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[T12-P-13]Lithostratigraphy and ichnofabrics of the Lower–Middle Triassic Inai Group, northeast Japan
*Yuichi Endo1, Yasunari Shigeta2,1 (1. Department of Life and Environmental Science, University of Tsukuba, 2. Department of Paleontology and Anthropology, National Museum of Nature and Science)
Keywords:
Lower–Middle Triassic,lithostratigraphy,ichnofossil,western Panthalassa,ocean hypoxia
ペルム紀–三畳紀境界絶滅は、当時の海洋生態系に壊滅的な被害を与え、生物相の完全な回復には前期三畳紀をすべて含む500万年以上の時間を要した。しかし、この長期的な生物相の回復パターンと貧酸素環境などの環境ストレス要因との関連性はいまだ十分には明らかになっていない。宮城県北部に分布する南部北上帯稲井層群は、下部三畳系平磯層・大沢層および中部三畳系風越層・伊里前層からなり、研究事例の少ないパンサラッサ海西縁の大陸縁辺部の堆積環境を記録している。先行研究では、この稲井層群における生物擾乱の程度に大きな変動が報告されているが、稲井層群の岩相層序全体に基づく議論はこれまでなされておらず、そのパターンや当時の海洋環境との関係性については十分に解明されていない。そこで本研究では、先行研究が多く行われてきた前浜–赤牛–大沢地域、歌津地域、神割崎–大指地域において野外調査を実施し、稲井層群の連続的な岩相層序の解明と、それに基づく当時の堆積環境の推定を行った。その結果、スパシアン階下部相当の平磯層下部からアニシアン階相当の伊里前層下部までの連続的な岩相層序が明らかになった。平磯層は、主に下部外浜から内陸棚で堆積した砂岩および砂質泥岩からなり、上方細粒化を伴う海進シーケンスを示す。一方、平磯層―大沢層境界より上位では、砂岩中のハンモック状斜交層理が消失し、暴浪時波浪限界以深の沖合環境で堆積したと考えられる。大沢層中部および風越層では塊状または上方細粒化を伴う砂岩が発達し、頻繁に円磨度の高い偽礫を含むことから、重力流堆積物に由来すると考えられる。大沢層から伊里前層下部にかけての泥岩部分では、生物擾乱を欠く平行葉理の発達した泥岩が繰り返し出現し、堆積当時の沖合環境における断続的な貧酸素環境の存在を示唆する。生痕化石は、大沢層ではPlanolitesとPhycosiphonが優勢である一方、風越層から伊里前層下部ではChondritesやNereitesが卓越する。さらに伊里前層下部では、当時の貧酸素環境の改善を示す指標とされるTeichichnusおよびRhizocoralliumが頻繁に観察される。このことは、伊里前層下部が堆積したアニシアン期以降には稲井層群における沖合の底層環境の持続的な貧酸素環境の解消を示唆する。稲井層群における貧酸素環境の改善時期は、パンサラッサ海遠洋域における無酸素水塊の解消時期とも一致しており、全球的な環境変動と同期する可能性を示す。一方で、貧酸素環境の発生・解消のパターンは当時の各海域でそれぞれ異なり、パンサラッサ海西縁においても地域固有のパターンの存在を支持する。今後、他地域とのより精度の高い年代対比により、全球的な環境変遷パターンの詳細が解明できると期待される。
