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[T3-O-8]Defining and Characterizing Attributes for Heritage Impact Assessment (HIA) - an attempt at Aso, aiming to be registered as a World Cultural Heritage -.

*Ryuji HAYASAKA1, Miho SHINKAI1, Aso Grassland Restoration and World Heritage Promotion Division, Kumamoto Prefectural Government (1. PASCO Corporation)
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Keywords:

Aso,world cultural heritage,attributes,heritage impact assessment (HIA),landscape,volcanic terrain

 1.背景と課題
 熊本県は阿蘇の世界文化遺産登録へ向け国に提案書の改訂版を「阿蘇の文化的景観―カルデラ火山に展開した農業パノラマ」として提出した.この中で,OUV(顕著な普遍的な価値)を“世界最大級の規模と明瞭な円形陥没地形を備える迫力ある景観の火山カルデラのもとで,その地形条件を有効に利用しながら草地に特徴のある伝統的農業を維持し高い生産性をあげてきた人々の努力が作り上げた文化的景観”とし,これを説明するアトリビュート(遺産の価値を伝え,価値の理解を助ける要素)を以下の4つのグループに分けた.グループ1(地形:外輪山・カルデラ壁・カルデラ床・中央火口丘群),グループ2(土地利用形態:草地・森林・居住地・農地),グループ3(農業システム:野焼き・放牧・採草、草肥・厩肥・茅の採取,取水・配水・灌漑),グループ4(無形遺産と宗教関連施設:伝説・祭祀・信仰・伝承)である(熊本県ほか,2024).
 世界遺産の登録地内で開発行為が計画されると遺産影響評価の実施が求められる.このため遺産影響評価の実施に備えた調査及び予測評価の手法・手続きの流れ・各主体の役割等をあらかじめ整理しておく必要がある.特に「景観」は感覚的な要素だけにその評価のため,極力,客観的な手法を提案したい.
 既に,アトリビュートグループ1((火山)地形)と2(土地利用形態(土地被覆))について,評価のための17の視点場からの可視領域に占める比率を分析し,各視点場の眺望景観の特性及び景観区分地域の特性を客観的に定義できる可能性を示した.
 一方,アトリビュートそれぞれの明確な定義となると,遺産影響評価のための観点からはやや曖昧な点も残されている.
 そこで,遺産影響評価を客観的に進めることを念頭に,主にアトリビュートグループ1の定義を再整理し,必要に応じて細分したうえで,それぞれの地域特性を記載した.また,影響を受ける要素「景観」を“地域特性から想定される脆弱性(箇所・程度)”・“予測で考慮すべき事項”・“保全・緩和措置の考え方”に分けて整理した.
2.“崖錐”はカルデラ壁かカルデラ床か?
 標記様々な見解が生じるのは,「阿蘇」の文化遺産としての所以であり様々なとらえ方が存在するためとみられる.ただ定義の曖昧さは,“影響を評価する”際やさらにこれを制度化する場合に不都合を生じ得る.
 産総研シームレス地質図では,“崖錐”は“扇状地”・“河岸段丘”と集約されている.“崖錐”は堆積プロセスの端緒であって,地質学的な取り扱いとしてはこれらと集約されることに違和感は無い.一方カルデラ壁は陥没地形の縁の壁面で火山体そのものと考え得る.これらの傾斜分布を比較すると,崖錐が10°前後,扇状地堆積物が数°~10°で,成因・傾斜分布とも連続的に見える.一方陥没地形の縁を構成する地質では,概ね20°~40°で崖錐とはやや不連続に見える.今後検討の余地を残すが,遺産影響評価を“客観的”に執り行うことに限定し,アトリビュートグループ1(地形)は単純に「地形」(≒傾斜分布)と成因に着目し識別し得る.
3.「外輪山上」のバリエーション
 「カルデラ エッジ」の外側は「外輪山上」に一括されるが,遺産影響評価を執り行う上では,地質・地形や景観の観点から必ずしも均質ではない.これは,阿蘇市ほか(2020)などに詳しい.すなわち,波状台地(カルデラ周;阿蘇~波野),波状台地(産山;九重裾),小国郷(開析進む),山東(外輪山・祖母山系間緩凹地),西原(熊本市街地に面した斜面,大峯・高遊原台地)に区分できる.
 これらは起伏・高度や斜面の向き等により景観特性上多様であり,遺産影響評価では別々に取り扱う必要がある.
4.地域特性から想定される脆弱性・予測で考慮すべき事項・保全及び緩和措置の考え方
 開発行為による影響要因は,火山山麓における面的開発の事例に基づき想定している.これを「阿蘇」に当てはめると,同種の行為であってもインパクトは地域特性によって全く違ったものになる可能性があることが想定された.例えば波状台地では,全体的に平坦な地形のため外輪山上での視認性は比較的低いが,少しの比高の丘でも視認範囲は広大となる.また隣接する斜面に開発がなされると広い範囲から視認可能となる.一方全体的に高標高の凹地で外部から視認しにくい地形もあって,この場合大景観を対象とした場合は比較的影響は軽微な傾向とみられる.これらのように,インパクトがプラス・マイナス両面から検討され,かつ事業実施前の計画段階に実施されることで,戦略的影響評価(SEA)に発展させることができる.
5.文献
 阿蘇市・南小国町・小国町・産山村・高森町・南阿蘇村・西原村,2020,阿蘇の文化的景観 保存活用計画【阿蘇市版】.110p.
 熊本県・阿蘇市 南小国町 小国町 産山村 高森町 西原村 南阿蘇村,2024,世界遺産暫定一覧表追加資産に係る提案書 「阿蘇」の価値(OUV)について.10p.