Presentation Information
[G-P-4]Morphological evolution and biostratigraphy of the diatom genus Praestephanos from the Pliocene lacustrine deposits of the Kobiwako and Tokai groups, Mie Prefecture
*Takahiro KOJIMA1,2, megumi SAITO-KATO3, Taisuke OHTSUKA4 (1. Research Institute of Energy, Environment and Geology, Hokkaido Research Organization, 2. Graduate School of Life and Environmental Sciences, University of Tsukuba, 3. National Museum of Nature and Science, 4. Lake Biwa Museum)
Keywords:
Diatoms,Kobiwako Group,Tokai Group,Praestephanos
はじめに
珪藻化石は,新生界の堆積物における生層序研究に広く用いられてきた.とくに外洋域の海生珪藻化石においては精度の高い生層序が確立されている(Yanagisawa & Akiba, 1998).一方,淡水珪藻化石層序の研究は十分に進んでおらず,広域あるいは地域間において対比可能な生層序の確立が課題である.
三重県に分布する陸水成の鮮新統である古琵琶湖層群上野層と東海層群亀山層には,それぞれ“大山田湖”(川辺, 1994)と“安濃津湖”(森ほか, 2015)とされる長期間存続した湖の堆積物が認められている.これらの湖は同時期に存在し,湖間には水系のつながりがあったと推定されている(里口, 2017).また,上野層と亀山層からは,淡水浮遊性の珪藻Praestephanos属が共通して産出することが報告されている(服部ほか, 2017; Tuji & Ohtsuka, 2020).本発表では,上野層と亀山層においてPraestephanos属珪藻の進化に基づいた生層序について検討した結果を報告する.
研究地域と試料
古琵琶湖層群(鮮新-更新統)は,琵琶湖の前身である“古琵琶湖”とその周辺環境で堆積した地層である.上野層はその最下部にあたり,約4.4–3.5 Maの堆積物から構成され,三重県伊賀市周辺に分布している(Satoguchi, 2020).伊賀市大山田地域には,最初期の古琵琶湖である大山田湖の堆積物である厚い塊状の泥層が分布する.本研究では同地域の上野層の約4.0–3.6 Maの区間より堆積物試料を採取した.
一方,東海層群亀山層(鮮新統)は伊勢湾西岸地域に分布しており,三重県津市には安濃津湖の堆積物である塊状泥層がみられる(吉田ほか, 1995).本研究では主にこの泥層を対象として,亀山層の約4.1–3.6 Maの区間より試料を採取した.
結果と考察
古琵琶湖層群上野層からは,約3.9–3.7 Maの区間から,2種のPraestephanos属が見出された.これらの珪藻は既知種と異なる形態学的特徴を有することから,新種P. tokaiensisおよびP. miensisとして記載された.この2種の形態は互いに非常によく似ているが,殻套有基突起の配置パターンと,殻面有基突起の数に違いが認められる.2種の産出区間はそれぞれ約3.9–3.8 Maおよび約3.8–3.7 Maであり,約3.8 Maにおいて両者の交替が確認される.この交替期付近の層準では,2種の形態の相違点の一つである殻面有基突起の数が,P. tokaiensisからP. miensisへと漸移的に変化する様子が確認されることから,両種は祖先・子孫関係にあると推定される(Kojima et al., 2023).
東海層群亀山層においても,約3.9–3.6 Ma 区間からP. tokaiensisとP. miensisの産出が確認された.両種の産出区間はそれぞれ約3.9–3.8 Maおよび約3.8–3.6 Maである.上野層と同様に2種は約3.8 Maに入れ替わり,その付近の層準では殻面有基突起数の漸移的な変化も認められた.
以上のように,上野層と亀山層で同時期に同様のパターンでPraestephanosの形態学的進化が起こったことが明らかとなった.2種の交替層準は,上野層と亀山層に共通する生層序基準面とみなすことができる.また,このような進化的イベントの一致は,大山田湖と安濃津湖の間に水系のつながりが存在したことにより,浮遊性の珪藻であるPraestephanosが両地域間を移動可能であったためであると考えられる.このように,水系の接続があった地域・地層間では,淡水珪藻化石に基づき層序対比できる可能性があることが示唆される.
引用文献
服部圭治ほか(2017)Diatom, 33, p. 38.
川辺孝幸(1994)琵琶湖の自然史, p. 25–72.
Kojima, T. et al. (2023) Paleontological Research, 28, p. 291–306.
森勇一ほか(2015)日本第四紀学会講演要旨集, p. 14.
里口保文(2017)化石研究会会誌,50,p. 60–70.
Satoguchi, Y. (2020) Lake Biwa: Interactions between Nature and People Second Edition, p. 17–24.
吉田史郎ほか(1995) 地域地質研究報告 ( 5 万分の1地質図幅),地質調査所,136p.
Tuji, A. & Ohtsuka, T. (2020) Lake Biwa: Interactions between Nature and People Second Edition, p. 61–66.
Yanagisawa, Y. & Akiba, F. (1998) Jour. Geol. Soc. Japan, 104, p. 395–414.
珪藻化石は,新生界の堆積物における生層序研究に広く用いられてきた.とくに外洋域の海生珪藻化石においては精度の高い生層序が確立されている(Yanagisawa & Akiba, 1998).一方,淡水珪藻化石層序の研究は十分に進んでおらず,広域あるいは地域間において対比可能な生層序の確立が課題である.
三重県に分布する陸水成の鮮新統である古琵琶湖層群上野層と東海層群亀山層には,それぞれ“大山田湖”(川辺, 1994)と“安濃津湖”(森ほか, 2015)とされる長期間存続した湖の堆積物が認められている.これらの湖は同時期に存在し,湖間には水系のつながりがあったと推定されている(里口, 2017).また,上野層と亀山層からは,淡水浮遊性の珪藻Praestephanos属が共通して産出することが報告されている(服部ほか, 2017; Tuji & Ohtsuka, 2020).本発表では,上野層と亀山層においてPraestephanos属珪藻の進化に基づいた生層序について検討した結果を報告する.
研究地域と試料
古琵琶湖層群(鮮新-更新統)は,琵琶湖の前身である“古琵琶湖”とその周辺環境で堆積した地層である.上野層はその最下部にあたり,約4.4–3.5 Maの堆積物から構成され,三重県伊賀市周辺に分布している(Satoguchi, 2020).伊賀市大山田地域には,最初期の古琵琶湖である大山田湖の堆積物である厚い塊状の泥層が分布する.本研究では同地域の上野層の約4.0–3.6 Maの区間より堆積物試料を採取した.
一方,東海層群亀山層(鮮新統)は伊勢湾西岸地域に分布しており,三重県津市には安濃津湖の堆積物である塊状泥層がみられる(吉田ほか, 1995).本研究では主にこの泥層を対象として,亀山層の約4.1–3.6 Maの区間より試料を採取した.
結果と考察
古琵琶湖層群上野層からは,約3.9–3.7 Maの区間から,2種のPraestephanos属が見出された.これらの珪藻は既知種と異なる形態学的特徴を有することから,新種P. tokaiensisおよびP. miensisとして記載された.この2種の形態は互いに非常によく似ているが,殻套有基突起の配置パターンと,殻面有基突起の数に違いが認められる.2種の産出区間はそれぞれ約3.9–3.8 Maおよび約3.8–3.7 Maであり,約3.8 Maにおいて両者の交替が確認される.この交替期付近の層準では,2種の形態の相違点の一つである殻面有基突起の数が,P. tokaiensisからP. miensisへと漸移的に変化する様子が確認されることから,両種は祖先・子孫関係にあると推定される(Kojima et al., 2023).
東海層群亀山層においても,約3.9–3.6 Ma 区間からP. tokaiensisとP. miensisの産出が確認された.両種の産出区間はそれぞれ約3.9–3.8 Maおよび約3.8–3.6 Maである.上野層と同様に2種は約3.8 Maに入れ替わり,その付近の層準では殻面有基突起数の漸移的な変化も認められた.
以上のように,上野層と亀山層で同時期に同様のパターンでPraestephanosの形態学的進化が起こったことが明らかとなった.2種の交替層準は,上野層と亀山層に共通する生層序基準面とみなすことができる.また,このような進化的イベントの一致は,大山田湖と安濃津湖の間に水系のつながりが存在したことにより,浮遊性の珪藻であるPraestephanosが両地域間を移動可能であったためであると考えられる.このように,水系の接続があった地域・地層間では,淡水珪藻化石に基づき層序対比できる可能性があることが示唆される.
引用文献
服部圭治ほか(2017)Diatom, 33, p. 38.
川辺孝幸(1994)琵琶湖の自然史, p. 25–72.
Kojima, T. et al. (2023) Paleontological Research, 28, p. 291–306.
森勇一ほか(2015)日本第四紀学会講演要旨集, p. 14.
里口保文(2017)化石研究会会誌,50,p. 60–70.
Satoguchi, Y. (2020) Lake Biwa: Interactions between Nature and People Second Edition, p. 17–24.
吉田史郎ほか(1995) 地域地質研究報告 ( 5 万分の1地質図幅),地質調査所,136p.
Tuji, A. & Ohtsuka, T. (2020) Lake Biwa: Interactions between Nature and People Second Edition, p. 61–66.
Yanagisawa, Y. & Akiba, F. (1998) Jour. Geol. Soc. Japan, 104, p. 395–414.
