Presentation Information
[T1-O-22]Comparative study of serpentinite mélanges in the Nishisonogi unit and the Nomo unit of the Nagasaki Metamorphic Complex
*Tadao NISHIYAMA1, Miki Shigeno2, Yasushi Mori2, Kazuhiro Miyazaki3 (1. Kumamoto University, 2. Kitakyushu Museum of Natural History and Human History, 3. AIST)
Keywords:
serpentinite melange,Nagasaki Metamorphic Complex,Nishisonogi unit,Nomo unit,subduction zone
九州西端の白亜紀沈み込み変成岩である長崎変成岩の西彼杵ユニットと野母ユニットには,特徴の異なる蛇紋岩メランジュ(それぞれ西彼杵メランジュ,野母メランジュと称する)が発達する1,2.それぞれの産状と構成岩種,変成度の違いから蛇紋岩メランジュの発達過程の相違について,フランシスカン帯における蛇紋岩メランジュの最近の研究を参照しながら考察する.
<産状> 西彼杵メランジュは厚さ最大350 m,長さ最長8 kmにおよぶ狭長な層状岩体として,coherent schistの中にほぼ調和的に(片理に平行に)産する.この産状はフランシスカン帯のmélange within coherent nappes3に相当する.また小規模な(厚さ数10 m,長さ数100 m)蛇紋岩体の一部に塊状蛇紋岩から移化して発達するものも存在する4.野母メランジュは,coherent schistと塊状蛇紋岩の境界部に厚さ100 m程度の岩体として産するものと,塊状蛇紋岩の内部に,厚さ300~800 mの層状岩体として産するものがある.後者の産状の蛇紋岩メランジュはフランシスカン帯からは報告例がないようである.
<構成岩種> 西彼杵メランジュはアクチノ閃石片岩を基質とし,構造岩塊として変成塩基性岩類と種々の交代岩類(ヒスイ輝石岩,オンファス輝石岩,曹長岩,ロジン岩,ゾイサイト岩など),ごくまれに単斜輝岩とその交代岩(緑簾石角閃石単斜輝石岩),泥質片岩などを含む.変成塩基性岩類のうち,原岩が推定できるものは変成ハンレイ岩のみで,その他は原岩が不明である.構造岩塊の多くは顕著な延性変形(閉じた褶曲)を示す.野母メランジュの基質はアクチノ閃石片岩,滑石片岩,緑泥石片岩,アルカリ角閃石片岩などであり,構造岩塊として変成火山岩・火山砕屑岩類(変成された枕状溶岩,ハイアロクラスタイト,火山角礫岩など),変成ハンレイ岩,角閃岩,曹長岩などが含まれる.メランジュは全体としてblock-in-matrix構造を示すが,構造岩塊自身もblock-in-matrix構造(マグマの冷却過程で生じた自破砕組織やカタクラスティックな破砕組織)を示すものが多く,延性変形を示すものは稀である.
<変成度> 西彼杵メランジュの変成度は,400–500 ℃,1–2 GPa程度1であり,雪浦のものだけがマイクロダイヤモンドの産出により,2.8 GPa以上の超高圧条件を示す4.また変成単斜輝岩由来の交代岩は例外的に高温(約800 ℃)の条件を示し,これらの岩石がウェッジマントル由来であることを示唆する1.野母メランジュは,温度圧力計に用いることのできる鉱物組み合わせが存在しないことにより,pseudosection法により,おおよその変成条件を見積もった.その結果,藍閃石とカトフォル閃石を含む変成ハンレイ岩について,460–500 ℃,0.8–0.9 GPaという結果を得た.これにより,野母メランジュの形成条件は西彼杵メランジュと比較して,温度はほぼ同じで,圧力は著しく低いことが示された.
<成因に関する考察>以上の岩種構成と変成条件から,西彼杵メランジュは,沈み込み帯のウェッジマントルに由来する超苦鉄質岩類と海洋地殻表層部の苦鉄質岩類が,深部で混合し,沈み込み帯の付加体堆積物の中に構造的に貫入したと考えられる.変成火山岩類が認められないのは,強い延性変形と再結晶作用により,原岩組織が失われたためと考えられる.一方,野母メランジュには角閃岩が特徴的に含まれる.これは大洋底変成作用の産物と考えられ,変成火山岩類とともにメランジュ中に産することは,野母メランジュの起源が,oceanic core complexまたはそれに類似した海洋リソスフェアの物質に由来し,沈み込み帯の比較的浅い場所で,沈み込む海洋プレート表層に露出していたこれらの岩石が混合し,変成作用を受けたものと推定される.
引用文献 1 Nishiyama et al., (2024) Island Arc, 33, e12527, 2 西山ほか(2024)地質学会講演要旨 T1-O-4, 3 Wakabayashi (2011) GSA Special Paper 480, 4 Nishiyama et al., (2020) Sci. Rept, 10: 11645
<産状> 西彼杵メランジュは厚さ最大350 m,長さ最長8 kmにおよぶ狭長な層状岩体として,coherent schistの中にほぼ調和的に(片理に平行に)産する.この産状はフランシスカン帯のmélange within coherent nappes3に相当する.また小規模な(厚さ数10 m,長さ数100 m)蛇紋岩体の一部に塊状蛇紋岩から移化して発達するものも存在する4.野母メランジュは,coherent schistと塊状蛇紋岩の境界部に厚さ100 m程度の岩体として産するものと,塊状蛇紋岩の内部に,厚さ300~800 mの層状岩体として産するものがある.後者の産状の蛇紋岩メランジュはフランシスカン帯からは報告例がないようである.
<構成岩種> 西彼杵メランジュはアクチノ閃石片岩を基質とし,構造岩塊として変成塩基性岩類と種々の交代岩類(ヒスイ輝石岩,オンファス輝石岩,曹長岩,ロジン岩,ゾイサイト岩など),ごくまれに単斜輝岩とその交代岩(緑簾石角閃石単斜輝石岩),泥質片岩などを含む.変成塩基性岩類のうち,原岩が推定できるものは変成ハンレイ岩のみで,その他は原岩が不明である.構造岩塊の多くは顕著な延性変形(閉じた褶曲)を示す.野母メランジュの基質はアクチノ閃石片岩,滑石片岩,緑泥石片岩,アルカリ角閃石片岩などであり,構造岩塊として変成火山岩・火山砕屑岩類(変成された枕状溶岩,ハイアロクラスタイト,火山角礫岩など),変成ハンレイ岩,角閃岩,曹長岩などが含まれる.メランジュは全体としてblock-in-matrix構造を示すが,構造岩塊自身もblock-in-matrix構造(マグマの冷却過程で生じた自破砕組織やカタクラスティックな破砕組織)を示すものが多く,延性変形を示すものは稀である.
<変成度> 西彼杵メランジュの変成度は,400–500 ℃,1–2 GPa程度1であり,雪浦のものだけがマイクロダイヤモンドの産出により,2.8 GPa以上の超高圧条件を示す4.また変成単斜輝岩由来の交代岩は例外的に高温(約800 ℃)の条件を示し,これらの岩石がウェッジマントル由来であることを示唆する1.野母メランジュは,温度圧力計に用いることのできる鉱物組み合わせが存在しないことにより,pseudosection法により,おおよその変成条件を見積もった.その結果,藍閃石とカトフォル閃石を含む変成ハンレイ岩について,460–500 ℃,0.8–0.9 GPaという結果を得た.これにより,野母メランジュの形成条件は西彼杵メランジュと比較して,温度はほぼ同じで,圧力は著しく低いことが示された.
<成因に関する考察>以上の岩種構成と変成条件から,西彼杵メランジュは,沈み込み帯のウェッジマントルに由来する超苦鉄質岩類と海洋地殻表層部の苦鉄質岩類が,深部で混合し,沈み込み帯の付加体堆積物の中に構造的に貫入したと考えられる.変成火山岩類が認められないのは,強い延性変形と再結晶作用により,原岩組織が失われたためと考えられる.一方,野母メランジュには角閃岩が特徴的に含まれる.これは大洋底変成作用の産物と考えられ,変成火山岩類とともにメランジュ中に産することは,野母メランジュの起源が,oceanic core complexまたはそれに類似した海洋リソスフェアの物質に由来し,沈み込み帯の比較的浅い場所で,沈み込む海洋プレート表層に露出していたこれらの岩石が混合し,変成作用を受けたものと推定される.
引用文献 1 Nishiyama et al., (2024) Island Arc, 33, e12527, 2 西山ほか(2024)地質学会講演要旨 T1-O-4, 3 Wakabayashi (2011) GSA Special Paper 480, 4 Nishiyama et al., (2020) Sci. Rept, 10: 11645
