Presentation Information
[T10-O-3]Provenance variation of the Paleocene to early Miocene Shimanto accretionary complex, Muroto Peninsula, Southwest Japan
*Hidetoshi HARA1, Satoshi TONAI2, Hinako MATSUMOTO3 (1. AIST, 2. Kochi Univ., 3. Dia Nippon Engineering Consultants Co., Ltd.)
Keywords:
Shimanto Belt,Murotohanto Group,Nabae Group,Provenance,Japanese arc
四国東部の室戸半島では,四万十帯に属する暁新世〜前期中新世の付加コンプレックスが広く分布する(平ほか,1980; Hibbard et al., 1992).このうち暁新統〜下部漸新統は室戸半島層群,上部漸新統〜下部中新統は菜生層群と呼ばれている.原ほか(2024)は,両層群において砂岩組成及び砂岩と凝灰岩のジルコンU–Pb年代測定を行い,層序区分の見直しを行った.今回,両層群の後背地変遷を検討し,さらに日本弧の発達史との関係から,四万十帯付加コンプレックスの形成過程について考察する.層序区分の見直しでは,室戸半島層群は大山岬層・東川層・奈半利川層・佐喜浜メランジュ・室戸層・漸新統メランジュに区分される.菜生層群は日沖メランジュ・津呂層・坂本メランジュ・岬層に区分され,これらは海溝斜面堆積物の四十寺山層に覆われる.
室戸半島層群の砂岩は,石英・長石に富む長石質〜石質アレナイトからなり,SiO2含有量は約80wt%以上である.砕屑性ジルコンの年代分布では,室戸半島層群からは2つの傾向が見られる.暁新統〜下部始新統の大山岬層・東川層は,白亜紀のジルコンから構成される単一の年代ピークを示す特徴をもち,原生代のジルコンをわずかに含む.一方,中部始新統〜下部漸新統の奈半利川層・佐喜浜メランジュ・室戸層では,ペルム紀〜白亜紀のジルコンを多く含み,これらが複数の年代ピークを示す.また前期古生代や原生代のジルコンも含む.菜生層群の砂岩は,室戸半島層群に比べ火山岩片を含み,石質ワッケ〜アレナイトからなり,SiO2含有量は約80wt%以下である.白亜紀と古第三紀のジルコンを多く含み,これらが2つの年代ピークを示す.またペルム紀〜ジュラ紀と原生代のジルコンも含む.
砂岩組成及び砕屑性ジルコン年代より,四万十帯付加コンプレックスの形成と,後背地である日本弧の発達史(Imaoka et al., 2011; Kano et al., 2017;中嶋,2018)との関連について検討を行う.暁新世〜前期始新世には,大山岬層で三波川変成岩類や領家・山陽深成岩類を起源とする特異的な礫岩が堆積する(平ほか,1980).この礫岩は,イザナギー太平洋海嶺の沈み込みに伴う,日本弧の急激な上昇と削剥によって形成されたと考えられている(Shimura et al., 2025).またイザナギー太平洋海嶺の沈み込みの時期(60–40 Ma)は,日本弧側で火成活動のハイエタスが生じ,さらに130–60 Maに形成された白亜紀の火山弧が回転・削剥したことが議論されている(Yamaoka and Wallis, 2023).大山岬層と東川層における大量の白亜紀ジルコンの供給は,海嶺沈み込みのイベントが関連していることを示唆する.中期始新世〜前期漸新世は,海嶺の沈み込み後,引き続き若い太平洋プレートの沈み込みが起きた.そして,アジア大陸東縁で火山弧が形成されるとともに,背弧側ではリフティングも生じた.この時期には,主にペルム紀〜白亜紀の基盤の上昇・削剥が起きジルコンが供給されている.一方,古第三紀の火山弧からの供給は非常に稀である.そのため,上昇・削剥のイベントは前弧域に集中していたと考えられる.後期漸新世には,日本列島全域が広域不整合に覆われた.この時期,菜生層群の日沖メランジュが形成されている.日沖メランジュは,泥岩ないし泥質基質の多いメランジュからなる.不整合形成時には,海溝にも粗い堆積物の供給が生じていなかったことが示唆される.中期中新世になると,日本海拡大初期のリフティングが起き始めた.津呂層・坂本メランジュ・岬層では,奈半利川層群に比べ砂岩中に火山岩片を含むこと,さらに白亜紀と古第三紀のジルコンを多く含む特徴がある.また堆積年代に調和的な前期中新世のジルコンもわずかながらに含まれる.この時期は,前弧側の白亜紀の火山弧だけでなく,背弧側の古第三紀の火山弧も広く上昇・削剥したことが考えられる.菜生層群の形成後,四国海盆の沈み込みや本格的な日本海拡大へと日本弧のテクトニクスが劇的に変化する.室戸半島層群と菜生層群の後背地変遷から,暁新世から前期中新世にかけた日本弧の発達史に関連し,四万十帯の付加コンプレックスが連続的に形成されたことが復元できる.
文献:原ほか(2024)日本地質学会第131年学術大会講演要旨.Hibbard et al. (1992) IAR 1, 133–147. Imaoka et al. (2011) JAES 40, 509–533. Kano et al. (2007) JAES 30, 20–32. 中嶋(2018)地質雑 124,693–722. Shimura et al. (2025) Tectonics 44, e2024TC008497. 平ほか (1980)四万十帯の地質学と古生物学,319–389. Yamaoka and Wallis (2023) PEPS 10, 62.
室戸半島層群の砂岩は,石英・長石に富む長石質〜石質アレナイトからなり,SiO2含有量は約80wt%以上である.砕屑性ジルコンの年代分布では,室戸半島層群からは2つの傾向が見られる.暁新統〜下部始新統の大山岬層・東川層は,白亜紀のジルコンから構成される単一の年代ピークを示す特徴をもち,原生代のジルコンをわずかに含む.一方,中部始新統〜下部漸新統の奈半利川層・佐喜浜メランジュ・室戸層では,ペルム紀〜白亜紀のジルコンを多く含み,これらが複数の年代ピークを示す.また前期古生代や原生代のジルコンも含む.菜生層群の砂岩は,室戸半島層群に比べ火山岩片を含み,石質ワッケ〜アレナイトからなり,SiO2含有量は約80wt%以下である.白亜紀と古第三紀のジルコンを多く含み,これらが2つの年代ピークを示す.またペルム紀〜ジュラ紀と原生代のジルコンも含む.
砂岩組成及び砕屑性ジルコン年代より,四万十帯付加コンプレックスの形成と,後背地である日本弧の発達史(Imaoka et al., 2011; Kano et al., 2017;中嶋,2018)との関連について検討を行う.暁新世〜前期始新世には,大山岬層で三波川変成岩類や領家・山陽深成岩類を起源とする特異的な礫岩が堆積する(平ほか,1980).この礫岩は,イザナギー太平洋海嶺の沈み込みに伴う,日本弧の急激な上昇と削剥によって形成されたと考えられている(Shimura et al., 2025).またイザナギー太平洋海嶺の沈み込みの時期(60–40 Ma)は,日本弧側で火成活動のハイエタスが生じ,さらに130–60 Maに形成された白亜紀の火山弧が回転・削剥したことが議論されている(Yamaoka and Wallis, 2023).大山岬層と東川層における大量の白亜紀ジルコンの供給は,海嶺沈み込みのイベントが関連していることを示唆する.中期始新世〜前期漸新世は,海嶺の沈み込み後,引き続き若い太平洋プレートの沈み込みが起きた.そして,アジア大陸東縁で火山弧が形成されるとともに,背弧側ではリフティングも生じた.この時期には,主にペルム紀〜白亜紀の基盤の上昇・削剥が起きジルコンが供給されている.一方,古第三紀の火山弧からの供給は非常に稀である.そのため,上昇・削剥のイベントは前弧域に集中していたと考えられる.後期漸新世には,日本列島全域が広域不整合に覆われた.この時期,菜生層群の日沖メランジュが形成されている.日沖メランジュは,泥岩ないし泥質基質の多いメランジュからなる.不整合形成時には,海溝にも粗い堆積物の供給が生じていなかったことが示唆される.中期中新世になると,日本海拡大初期のリフティングが起き始めた.津呂層・坂本メランジュ・岬層では,奈半利川層群に比べ砂岩中に火山岩片を含むこと,さらに白亜紀と古第三紀のジルコンを多く含む特徴がある.また堆積年代に調和的な前期中新世のジルコンもわずかながらに含まれる.この時期は,前弧側の白亜紀の火山弧だけでなく,背弧側の古第三紀の火山弧も広く上昇・削剥したことが考えられる.菜生層群の形成後,四国海盆の沈み込みや本格的な日本海拡大へと日本弧のテクトニクスが劇的に変化する.室戸半島層群と菜生層群の後背地変遷から,暁新世から前期中新世にかけた日本弧の発達史に関連し,四万十帯の付加コンプレックスが連続的に形成されたことが復元できる.
文献:原ほか(2024)日本地質学会第131年学術大会講演要旨.Hibbard et al. (1992) IAR 1, 133–147. Imaoka et al. (2011) JAES 40, 509–533. Kano et al. (2007) JAES 30, 20–32. 中嶋(2018)地質雑 124,693–722. Shimura et al. (2025) Tectonics 44, e2024TC008497. 平ほか (1980)四万十帯の地質学と古生物学,319–389. Yamaoka and Wallis (2023) PEPS 10, 62.
