腐敗, そして鉱化へと, 段階的なタフォノミーの検討が可能となる.
宮島層が堆積したカルデラ湖の中心部に位置する「木の葉化石園」内の露頭を精査し, 昆虫を多産する層準をつきとめた. カゲロウ幼虫化石は182個体得られ, 葉理の発達した灰色シルト質泥岩ないし珪質泥岩に含まれていた. シルト質泥岩から産出した2標本, 珪質泥岩から産出した2標本を対象に, 九州大学中央分析センターの微小部X線分析装置(XGT-9000)を用いて元素マッピングをおこなった. その結果, カゲロウ幼虫の化石は, 化石表面にSとFeが濃集するものと, 化石表面でSとFeが欠乏するものの2タイプに分けられた. 後者は珪質泥岩に含まれる化石のみで確認された. また, 粘土鉱物を構成するAl, Si, K, Cも化石表面で欠乏していた. このように化石表面で無機元素がいちじるしく欠乏することから, 生物の死骸が無機鉱物によって交代作用を受けることなく化石化し, カゲロウ幼虫オリジナルの有機物が, 化石として保存されていると考えられる. そこで, 信州大学基盤研究支援センター長野分室の飛行型二次イオン質量分析装置(TOF.SIMS 5)を用いて, 化石試料極表面の有機物分析をおこなった. その結果, 化石試料の表面からキチンおよびD-グルコサミンに同定される複数のピークが検出された. 加えて, m/z;282 ~ 496の範囲で, キチン標準物質と一致しない複数のピークが検出された.
カゲロウ幼虫化石の元素マッピングおよびデジタルマイクロスコープによる観察から, 産出した化石のほとんどは化石表面にSとFeが濃集していることが明らかとなった. このことはカゲロウ幼虫の軟体部が黄鉄鉱に交代され, 従来の軟体部保存を示す化石のように保存されたことを示す. 一方, Al, Si, S, K, Ca, Feが化石表面で欠乏する試料は, 硫化鉱物や粘土鉱物による交代作用を受けていないと考えられる. TOF-SIMSによって検出されたキチンとD-グルコサミンは, 昆虫の外骨格を形成する主成分である. このことから, カゲロウ幼虫化石にはカゲロウ幼虫オリジナルの有機物が保存されていると考えられる. また, キチン標準物質と一致しないピークは, キチン質とタンパク質が結合した生体物質の可能性があり, 今後その正体を特定する必要がある.
本研究により, 塩原層群宮島層産のカゲロウ幼虫化石の多くは, 黄鉄鉱に交代されているが, 一部の標本にはオリジナルの生体有機物が保存されていることが判明した. 化石に残された生体由来の有機物から, 有機物の腐敗, そして鉱化へと, 段階的なタフォノミーの検討が可能となる.
