Presentation Information
[T3-O-1]Culture formation on geologic environments in convergent and collisional plate boundary zone
*Hisashi SUZUKI1 (1. Otani University)
Keywords:
convergent plate boundary,collisional plate boundary,geologic environment,culture formation
日本および世界に分布する変動帯地域における文化形成について、1)収束型変動帯と2)衝突型変動帯の2つに区分して考察を試みる。1)の収束型変動帯は、日本列島のように海洋プレートが大陸プレートの下へ沈み込む場で、海岸沿いに急峻な山地を伴う変動帯である。堆積岩、火成岩、変成岩のすべてが産し、地質多様性が高いことで特徴づけられる。2)の衝突型変動帯は、アルプス山脈やヒマラヤ山脈のように2つの大陸が衝突し、急峻な山岳地形を形成した変動帯である。大陸と大陸の衝突により、山岳地帯は自ずと海から離れた内陸に位置することになる。2つの大陸に挟まれた海の堆積物が山地内へと隆起し堆積岩となるとともに、衝突に伴う変成岩や火成岩も伴われる。
収束型変動帯では海岸沿いに急峻な山地がそびえ立つ。それゆえ河川は急流となり山地に由来するミネラルが沿岸に供給されやすい。豊富なミネラル分が沿岸の生態系を豊かにするため、海草、魚介類を中心とした魚食文化が成立した。そして人々が利用する塩も海岸塩田で賄われることとなった。それに対し衝突型変動帯では山岳地帯が内陸に位置し、海からは遠く離れることになる。タンパク源を魚介類に求めることはできないし、寒冷な高山では農業も成立しない。そのため乳牛やヤクを利用した牧畜文化が成立した。アルプス山脈では谷ごとに違う種類のチーズが作られているというし、チベットのヤクのバターは貴重な栄養源になっている。そして塩は山地に産する岩塩に求められる。また独特の発声方法で歌うヨーデルは、そもそもアルプスの深い谷を隔てた対岸同士の意思疎通のために発達したという。
本講演ではさらに哲学者の和辻哲郎による風土論との対比を試みたい。和辻は気候特性から世界の風土を3つに分類した。東アジア・南アジアの「モンスーン」、アラビアの「沙漠」、ヨーロッパの「牧場」である(和辻 1935)。和辻によれば、日本列島を含む「モンスーン」の風土では、大雨・暴風・洪水・旱魃といった自然の暴威が著しく、人間の力では対抗できない。その結果、受容的・忍従的精神文化を生み出したという。アラビアの「沙漠」の風土では、自然は何も手助けはせず単なる死の表現に過ぎない。そのような過酷な条件下で生きていくためにイスラム教が生まれてきたという。一方、ヨーロッパの「牧場」の風土では、大雨・暴風・洪水は稀であり、河川も緩やかに流れる。全般に変化が少なく従順な自然は、理解しやすく法則性を見出しやすい。そのため自然科学の発展へつながったという。この和辻の風土論に地質は出てこないが、改めて地質学的視点で捉え直してみる。すなわち,日本列島のような「収束型変動帯」においては、地質の多様性が高く、狭い範囲にあらゆる種類の岩石が分布する。複雑な地質構成は従順な自然とは程遠く、「モンスーン」の風土と一致する。衝突型変動帯は急峻な山岳地帯で寒さが厳しく、農作物も育たない。厳しい自然の中で動物の力を借りて牧畜を生業とした。過酷で生を見出せない荒ぶる山容は、「沙漠」の風土に近いといえよう。このように見ると、上述の変動帯の地質環境は、それぞれの地質特性が文化形成に大きくかかわっていると考えられる。
文献 和辻哲郎(1935):『風土 人間學的考察』。407ページ,岩波書店,東京。
収束型変動帯では海岸沿いに急峻な山地がそびえ立つ。それゆえ河川は急流となり山地に由来するミネラルが沿岸に供給されやすい。豊富なミネラル分が沿岸の生態系を豊かにするため、海草、魚介類を中心とした魚食文化が成立した。そして人々が利用する塩も海岸塩田で賄われることとなった。それに対し衝突型変動帯では山岳地帯が内陸に位置し、海からは遠く離れることになる。タンパク源を魚介類に求めることはできないし、寒冷な高山では農業も成立しない。そのため乳牛やヤクを利用した牧畜文化が成立した。アルプス山脈では谷ごとに違う種類のチーズが作られているというし、チベットのヤクのバターは貴重な栄養源になっている。そして塩は山地に産する岩塩に求められる。また独特の発声方法で歌うヨーデルは、そもそもアルプスの深い谷を隔てた対岸同士の意思疎通のために発達したという。
本講演ではさらに哲学者の和辻哲郎による風土論との対比を試みたい。和辻は気候特性から世界の風土を3つに分類した。東アジア・南アジアの「モンスーン」、アラビアの「沙漠」、ヨーロッパの「牧場」である(和辻 1935)。和辻によれば、日本列島を含む「モンスーン」の風土では、大雨・暴風・洪水・旱魃といった自然の暴威が著しく、人間の力では対抗できない。その結果、受容的・忍従的精神文化を生み出したという。アラビアの「沙漠」の風土では、自然は何も手助けはせず単なる死の表現に過ぎない。そのような過酷な条件下で生きていくためにイスラム教が生まれてきたという。一方、ヨーロッパの「牧場」の風土では、大雨・暴風・洪水は稀であり、河川も緩やかに流れる。全般に変化が少なく従順な自然は、理解しやすく法則性を見出しやすい。そのため自然科学の発展へつながったという。この和辻の風土論に地質は出てこないが、改めて地質学的視点で捉え直してみる。すなわち,日本列島のような「収束型変動帯」においては、地質の多様性が高く、狭い範囲にあらゆる種類の岩石が分布する。複雑な地質構成は従順な自然とは程遠く、「モンスーン」の風土と一致する。衝突型変動帯は急峻な山岳地帯で寒さが厳しく、農作物も育たない。厳しい自然の中で動物の力を借りて牧畜を生業とした。過酷で生を見出せない荒ぶる山容は、「沙漠」の風土に近いといえよう。このように見ると、上述の変動帯の地質環境は、それぞれの地質特性が文化形成に大きくかかわっていると考えられる。
文献 和辻哲郎(1935):『風土 人間學的考察』。407ページ,岩波書店,東京。
