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[T1-O-18]Quantitative evaluation of retrograde metamorphism and visualization of spatial patterns using dimensionality reduction of PXRD spectra: a case study from the Eastern Iratsu body in the Sanbagawa metamorphic belt, Shikoku, Japan

*Ryoga Tanabe1, Matsuno Satoshi1, OTGONBAYAR DANDAR1, Keiichi Osaka2, Uno Masaoki3, Atsushi Okamoto1 (1. Tohoku University Graduate School of Environmental Studies, 2. Japan Synchrotron Radiation Research Institute, 3. Department of Earth and Planetary Science, The University of Tokyo)
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Keywords:

retrograde metamorphism,hydration reaction,dimensionality reduction methods (PCA,UMAP),PXRD Rietveld analysis,Eastern Iratsu body

 沈み込み帯プレート境界における流体活動は、大規模な元素移動や地震活動などの動的プロセスを考える上で非常に重要であり、その直接的証拠として後退変成作用による加水反応が挙げられる。Okamoto and Toriumi (2005)では、四国三波川変成帯の塩基性片岩を採取し、加水して成長するアクチノ閃石の成長率を指標として加水の空間的不均質性を議論した。しかしこのようなEPMAによる分析は、多試料に対してコストが膨大となる。そこで松野 (2025)は試料の代表的データを効率的に得る手法として、多試料を粉末にしてX線回折するPXRD分析を行った。そして多数のPXRDスペクトルデータに教師なし機械学習手法である次元圧縮手法を適用し、データの主要変動要因や連続的変化の抽出を試みた。すると試料群に内在する変成作用ステージの連続的変化が可視化された。本研究では同様に、後退変成作用を受けた東五良津岩体周辺部を対象に、高精度PXRD分析を行い次元圧縮を適用することで、採取エリアの空間パターン及び特徴量の変化を検討した。
 四国三波川変成帯別子地域の東五良津岩体はザクロ石含有変斑れい岩であり、周囲にはザクロ石含有塩基性片岩や泥質片岩が分布する(Ota et al., 2004)。この一帯はエクロジャイト相まで沈み込んだ後、上昇期に複数段階の後退変成作用を受けており、特に岩体の境界部では後退変成作用を受けた組織が顕著に見られる。我々は岩体南東部の境界部を横断する2つのルートで計82試料を採取した。試料は粉末化し放射光施設SPring-8のビームラインBL19B2にて高精度にPXRD分析を行った。得られたスペクトルはリートベルト解析により全岩鉱物量比を求めた。同時にスペクトルデータに対して、教師なし次元圧縮手法であるUMAP (Uniform Manifold Approximation Projection)及びPCA(主成分分析)を適用し、類似性や特徴量を抽出、可視化した。UMAPは入力された多次元データを2次元上で表現する手法であり、類似したスペクトルほど近い位置にプロットされるため、スペクトル間の類似性を可視化できる。PCAはデータの分散が最大となる直線軸(主成分軸)を取ることで、データを最も説明する変数から捉える手法である。ここで、各主成分に対して元の変数(回折角)が寄与する割合を負荷量と、各軸の表現する情報量の割合を寄与率と、各軸上の値を得点と定義する。
 結果について、PXRDのスペクトルからは主要なピークとして石英、角閃石、緑簾石、斜長石が確認された。次元圧縮の結果について、まずUMAPによって試料群は連続的にプロットされ、K-means法によって9つのクラスターに分かれた。ある程度原岩の種別が反映されており、地質学的知見がなくともPXRD分析のデータで原岩を判別できる可能性が示唆された。さらに各クラスターの試料群は、岩石の組織と全岩鉱物量比が比較的類似した。空間分布もクラスター毎に概ねまとまり、採取ルートに沿ってクラスターが滑らかに変化する分布を示した。よって粉試料のPXRDスペクトルは、岩石の組織や全岩鉱物量比、空間分布に対応した情報を持つことが示唆された。次にPCAの結果を示す。まず負荷量について、元の変数である回折角のうちピークの回折角は特定鉱物を示すため、各鉱物の代表ピーク(他鉱物と重ならない最大強度のピーク)に対する負荷量を以て、主成分と鉱物量比の関係として解釈することができる。つまり、ある鉱物の代表ピークにおける負荷量が正であれば、主成分はその鉱物量比が増加する方向、負であれば減少する方向の成分である。また、負荷量の絶対値が大きいほど量比の変化は大きい。PC1(寄与率29%)、PC2(寄与率17%)、PC3(寄与率11%)について、負荷量の絶対値から今回のデータを説明する主要鉱物は角閃石、緑簾石、石英、斜長石であることがわかった。 続いて各主成分スコアの空間分布を考えると、東五良津岩体外部から内部に向かい、PC1~3の得点が正または負の相関関係を示した。主成分と各鉱物量比の関係も踏まえると、岩体内部に向かって角閃石, 緑簾石, 斜長石の量比が大きく、石英の量比が小さくなる連続的なトレンドが得られ、この変化が試料群の最も主要な特徴であることが示された。この地質学的な意味について、特に加水の影響をどのように反映しているかについては今後検討していく。

参考文献
・A. Okamoto and M. Toriumi (2005). J. metamorphic Geol., 23, 335–356
・松野哲士 (2025). 岩石鉱物科学, 54, 1-5
・Ota et al. (2004). Lithos, 73, 95-126