Presentation Information
[T1-O-16]Detection of heterogeneous graphitization in contact metamorphic rocks using Raman spectral analysis of carbonaceous material in the Sanbagawa Belt, northern Akaishi Mountains
*Hiroshi MORI1, Yuho HAYAKAWA1,2, Tomoki TAGUCHI3, Ken YAMAOKA4, Kazuhiro OZAWA5, Kaho NOBUHARA1, Akiko NAKAZAWA1, Taisei TAKAGI1, Tetsuya TOKIWA1 (1. Shinshu University, 2. Chuo Kaihatsu Corporation, 3. Waseda University, 4. GSJ, AIST, 5. Precision Forestry Measurement Ltd.)
Keywords:
contact metamorphism,carbonaceous material,Raman spectral analysis,heterogeneity,pelitic rock,hydrothermal activity,Sanbagawa (Sambagawa) Belt
貫入マグマの熱影響により形成された接触変成岩は,地下深部で発生する火成活動・流体活動の手掛かりになる.本研究対象の赤石山地北部・三波川帯に貫入する木舟深成岩体周辺では,超苦鉄質岩の変成反応解析に基づき活発な熱水活動の痕跡が検出されている(e.g., 延原ほか,2025).また,泥質岩では,高温での脱水反応により形成されたと考えられる菫青石やアルカリ長石が確認されている(e.g., Mori et al., 2025).今回,泥質岩中の炭質物のラマン分光分析により,熱水の影響に起因すると考えられる石墨化度の不均質性を検出したので報告する.
木舟深成岩体周辺の泥質岩は,貫入境界から約4 km以内の範囲で,黒雲母が普遍的に認められるとともに,貫入境界近傍では,紅柱石,菫青石,アルカリ長石も出現する.また,非接触変成域では豊富に炭質物が観察される一方で,黒雲母出現域では炭質物量が急減する.本研究では,炭質物ラマン分光分析用に,貫入岩体周辺の東西約3 km,南北約10 km以内の範囲において泥質岩試料を採取した.これら試料は,鏡下での組織観察に基づけば,炭質物は,他の鉱物内に包有されたもの(inclusion carbonaceous material:ICM)と,鉱物粒間に存在するもの(grain boundary carbonaceous material:GBCM)の二つのタイプに大別できる.今回は,炭質物ラマン温度計(Kaneki & Kouketsu, 2022; Kaneki et al., 2024)により得られる温度値を石墨化度の指標として,同一試料内においてICMとGBCMのそれぞれでデータ解析を行った.
非接触変成域では,GBCMおよびICMの平均値(TGB-ave およびTI-ave)とばらつきは,貫入境界からの距離もしくは炭質物のタイプによらず,類似する.一方,接触変成域では,TGB-aveおよびTI-aveともに貫入境界に近づくにつれて上昇するとともに,同一試料内では常にTGB-ave > TI-aveを示す.また,接触変成域のばらつきは,非接触変成域に比べて顕著であるとともに,同一試料内では,GBCMの方がICMに比べて大きい.特に平均値が約450 ℃を超えるGBCMでは,最大値と最小値の温度差が200〜300 ℃に達する場合もあり,顕著な不均質性が認められる.
上記,組織別の温度データの特徴は,GBCMがICMに比べて石墨化度が進行していることに加え,GBCMが示す高い不均質性は,定常状態に達する前に終息した短期間の高温熱イベントを反映している可能性(e.g., Kouketsu et al., 2019)がある.また,接触変成域のGBCMが示す高温条件(> 450 ℃)は,黒雲母や菫青石といった脱水反応を伴う接触変成鉱物の出現と整合的である.これらを考慮すると,GBCMが示す高温条件と大きなばらつきは,比較的短時間で発生した熱水活動により,石墨化がある程度進行したことを示唆する.ただし,定常状態には至らず,その結果として試料内に顕著な不均質性が生じたと考えられる.また,炭質物の急減は,これら接触変成鉱物の生成時に放出される高温流体の供給によるガス化反応(2C + 2H2O = CH4 + CO2)の促進(Pattison, 2006)で説明可能である.一方,ICMの温度構造が貫入熱伝導モデル(Mori et al., 2025)に概ね対応することを考慮すると,ICMは外部とのやりとりが困難な包有環境下であったために,熱水活動の影響を免れ,伝導による熱履歴を保持したと推察される.
本研究は,同一試料内における炭質物の組織選別を伴うラマン分光分析および関連する石墨化の不均質性評価が,貫入熱影響(伝導)と熱水活動(移流)という二つの熱輸送プロセスを反映した複雑な熱履歴の解明に有効であることを示唆する.
【引用文献】Kaneki & Kouketsu, 2022, Island Arc, 31, e12467;Kaneki et al., 2024, PEPS, 11, 35;Kouketsu et al., 2019, Geology, 47, 522–526;Mori et al., 2025, Tectonophysics, 907, 230759;延原ほか,2025,JpGU2025, SMP28-14;Pattison, 2006, Lithos, 88, 85–99.
木舟深成岩体周辺の泥質岩は,貫入境界から約4 km以内の範囲で,黒雲母が普遍的に認められるとともに,貫入境界近傍では,紅柱石,菫青石,アルカリ長石も出現する.また,非接触変成域では豊富に炭質物が観察される一方で,黒雲母出現域では炭質物量が急減する.本研究では,炭質物ラマン分光分析用に,貫入岩体周辺の東西約3 km,南北約10 km以内の範囲において泥質岩試料を採取した.これら試料は,鏡下での組織観察に基づけば,炭質物は,他の鉱物内に包有されたもの(inclusion carbonaceous material:ICM)と,鉱物粒間に存在するもの(grain boundary carbonaceous material:GBCM)の二つのタイプに大別できる.今回は,炭質物ラマン温度計(Kaneki & Kouketsu, 2022; Kaneki et al., 2024)により得られる温度値を石墨化度の指標として,同一試料内においてICMとGBCMのそれぞれでデータ解析を行った.
非接触変成域では,GBCMおよびICMの平均値(TGB-ave およびTI-ave)とばらつきは,貫入境界からの距離もしくは炭質物のタイプによらず,類似する.一方,接触変成域では,TGB-aveおよびTI-aveともに貫入境界に近づくにつれて上昇するとともに,同一試料内では常にTGB-ave > TI-aveを示す.また,接触変成域のばらつきは,非接触変成域に比べて顕著であるとともに,同一試料内では,GBCMの方がICMに比べて大きい.特に平均値が約450 ℃を超えるGBCMでは,最大値と最小値の温度差が200〜300 ℃に達する場合もあり,顕著な不均質性が認められる.
上記,組織別の温度データの特徴は,GBCMがICMに比べて石墨化度が進行していることに加え,GBCMが示す高い不均質性は,定常状態に達する前に終息した短期間の高温熱イベントを反映している可能性(e.g., Kouketsu et al., 2019)がある.また,接触変成域のGBCMが示す高温条件(> 450 ℃)は,黒雲母や菫青石といった脱水反応を伴う接触変成鉱物の出現と整合的である.これらを考慮すると,GBCMが示す高温条件と大きなばらつきは,比較的短時間で発生した熱水活動により,石墨化がある程度進行したことを示唆する.ただし,定常状態には至らず,その結果として試料内に顕著な不均質性が生じたと考えられる.また,炭質物の急減は,これら接触変成鉱物の生成時に放出される高温流体の供給によるガス化反応(2C + 2H2O = CH4 + CO2)の促進(Pattison, 2006)で説明可能である.一方,ICMの温度構造が貫入熱伝導モデル(Mori et al., 2025)に概ね対応することを考慮すると,ICMは外部とのやりとりが困難な包有環境下であったために,熱水活動の影響を免れ,伝導による熱履歴を保持したと推察される.
本研究は,同一試料内における炭質物の組織選別を伴うラマン分光分析および関連する石墨化の不均質性評価が,貫入熱影響(伝導)と熱水活動(移流)という二つの熱輸送プロセスを反映した複雑な熱履歴の解明に有効であることを示唆する.
【引用文献】Kaneki & Kouketsu, 2022, Island Arc, 31, e12467;Kaneki et al., 2024, PEPS, 11, 35;Kouketsu et al., 2019, Geology, 47, 522–526;Mori et al., 2025, Tectonophysics, 907, 230759;延原ほか,2025,JpGU2025, SMP28-14;Pattison, 2006, Lithos, 88, 85–99.
