Presentation Information
[J-P-19]Simplification of Westerly Wave Model Experiment -Utilization of Thermography-
*Chuo University Junior and Senior High School1 (1. Chuo University Junior and Senior High School)
研究者生徒氏名:横田瑛士
Ⅰ 研究背景・目的
偏西風波動は,中緯度の気象に大きな影響を与えるため,その性質が活発に研究されている.図1のように南北の気温傾度が大きくなると,偏西風は大きく蛇行し南北流型となる.さらに大きく蛇行すると,寒冷低気圧が南下し暖かい高気圧が北上して,偏西風から切り離される.これをブロッキング現象といい,低気圧や高気圧が長期に停滞し,異常気象をもたらす.
偏西風波動のモデル実験として回転水槽実験がある(小倉,2016).これは、図2のような三重構造の水槽で,北極上空から見た北半球を再現し,偏西風波動と同様の原理で波立つ様子を観察するものである.これにより,偏西風波動の性質を分析することができる.
水槽で再現された波動を観察するのに,一般的にはアルミニウム粉末を用いる.アルミニウム粉末では,波形や波動の向き,速さを観察することができる.だが,アルミニウム粉末は,吸引すれば呼吸器官に支障をもたらし引火すれば爆発するため,その扱いや処理が難しい.
本研究では,アルミニウム粉末の代わりにサーモグラフィーを活用することで,より安全で簡明な回転水槽実験が行えることを示す.回転水槽実験にサーモグラフィーを用いたものは, 森(2011)があるが稀である.サーモグラフィーは,水槽表面の温度分布や波形を観察することができる.本研究でその実用性を証明する.また,赤道付近に見立てた部分と北極部分に見立てた部分の温度差を変化させたときに,波動の安定具合がどのように変わるのかを,実験によって調べた.
Ⅱ 実験方法
本研究では,図2のような三重構造の水槽の中心から,氷水,水,湯を入れることで,それぞれ北極付近,中緯度地域,赤道付近を再現した.これを回転台に載せ,モーターを使い左回転させることで,地球の自転を再現した.水の部分の水面には波動ができるため,それをサーモグラフィーカメラで撮影し,その都度回転開始からの時間を記録した.
氷水の部分は5℃にし,湯の部分を(ⅰ)30℃,(ⅱ)40℃,(ⅲ)50℃,(ⅳ)60℃にすることで,温度差を(ⅰ)25℃,(ⅱ)35℃,(ⅲ)45℃,(ⅳ)55℃とした(表1).この温度設定で,それぞれ1時間ずつ回転させ,それを3セット行った.1時間以上回転させた回転水槽実験はないため, これは本研究の特性といえる.実験中には,氷水の部分と湯の部分に温度計を一つずつ差し,氷や湯を足すことで温度を一定に保った.
なお,すべての実験において,水深を40mm,回転速度を5rpm,水路幅を120mmに統一した.
Ⅲ 結果
結果を図3に示した.図の縦軸は時間(単位:分)を,横軸はどの温度差での実験かを示している.また,縦軸の右隣の帯は,安定した波動の波数とその時間(単位:分)を表している.
温度差が(ⅰ)25℃,(ⅱ)35℃と比較的小さいときは,波数4や5が安定しやすかった.また,5分くらいのものが多く,あまり長くは安定しなかった.一方で,温度差が(ⅲ)45℃,(ⅳ)55℃と比較的大きいときは,波数3や4が安定しやすかった.また,長時間安定したものが多く,40分近く安定したものもあった.
Ⅳ 考察
温度差が大きいときのほうが,波数が少なく,長く安定したのは,ブロッキング現象が原因だと考えられる.温度差が大きくなると,それを解消しようと波動は大きく蛇行する.冷たい水と温かい水が互いに食い込む形となり,冷たい水よりも中心槽側に温かい水が入りこみ,波動から切り離される.その結果,波数は少なくなり,また,ブロッキングと同様に長時間安定する.
これは実際の気象現象と合致しており, 本研究ではサーモグラフィーを使って,偏西風波動のモデル実験に成功したといえる.
Ⅴ 結論
本研究によって,サーモグラフィーが,回転水槽実験に有効に使えるということを示せた.また,回転水槽の中心槽と最外槽の温度差が大きくなると,ブロッキング現象がおき,波数3と4の波動が長時間安定しやすいということがわかった.
Ⅵ 引用文献
小倉義光『一般気象学〔第2版補訂版〕』東京大学出版会、2016年
森保仁(2011). 「自然科学教育に必要な気象学に関するモデル実験教材の開発と応用」.科学研究費助成事業研究成果報告書,https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-21500856/21500856seika.pdf.
Ⅶ 謝辞
本研究を進めるにあたり,共同で実験を行った多賀光氏に感謝する.また.田島丈年先生・三輪貴信先生(中央大学附属高等学校教員)に終始多大なご指導を賜った.ここに深謝する.
キーワード:偏西風波動 回転水槽実験 サーモグラフィー
Ⅰ 研究背景・目的
偏西風波動は,中緯度の気象に大きな影響を与えるため,その性質が活発に研究されている.図1のように南北の気温傾度が大きくなると,偏西風は大きく蛇行し南北流型となる.さらに大きく蛇行すると,寒冷低気圧が南下し暖かい高気圧が北上して,偏西風から切り離される.これをブロッキング現象といい,低気圧や高気圧が長期に停滞し,異常気象をもたらす.
偏西風波動のモデル実験として回転水槽実験がある(小倉,2016).これは、図2のような三重構造の水槽で,北極上空から見た北半球を再現し,偏西風波動と同様の原理で波立つ様子を観察するものである.これにより,偏西風波動の性質を分析することができる.
水槽で再現された波動を観察するのに,一般的にはアルミニウム粉末を用いる.アルミニウム粉末では,波形や波動の向き,速さを観察することができる.だが,アルミニウム粉末は,吸引すれば呼吸器官に支障をもたらし引火すれば爆発するため,その扱いや処理が難しい.
本研究では,アルミニウム粉末の代わりにサーモグラフィーを活用することで,より安全で簡明な回転水槽実験が行えることを示す.回転水槽実験にサーモグラフィーを用いたものは, 森(2011)があるが稀である.サーモグラフィーは,水槽表面の温度分布や波形を観察することができる.本研究でその実用性を証明する.また,赤道付近に見立てた部分と北極部分に見立てた部分の温度差を変化させたときに,波動の安定具合がどのように変わるのかを,実験によって調べた.
Ⅱ 実験方法
本研究では,図2のような三重構造の水槽の中心から,氷水,水,湯を入れることで,それぞれ北極付近,中緯度地域,赤道付近を再現した.これを回転台に載せ,モーターを使い左回転させることで,地球の自転を再現した.水の部分の水面には波動ができるため,それをサーモグラフィーカメラで撮影し,その都度回転開始からの時間を記録した.
氷水の部分は5℃にし,湯の部分を(ⅰ)30℃,(ⅱ)40℃,(ⅲ)50℃,(ⅳ)60℃にすることで,温度差を(ⅰ)25℃,(ⅱ)35℃,(ⅲ)45℃,(ⅳ)55℃とした(表1).この温度設定で,それぞれ1時間ずつ回転させ,それを3セット行った.1時間以上回転させた回転水槽実験はないため, これは本研究の特性といえる.実験中には,氷水の部分と湯の部分に温度計を一つずつ差し,氷や湯を足すことで温度を一定に保った.
なお,すべての実験において,水深を40mm,回転速度を5rpm,水路幅を120mmに統一した.
Ⅲ 結果
結果を図3に示した.図の縦軸は時間(単位:分)を,横軸はどの温度差での実験かを示している.また,縦軸の右隣の帯は,安定した波動の波数とその時間(単位:分)を表している.
温度差が(ⅰ)25℃,(ⅱ)35℃と比較的小さいときは,波数4や5が安定しやすかった.また,5分くらいのものが多く,あまり長くは安定しなかった.一方で,温度差が(ⅲ)45℃,(ⅳ)55℃と比較的大きいときは,波数3や4が安定しやすかった.また,長時間安定したものが多く,40分近く安定したものもあった.
Ⅳ 考察
温度差が大きいときのほうが,波数が少なく,長く安定したのは,ブロッキング現象が原因だと考えられる.温度差が大きくなると,それを解消しようと波動は大きく蛇行する.冷たい水と温かい水が互いに食い込む形となり,冷たい水よりも中心槽側に温かい水が入りこみ,波動から切り離される.その結果,波数は少なくなり,また,ブロッキングと同様に長時間安定する.
これは実際の気象現象と合致しており, 本研究ではサーモグラフィーを使って,偏西風波動のモデル実験に成功したといえる.
Ⅴ 結論
本研究によって,サーモグラフィーが,回転水槽実験に有効に使えるということを示せた.また,回転水槽の中心槽と最外槽の温度差が大きくなると,ブロッキング現象がおき,波数3と4の波動が長時間安定しやすいということがわかった.
Ⅵ 引用文献
小倉義光『一般気象学〔第2版補訂版〕』東京大学出版会、2016年
森保仁(2011). 「自然科学教育に必要な気象学に関するモデル実験教材の開発と応用」.科学研究費助成事業研究成果報告書,https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-21500856/21500856seika.pdf.
Ⅶ 謝辞
本研究を進めるにあたり,共同で実験を行った多賀光氏に感謝する.また.田島丈年先生・三輪貴信先生(中央大学附属高等学校教員)に終始多大なご指導を賜った.ここに深謝する.
キーワード:偏西風波動 回転水槽実験 サーモグラフィー

