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[J-P-11]Hydrochemical Changes in Hot Spring Waters Associated with the May 2025 Eruption Sequence at Sakurajima Volcano

*IKEDAGAKUEN Ikeda senior high school SSH1 (1. Ikeda senior high school)
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 研究者生徒氏名:中崎真央・牛嶋康太・木浦琉慧・澁谷百々花・内野亮太・茶屋道 玲・劉 謙・足立 光・薗田怜旺・岩谷明香里・加藤彩名・川路眞愛・関 爽太朗・横山 陸

1 動機
 2022年より,我々は桜島で簡易アルカリろ紙法を用いた酸性火山ガス成分(SO2,Cl⁻,F⁻)の定期観測を実施し、火山活動との関連性を評価した。しかし,これらの成分濃度と活動指標との相関は弱く,有効な予測指標とはなり得なかった。主な原因として,風向や降雨などの気象条件により,火山ガスの付着効率が低い点が挙げられる。そこで我々は,外的影響が少なく、かつマグマ起源のCO₂を含む揮発成分の検出が可能な温泉水に着目し,新たな定期観測を開始した。温泉水中の溶存成分3)4)は,マグマからの揮発成分濃度を強く反映する可能性が高く、火山活動との相関の高い化学的指標になり得ると期待される。
2 方法
2-1温泉水の採取
2024年5月より桜島南岳火口から南に2kmに位置する有村・古里温泉源泉(地下30m,2025年4月の温泉閉館に伴い,同月から近隣の古里温泉より採取)と,桜島の北端に位置する白浜温泉(地下1000mより採取)の2カ所で,毎月中旬に1L密閉容器に採取し,現地で気温・気圧,水温,電導率,pH,Na+・K+・F-を分析後,同日中にSO42-とCl-,全炭酸濃度を実験室で測定した。
2-2 温泉水の分析について
 温泉成分の測定方法は、環境省の鉱泉分析指針1)及び,測定範囲の目安として温泉法に基づく成分分析表を参考にした。
外気の影響による成分変化を防ぐため、原則として採取地で分析を行い,気温・気圧は多機能デジタル高度計,水温は熱電対温度計(カスタム社製CT-1200D)により測定した。電導率,pH、Na⁺・K⁺・F⁻(イオン電極法)は,水質測定器LAQUAtwin(堀場社製)を用いた。一方,SO₄²⁻は塩酸酸性後に塩化バリウム比濁法,Cl⁻は塩化銀比濁法と液体検知管(光明理化学201SM)の併用,全炭酸濃度は2-3に示す方法を用いた。
2-3 炭酸ガスセンサーを用いた全炭酸濃度測定法
温泉水の炭酸塩はpHに応じて炭酸成分(CO₂、HCO₃⁻、CO₃²⁻)が変動するため測定が困難である2)。そのため温泉水を密閉容器に入れ,硝酸酸性にして炭酸成分を全て遊離CO₂にした後、振とうして気相に移行させ,二酸化炭素センサ-(INKBIRD社)で濃度を測定する。あらかじめ炭酸水素ナトリウム標準溶液で検量線を作っておき,全炭酸濃度として換算する。
3 結果と考察
 我々が有村(古里)温泉,白浜温泉の2地点で一ヶ月毎に観測した各火山ガス成分濃度等の一覧表、各火山ガス濃度と月別噴火(爆発)回数,マグマの噴出量の目安として鹿児島県が火口から20km以内の降灰量を33カ所で測っておりその合計棒グラフで示した。
 これらのグラフより,噴火回数が著しく増加した5月とその2ヶ月前から全炭酸濃度及びF-濃度の上昇が確認された。これらの成分は,海水濃度がそれほど高くないため,海水の影響をほとんど受けておらず,マグマ起源の揮発成分と解釈される。したがって,CO2とF-の2つの濃度上昇は,火山活動活発化に先行する地球化学的変化であり,噴火予測における有効な指標となる可能性が示唆される。また,全炭酸については太田らの先行研究3)4)と,F-については我々のアルカリろ紙での火山ガス分析の結果と整合性がある。
一方、Cl-濃度,SO42-濃度は,元々海水の濃度が高く,マグマ由来の揮発成分の変動が希釈されているものと考えられ,Cl-濃度は火山活動が活発になる前に微増し,噴火後,徐々に減少する傾向が認められたもののが,明確な関係性は見られなかった。SO42-濃度は有村(古里)温泉において,火山活動が活発になるにつれて上昇傾向が見られたが,白浜温泉ではSO42-濃度の変動は不規則な変動を示し,一貫した地球化学的指標としての有効性は低いと考えられる。
以上の結果からF⁻および全炭酸濃度は,海水混合の影響が少ないため,マグマ由来の揮発成分として,火山活動の先行指標となり得る。一方,Cl⁻やSO₄²⁻濃度は、海水の外因的影響を受けやすく,解釈には注意が必要と考える。
4 今後の課題
 今後も温泉水の定期観測を続けて、地球化学的指標による火山活動予測の基礎データを蓄積し,火山防災に役立てていきたいと考えている。
5 参考文献
1)環境省(2014):鉱泉分析法指針(平成26年改訂),1–45
2) 公開特許公報(A)_炭酸ガス濃度測定器具,出願番号:2007137779,年次: 2007
3) 九州大学理学部島原火山観測所,桜島火山における温泉の地球化学的観測,九州大学会報61-63,1984
4) 太田一也,我が国の火山噴火予知計画における地球化学的火山噴火予知研究の現状,日本地球化学会,125-127,1988
5) 平林順一,桜島火山の地球化学,火山,第2集,第27巻(1982)第4号293-309