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[T1-O-14]Extraction of serpentinite distribution using drone-based magnetometry: A case study from the Sanbagawa Belt, northern Akaishi Mountains

*Nanami KUNIYA1,2, Hiroshi MORI1, Ryuta SHUKUWA3, Yuto YASUI1, Kaho NOBUHARA1, Shigeo OKUMA2, Ayumu MIYAKAWA2, Tetsuya TOKIWA1, Kazuhiro OZAWA4, Ken YAMAOKA2, Takayoshi NAGAYA5, Daichi MURAKAMI1,2 (1. Shinshu university, 2. GSJ, AIST, 3. Goto Metal Mine Co., Ltd., 4. Precision Forestry Measurement Ltd., 5. Waseda University)
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【ハイライト講演】  近年、ドローンを使った地球物理学的観測により、広域な観測を簡単かつ低コストに実施できるようになった。本公演は、蛇紋岩岩体(長野県赤石山)のドローン磁気探査を行った結果を報告しており、次世代型の地質調査に関する展開が紹介される。 ※ハイライト講演とは...

Keywords:

drone (UAV),magnetometry,serpentinite,Sanbagawa Belt,rock magnetism


 マントル起源の蛇紋岩は,地球深部の理解にとって重要な岩石である.特に,高圧変成帯に分布する蛇紋岩は,沈み込み帯での地震発生や深部流体の挙動と関わる.また,蛇紋岩分布域は地すべりのリスクが高い地質体として,加えて近年では天然水素の貯留層としての工学的な関心も高まっている.こうした背景から,蛇紋岩の正確な分布把握は学術的・実用的に極めて重要であるが,山岳地の急峻な地形や低地の植生により,従来の野外踏査では限界がある.蛇紋岩は形成過程で磁鉄鉱を多く含み,他の岩石に比べて顕著に高い磁性を有する(中塚,2012).本研究では,この特性を活用し,ドローン搭載型磁力計による蛇紋岩分布の抽出を試みるとともに,地表で得られた地質情報との対応関係を検証することを目的とした.
調査対象は,赤石山地北部・三波川帯に分布する2地域(各約0.5 km2)で,一方は泥質片岩に挟まれた芝平地域の蛇紋岩体,もう一方は苦鉄質片岩に挟まれた鷹岩地域の蛇紋岩体である.両地域とも,蛇紋岩は幅300 m以下の南北に細長く分布し,岩相境界は高角傾斜を呈す.ドローン磁気測定(全磁力)には,DJI社製Matrice300RTK(マルチコプター型)を使用し,機体底部から長さ5 mのケブラーケーブルでGEM Systems社製の光ポンピング式磁力計(GSMP-35U)を吊り下げて計測を行った.飛行は対地高度60 m,測線間隔25 m,速度約6 m/sで自動航行させた.地質学的解析としては,野外踏査による岩相分布の把握,肉眼・鏡下での岩石組織観察,および岩石試料の自然残留磁化(NRM)・磁化率測定を行った.
両地域の蛇紋岩は,いずれも磁鉄鉱を普遍的に含み,周囲の泥質片岩や苦鉄質片岩に比べて,NRM・磁化率は優位に高い値(NRMは約102〜104倍;磁化率は101〜102倍)を示す.
ドローン磁気測定により得られた全磁力値(補正なし)の平面分布は,両地域ともに,幅200 m以上の蛇紋岩体付近で高磁場の集中を示し,岩相分布とある程度の整合性が認められた.ただし,これら大規模岩体においても一部では対応しない領域が認められ,また,幅数十m以下の小規模岩体では明瞭な対応関係は得られなかった.一方,全磁力値の一次微分から求めた傾斜量分布については,小規模岩体を含めて,傾斜の急変域と岩相境界との良好な一致が確認された.このことから,補正を行わない全磁力値でも数百m規模の蛇紋岩体であればドローン磁気測定により迅速かつ概略的な把握が可能であり,傾斜量を併用することで,より小規模な蛇紋岩体の抽出も可能であることが示唆される.
加えて,全磁力値を基に,産業技術総合研究所公開の空中磁気探査データ処理プログラムAMSS3(Nakatsuka and Okuma,2018)を用いて,地磁気日変化補正を行った後,IGRF残差磁気異常図,磁化強度分布図,極磁力異常図を作成した.これらを岩相分布と比較した結果,特に磁化強度分布図においては,小岩体を含めて明瞭な対応関係が得られた.このことは,本研究対象程度のスケールにおいて,磁化強度図が有効であることを示すとともに,適切なデータ処理を施すことで,数十m以下の小規模岩体の抽出・マッピングが可能であることを示唆する.
本研究は,ドローンによる空中磁気探査が,蛇紋岩体の迅速かつ効率的な抽出手段となり得ることを示す.また今後,より高精度な空中磁気データと地質学的観察を連携させることで,蛇紋岩体内部における磁鉄鉱含有量の空間不均質性をはじめとした,詳細かつ広域的な鉱物マッピングの実現にもつながることが期待できる.

【引用文献】
中塚,2012,物理探査ニュース,no.15,1-3.
Nakatsuka and Okuma,2018,GSJ Open-file-Report,no.648.