Presentation Information
[T1-O-15]Trace element changes through the contact metamorphism of ultramafic rocks: A case study of the Tari-Misaka complex, Inner Zone of Southwest Japan.
*Makito Narumi1, Yuji Ichiyama1, Akihiro Tamura2, Tomoaki Morishita2 (1. Chiba Univ., 2. Kanazawa Univ.)
Keywords:
deserpentinization,contact metamorphism,metaperidotite,Independent Component Analyses (ICA)
蛇紋岩化による蛇紋岩への元素固定 (特にH2Oや流体移動元素(FME))と,脱蛇紋岩化による元素の放出は,特に沈み込み帯での元素循環において重要なプロセスである可能性が指摘されている (例えば,Scambelluri et al., 2019).高圧~超高圧変成岩に伴う変成かんらん岩の研究によって,脱蛇紋岩化の際の元素移動の理解は比較的進んでいるものの (例えば,Scambelluri et al., 2015),研究対象となる試料の原岩組成は不明確であり,後退作用の影響も無視できない.その一方で,火成岩の貫入に起因した接触変成作用により,蛇紋岩から形成された変成かんらん岩の組成変化については,脱蛇紋岩化反応の進行度合いにあわせた,連続的な組成変化を読み取ることが可能である.そこで本研究では,接触変成作用を被っている多里–三坂地域の超マフィック岩について,原岩の初生的な地球化学的特徴を明らかにするとともに,変成かんらん岩の変成度に応じた連続的な全岩化学組成変化の評価を行った.
多里–三坂超マフィック岩体は,古生代のマントルウェッジを起源とする大江山オフィオライトに属しており,岩体の大部分が蛇紋岩化した融け残りハルツバージャイトで構成されている (例えば,Nozaka, 2014).白亜紀後期から古第三紀には,超マフィック岩体に火成岩類が貫入し,最高変成度で変成直方輝石が形成されている (例えば,Arai, 1980).
接触変成作用の影響が軽微な試料の全岩微量元素組成ではFMEを僅かに含み,希土類元素 (REE)や価数の大きい元素 (HFSE)に枯渇していることから,先行研究と同様に,多里–三坂超マフィック岩体はマントルウェッジ起源の融け残りかんらん岩に由来すると考えられる.接触変成作用以前の鉱物組合せや全岩組成からは,大江山オフィオライトの他の岩体から報告があるような,角閃岩相でのスラブ流体による交代作用の痕跡は認められなかった.一方で,Khedr et al. (2010)が八方尾根から報告したような,細粒な単斜輝石に置き換えられた直方輝石仮像は,比較的Cs,Rb,B,Srに富んでおり,より低温でのスラブ流体による交代作用によって形成されたと考えられる.
変成度の異なる変成かんらん岩の全岩微量元素組成について,独立成分分析 (ICA)を行った結果,4つの独立成分 (IC)が分離された.貫入岩体からの距離や変成鉱物のモード量,微量元素組成と対応するIC1は,接触変成作用に伴う組成変化と関連していると解釈される.IC1では,一部のFME (Cs,Rb,Li)や軽希土類元素 (LREE)の正の負荷量が大きく,概ね貫入岩体に近い試料ほどこれら元素に富む傾向を示す.花こう岩質の含水メルトや水性流体が,これら元素を比較的多く含みうる (例えば,Sasaki et al., 2003)ことからも,貫入岩から変成かんらん岩への元素流入があったことが示唆される.また,IC1におけるB,Srの弱い負の負荷量は,貫入岩体に近い試料でのこれら元素の放出を意味している.これらの貫入岩体からの距離に応じた組成変化は,アイソコン分析などからも同様の結果が得られている.
調査地域の初生的な蛇紋岩が微量元素に枯渇していた一方で,貫入岩体からの元素流入を経験した変成かんらん岩の微量元素組成は,堆積物成分に富むスラブ流体の影響を被った蛇紋岩や,そうした蛇紋岩を原岩とした広域変成作用由来の変成かんらん岩 (Cima di Gagnone; Scambelluri et al., 2015)の組成と類似している.沈み込み帯では,堆積物の後背地が大陸縁辺部であるため,貫入時の花こう岩や花こう岩流体は,それぞれ沈み込む堆積物由来の珪酸塩メルト,メルト起源流体あるいは脱水流体に近似できる可能性がある.特に,Cima di Gagnoneの変成かんらん岩とは全岩だけでなく,鉱物微量元素組成でもよい一致を示しており,地殻成分が十分に流入した超マフィック系では,脱蛇紋岩化時の微量元素の挙動が類似する可能性を示唆している.
文献:
Arai, 1980, J. Petrol., 21, 141-165.
Khedr et al., 2010, Lithos, 119, 439-456.
Nozaka, 2014, Lithos, 184, 346-360.
Sasaki et al., 2003, Resour. Geol., 53, 127-142.
Scambelluri et al., 2015, Earth Planet. Sci. Lett., 429, 45-59.
Scambelluri et al., 2019, Eur. J. Mineral., 31, 405-428.
多里–三坂超マフィック岩体は,古生代のマントルウェッジを起源とする大江山オフィオライトに属しており,岩体の大部分が蛇紋岩化した融け残りハルツバージャイトで構成されている (例えば,Nozaka, 2014).白亜紀後期から古第三紀には,超マフィック岩体に火成岩類が貫入し,最高変成度で変成直方輝石が形成されている (例えば,Arai, 1980).
接触変成作用の影響が軽微な試料の全岩微量元素組成ではFMEを僅かに含み,希土類元素 (REE)や価数の大きい元素 (HFSE)に枯渇していることから,先行研究と同様に,多里–三坂超マフィック岩体はマントルウェッジ起源の融け残りかんらん岩に由来すると考えられる.接触変成作用以前の鉱物組合せや全岩組成からは,大江山オフィオライトの他の岩体から報告があるような,角閃岩相でのスラブ流体による交代作用の痕跡は認められなかった.一方で,Khedr et al. (2010)が八方尾根から報告したような,細粒な単斜輝石に置き換えられた直方輝石仮像は,比較的Cs,Rb,B,Srに富んでおり,より低温でのスラブ流体による交代作用によって形成されたと考えられる.
変成度の異なる変成かんらん岩の全岩微量元素組成について,独立成分分析 (ICA)を行った結果,4つの独立成分 (IC)が分離された.貫入岩体からの距離や変成鉱物のモード量,微量元素組成と対応するIC1は,接触変成作用に伴う組成変化と関連していると解釈される.IC1では,一部のFME (Cs,Rb,Li)や軽希土類元素 (LREE)の正の負荷量が大きく,概ね貫入岩体に近い試料ほどこれら元素に富む傾向を示す.花こう岩質の含水メルトや水性流体が,これら元素を比較的多く含みうる (例えば,Sasaki et al., 2003)ことからも,貫入岩から変成かんらん岩への元素流入があったことが示唆される.また,IC1におけるB,Srの弱い負の負荷量は,貫入岩体に近い試料でのこれら元素の放出を意味している.これらの貫入岩体からの距離に応じた組成変化は,アイソコン分析などからも同様の結果が得られている.
調査地域の初生的な蛇紋岩が微量元素に枯渇していた一方で,貫入岩体からの元素流入を経験した変成かんらん岩の微量元素組成は,堆積物成分に富むスラブ流体の影響を被った蛇紋岩や,そうした蛇紋岩を原岩とした広域変成作用由来の変成かんらん岩 (Cima di Gagnone; Scambelluri et al., 2015)の組成と類似している.沈み込み帯では,堆積物の後背地が大陸縁辺部であるため,貫入時の花こう岩や花こう岩流体は,それぞれ沈み込む堆積物由来の珪酸塩メルト,メルト起源流体あるいは脱水流体に近似できる可能性がある.特に,Cima di Gagnoneの変成かんらん岩とは全岩だけでなく,鉱物微量元素組成でもよい一致を示しており,地殻成分が十分に流入した超マフィック系では,脱蛇紋岩化時の微量元素の挙動が類似する可能性を示唆している.
文献:
Arai, 1980, J. Petrol., 21, 141-165.
Khedr et al., 2010, Lithos, 119, 439-456.
Nozaka, 2014, Lithos, 184, 346-360.
Sasaki et al., 2003, Resour. Geol., 53, 127-142.
Scambelluri et al., 2015, Earth Planet. Sci. Lett., 429, 45-59.
Scambelluri et al., 2019, Eur. J. Mineral., 31, 405-428.
