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[T3-O-7][Invited] 20 Years of Aso's Cultural Landscape as a community development

*Naoto TANAKA1 (1. Kumamoto Univ.)
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【ハイライト講演】  2004年の景観法運用を契機に,阿蘇では火山と共生する「耕地‐集落‐森林‐草原」の土地利用が文化的景観として注目され,2017年以降は国の重要文化的景観に選定・拡大された.野焼きや放牧による草原維持,生物多様性の保全,農耕祭事や信仰の継承などが評価され,農耕の起源から水利整備,鉄道開通や観光発展,災害復興までの歴史を背景に,文化的景観は,持続可能な地域づくりに資する貴重な資産となっている. ※ハイライト講演とは...

Keywords:

Cultural Landscape,Cultural Properties,infrastructure,Socio-ecological System,Life and Livelihood


 1.はじめに
 2004年6月に国土交通省が所管する景観法が公布された。この基本理念のなかで「良好な景観は、地域の固有の特性と密接に関連するものであることにかんがみ、地域住民の意向を踏まえ、それぞれの地域の個性及び特色の伸長に資するよう、その多様な形成が図られなくてはならない1)」とある。景観法の成立とともに文化財法が一部改正され、5つめの文化財保護制度の類型として「文化的景観」が創設された。文化的景観制度成立から20年経った今、阿蘇の文化的景観の20年を振り返ることで、インフラと地域の持続可能なまちづくりの有益な連携について考える。
2.阿蘇の文化的景観
 文化的景観は、「地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの(文化財保護法第二条第1項第五号より)2」」とされ、その中でも特に重要なものを,都道府県又は市区町村の申出に基づき,「重要文化的景観」として選定することができる。2017年(平成29年)10月13日に、阿蘇郡市7市町村の草原の一部がカルデラ火山との共生をテーマに「阿蘇の文化的景観」として国の重要文化的景観に選定された。
【各市町村の重要文化的景観】
阿蘇の文化的景観 阿蘇北外輪山及び中央火口丘群の草原景観(阿蘇市)
阿蘇の文化的景観 南小国町西部の草原及び森林景観(南小国町)
阿蘇の文化的景観 涌蓋山麓の草原景観(小国町)
阿蘇の文化的景観 産山村の農村景観(産山村)
阿蘇の文化的景観 根子岳南麓の草原景観(高森町)
阿蘇の文化的景観 阿蘇山南西部の草原及び森林景観(南阿蘇村)
阿蘇の文化的景観 阿蘇外輪山西部の草原景観(西原村)
 その後も、2021年(令和3年)3月26日には阿蘇市の草原が、さらに2023年(令和5年)3月20日には阿蘇市と産山村の草原が追加選定され、その範囲が拡大している。
3.20年という文化的景観の変化
 阿蘇の文化的景観が重要文化的景観に選定されたのは以下の点が評価されたためであり、この「変化」は、度重なる阿蘇の噴火や災害、農林業や近代に入って整備された鉄道や道路、国立公園などに支えられた観光業、などまさに人々の暮らしとともに成立してきた。
1)巨大なカルデラ火山と共生する人々の営み:世界最大級のカルデラという特殊な地形の中で、人々が火山活動と向き合いながら、千年以上にもわたって築き上げてきた独特の土地利用形態(耕地-集落-森林-草原という垂直的な土地利用)が評価された。
2)野焼き・採草・放牧による草原の維持:広大な草原が、単なる自然ではなく、野焼き、採草、放牧といった伝統的な農業活動によって維持管理されてきた「二次的自然」である点が重要視されている。これら人為的な営みがなければ、草原は森林へと遷移してしまう。
3)生物多様性の保全:広大な草原は、多様な希少な動植物が生息・生育する生物多様性の宝庫であり、これも人々の営みによって維持されてきたものである。
4)農耕祭事と文化の継承:阿蘇神社のおんだ祭りなど、火山信仰や農業と結びついた伝統的な祭事や文化が今も息づいており、それが景観と一体となって価値を形成している。 
 一方で、この20年間阿蘇の文化的景観を取り巻く社会や環境の変化にも大きなインパクトがあり、主な災厄だけでも以下の3つがあげられる。
①2012年(平成24年)7月:九州北部豪雨災害 未明からの記録的豪雨により、阿蘇市を中心に県内各所で河川の氾濫や土砂災害が発生し、死者・行方不明者25 名をはじめ、住家、公共土木施設、ライフライン等に極めて甚大な被害が発生した。
②2016年(平成28年)4月:熊本地震 震度7の大地震が二度発生し、270名以上の方々が命を落とし、阿蘇地域においては阿蘇大橋の崩落や南阿蘇鉄道の寸断など、インフラに甚大な被害が生じた。激甚災害に指定され、「創造的復興」が掲げられた。
③2020年(令和2年)4月:covid-19(新型コロナウィルス感染症) 年明け頃から豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号などの感染者問題が広がり、全国の学校が休校となり3密をさけ、様々な活動の自粛が要請された。
4.おわりに
 文化的景観は、人々の暮らしを含めた地域の本質的価値を持続可能なかたちで継承していく概念である。単に文化財制度であるだけでなく、様々なステークホルダーがその価値を共有し、協働して創造していくために、その変化を不易流行として向き合う必要がある。本講演がそのきっかけになれば幸いである。
【参考文献】
1)景観法の概要、国土交通省都市・地域整備局都市計画課、2005.9.
https://www.mlit.go.jp/crd/townscape/keikan/pdf/keikanhou-gaiyou050901.pdf
2)文化的景観、文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/keikan/
3)阿蘇を世界遺産に!(ポータルサイト)より
https://www.asosekaibunkaisan.com/property/landscapes/icl/