Presentation Information
[T12-P-11]Abundant discovery of MISS from the Nishinakayama Formation of the Toyoura Group and its implications for future research
*Kohsuke KAWABATA1, Ryosuke SAITO1 (1. YAMAGUCHI Univ.)
Keywords:
Early Jurassic,Toarcian Oceanic Anoxic Event,microbially induced sedimentary structures
本研究は、下部ジュラ系豊浦層群西中山層から、MISS(microbially induced sedimentary structures)を初めて報告するものであり、本地域におけるジュラ紀前期環境変動の研究に、新たな視点を提供する。
MISSは先カンブリア時代から現在にかけて観察される、バイオマットにより形成された堆積構造である(1)。バイオマットを構成する高い移動性を持つ細菌は、浸食に対する応答として、有機質のメッシュ状構造に堆積粒子を取り込み、細胞外高分子を分泌して堆積物を安定化させる (1)。このような過程により、堆積面に垂直な断面では、典型的なMISSの構造の一つとして、フィラメント状の微細な組織が堆積粒子を取り込むようにネットワークを形成する組織が生じる。これは、堆積当時のバイオマットの構造を反映していると考えられている(1) (2)。また、堆積速度が遅い期間に堆積面上に発達したバイオマットは、堆積物に覆われると新たな堆積面へ移動し、再びバイオマットを形成する(1) このような性質から、MISSは形成当時の堆積面構造を保存している可能性がある(1)。
トアルシアン海洋無酸素事変 (Toarcian Oceanic Anoxic Event=T-OAE, ∼183 Ma) (3)は、海洋の無酸素化(3)、メタンハイドレートの溶解(4)、海洋生物の絶滅率の上昇(5)、大陸風加速度の上昇と水循環の強化(6)などを伴う地球温暖化イベントである。T-OAEは大気―海洋系において、有機物炭素同位体比で-5∼-7‰、炭酸塩同位体比で-3∼-6‰という、顕生代最大規模の炭素同位体比負異常 (Carbon Isotope Excursion=CIE)で特徴づけられる(4)。T-OAEは全球規模の温暖化イベントであるが、その環境変動の規模には顕著な地域差が報告されている(6)。しかしながら、T-OAEの研究地域はテチス海の浅海域に集中しており、当時最大の海洋であるパンサラッサ海域からの報告に乏しいことから、T-OAEが及ぼした全球的な影響には不明な点が多い。
本研究地域である豊浦層群西中山層は、山口県下関市豊浦地域に分布するパンサラッサ海北西縁周辺地域に堆積したジュラ紀前期の大陸棚堆積物である(7)。西中山層からはT-OAEにおけるCIEが詳細に報告され(8)、パンサラッサ海域におけるT-OAE研究において特に重要な地域である。本研究では西中山層において、T-OAEを含む、プリンスバッキアン後期からトアルシアン前期に相当する層厚約90 mの範囲から、薄片観察によりMISSの断面構造を記載した。結果、調査範囲の多くの層準において、非常に発達したMISSが発見された。MISSは生物擾乱が弱い層準において顕著であるが、強い生物擾乱を受けた堆積物中においても、MISSと考えられる断片化したフィラメント状構造が見られた。MISS が発達していることから、西中山層ではT-OAE以前から、腹足類などの堆積面表層の有機物を摂食する生物に乏しい環境が支配的であったことが示唆される。また、MISSは堆積物の供給速度や堆積環境の変化に対するバイオマットの応答を記録している可能性があり、T-OAEを含む、プリンスバッキアンからトアルシアンにかけての地域的な環境変動を議論するうえで、重要な指標として活用できる可能性がある。さらに、MISSは化石の保存性を高める可能性が示唆されている(9)ことから、西中山層の豊富な化石の産出に寄与している可能性がある。
引用文献
(1) Noffke, N., 2009. Earth-Science Reviews, 96 173-180.
(2) Noffke, N., et al., 2013. Astrobiology, 13 1103-1124.
(3) Jenkyns, H.C., 1988. American Journal of Science 288 101-151.
(4) Hesselbo, S.P., et al., 2000. Nature 406 392-395.
(5) Little, C.T.S., Benton, M.J., 1995. Geology 23 495-498.
(6) Kemp, D.B., et al., 2020 Geology 48 976-980.
(7) Yamada, T., Ohno, T., 2005. The Geological Society of Japan 111 389-403.
(8) Izumi, K., et al., 2012. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 315 100-108.
(9) Seilacher, A., 2008. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 270 252-257.
MISSは先カンブリア時代から現在にかけて観察される、バイオマットにより形成された堆積構造である(1)。バイオマットを構成する高い移動性を持つ細菌は、浸食に対する応答として、有機質のメッシュ状構造に堆積粒子を取り込み、細胞外高分子を分泌して堆積物を安定化させる (1)。このような過程により、堆積面に垂直な断面では、典型的なMISSの構造の一つとして、フィラメント状の微細な組織が堆積粒子を取り込むようにネットワークを形成する組織が生じる。これは、堆積当時のバイオマットの構造を反映していると考えられている(1) (2)。また、堆積速度が遅い期間に堆積面上に発達したバイオマットは、堆積物に覆われると新たな堆積面へ移動し、再びバイオマットを形成する(1) このような性質から、MISSは形成当時の堆積面構造を保存している可能性がある(1)。
トアルシアン海洋無酸素事変 (Toarcian Oceanic Anoxic Event=T-OAE, ∼183 Ma) (3)は、海洋の無酸素化(3)、メタンハイドレートの溶解(4)、海洋生物の絶滅率の上昇(5)、大陸風加速度の上昇と水循環の強化(6)などを伴う地球温暖化イベントである。T-OAEは大気―海洋系において、有機物炭素同位体比で-5∼-7‰、炭酸塩同位体比で-3∼-6‰という、顕生代最大規模の炭素同位体比負異常 (Carbon Isotope Excursion=CIE)で特徴づけられる(4)。T-OAEは全球規模の温暖化イベントであるが、その環境変動の規模には顕著な地域差が報告されている(6)。しかしながら、T-OAEの研究地域はテチス海の浅海域に集中しており、当時最大の海洋であるパンサラッサ海域からの報告に乏しいことから、T-OAEが及ぼした全球的な影響には不明な点が多い。
本研究地域である豊浦層群西中山層は、山口県下関市豊浦地域に分布するパンサラッサ海北西縁周辺地域に堆積したジュラ紀前期の大陸棚堆積物である(7)。西中山層からはT-OAEにおけるCIEが詳細に報告され(8)、パンサラッサ海域におけるT-OAE研究において特に重要な地域である。本研究では西中山層において、T-OAEを含む、プリンスバッキアン後期からトアルシアン前期に相当する層厚約90 mの範囲から、薄片観察によりMISSの断面構造を記載した。結果、調査範囲の多くの層準において、非常に発達したMISSが発見された。MISSは生物擾乱が弱い層準において顕著であるが、強い生物擾乱を受けた堆積物中においても、MISSと考えられる断片化したフィラメント状構造が見られた。MISS が発達していることから、西中山層ではT-OAE以前から、腹足類などの堆積面表層の有機物を摂食する生物に乏しい環境が支配的であったことが示唆される。また、MISSは堆積物の供給速度や堆積環境の変化に対するバイオマットの応答を記録している可能性があり、T-OAEを含む、プリンスバッキアンからトアルシアンにかけての地域的な環境変動を議論するうえで、重要な指標として活用できる可能性がある。さらに、MISSは化石の保存性を高める可能性が示唆されている(9)ことから、西中山層の豊富な化石の産出に寄与している可能性がある。
引用文献
(1) Noffke, N., 2009. Earth-Science Reviews, 96 173-180.
(2) Noffke, N., et al., 2013. Astrobiology, 13 1103-1124.
(3) Jenkyns, H.C., 1988. American Journal of Science 288 101-151.
(4) Hesselbo, S.P., et al., 2000. Nature 406 392-395.
(5) Little, C.T.S., Benton, M.J., 1995. Geology 23 495-498.
(6) Kemp, D.B., et al., 2020 Geology 48 976-980.
(7) Yamada, T., Ohno, T., 2005. The Geological Society of Japan 111 389-403.
(8) Izumi, K., et al., 2012. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 315 100-108.
(9) Seilacher, A., 2008. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 270 252-257.
