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[T1-O-19]Timing of mantle wedge alteration events recorded by baddeleyite aggregates in the Higuchi serpentinite body, Sanbagawa belt

*Hikaru Sawada1,2, Ryosuke Oyanagi3,2, Sota Niki6, Kazuki Yoshida4, Mitsuhiro Nagata5, Takafumi Hirata7, Atsushi Okamoto8 (1. University of Toyama, 2. JAMSTEC, 3. Kokushikan University, 4. KEK, 5. Nihon University, 6. Nagoya University, 7. The University of Tokyo, 8. Tohoku University)
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Keywords:

subduction zone,metamorphic rock,metasomatism,zirconium

 低温高圧変成帯である三波川帯の変成岩中には数十cmから数kmスケールまで大小様々な岩塊で蛇紋岩が点在し、それらはかつての沈み込み帯深部におけるスラブとマントルウェッジの境界領域の地質記録である。この領域での変成・交代作用によって生じる鉱物種、岩石組織、地質構造はプレート沈み込み帯の地震活動に影響することから注目されている[1]。この領域の代表的な地質記録の一例として、埼玉県長瀞町の荒川河原に露出する三波川変成帯の樋口蛇紋岩体(HSB)がある。HSBは15 m× 8 mの小規模な岩体で、変形によりブロック-イン-マトリックス構造を持つアンチゴライト質の蛇紋岩からなり、周囲は泥質片岩に囲まれ、境界部分には厚さ数十cmの緑泥石岩と緑閃石岩の層がある。また、HSB内部には炭酸塩鉱物(苦灰石、方解石)と滑石からなる幅数十cmに至る脈が多数貫入している。この炭酸塩-滑石脈は、周囲の泥質片岩中の石墨の酸化で生じた二酸化炭素によって超苦鉄質岩の炭酸塩化が起こるとともに、放出されたシリカと蛇紋石との反応から滑石が生じて形成したと考えられている[2]。我々はHSBの蛇紋岩の中から長径2 mmに及ぶバデレアイトの繊維状結晶の集合体を発見し、その年代値と微量元素組成を報告した[3]。バデレアイト集合体はHSBの中の約50cm程度の1つの蛇紋岩ブロックのみから見出され、他に約50 kgほどの蛇紋岩試料を観察したが見つからなかった。バデレアイト集合体の外形はやや角張った短柱状で、縁辺には多孔質のジルコンリムが20μm以下の幅で生じている。LA-ICPMSによるU-Pb年代測定の結果、これらバデレアイト、ジルコンリムは共に約96±3 Maを示した。さらに、バデレアイト・ジルコンリムは共に軽希土類元素と重希土類元素の両方に富み、またバデレアイトの一部とジルコンリムはEuの正異常や10を超える極めて高いTh/Uを示すという特異な組成を持つ。これらの特徴から、以下のような過程をバデレアイト集合体は経験したと推定される。まず、ヒスイ輝石岩や曹長岩、ロディン岩などの交代岩で生じたジルコン巨晶が、超苦鉄質岩の中に機械的に混入する。その後、ジルコンのシリカはかんらん石の蛇紋岩化に消費され、繊維状バデレアイト集合体からなる仮晶に変化する。マントルウェッジの蛇紋岩がHSBとして断片化して泥質片岩の中に取り込まれると、炭酸塩化に伴ってシリカ活動度が上昇し、滑石の形成とともにバデレアイト集合体に多孔質ジルコンリムを形成する。バデレアイト・ジルコンリムが共に約96±3 Maの年代を示すが、これは炭酸塩化の際の年代値であり、バデレアイトは鉛ロスによって上書きをされた年代を、ジルコンリムは形成年代を各々意味していると考えられる。これらの年代は、本地域の泥質片岩の白雲母K-Ar年代84-72 Ma[4]や四国から報告されているエクロジャイト変成年代90-88 Ma[5]よりも若干古い。泥質堆積物がスラブとともに沈み込んで変成し、マントルウェッジの蛇紋岩体を取り込んだ後、数Maほど滞留してから上昇が始まったというシナリオが想像される。バデレアイト集合体の元のジルコン巨晶や、その母岩であった変質岩は蛇紋岩化によって完全に消失しており手がかりは無いため、今回の発見物に対する来歴には謎が残るが、このようなアクセサリー鉱物の分析によって三波川変成帯での変成・変形イベントに年代値を与えられた意義は大きいだろう。
引用文献: [1] Oyanagi and Okamoto (2024). Nat. Commun. [2] Okamoto et al. (2022). Nat. Commun. [3] Sawada et al. (2025). Sci. Rep. [4]平島ほか(1992). 地質雑. [5] Knittel et al. (2024) Elements.