Presentation Information
[T10-O-4]Zircon U-Pb dates and paleomagnetic directions from the Chichibu and Itsukaichi sedimentary basins: New insights into Neogene tectonics of the Kanto Mountains in central Honshu
*Hiroyuki HOSHI1, Ikumi MATSUMOTO1, Hideki IWANO2,3, Tohru DANHARA2 (1. Aichi University of Education, 2. Kyoto Fission-Track Co. Ltd, 3. Geochemical Research Center, The University of Tokyo)
Keywords:
Kanto Mountains,Chichibu,Itsukaichi,Neogene,Izu arc,U-Pb,Paleomagnetism,Tectonins
はじめに 筆者らは関東山地北部の秩父盆地および関東山地東縁部の五日市盆地に分布する新第三系堆積岩から得られたジルコンU-Pb年代と古地磁気方位について報告する。関東山地は中新世以降にアジア大陸に対して約90°時計回りに回転したと考えられている[1]。その回転の半分は日本海拡大時に西南日本と一体となって起こった時計回り回転で、残りの半分は伊豆弧の本州への衝突・突入に伴う時計回り回転と解釈されている[2]。西南日本の時計回り回転は17.5~15.8 Maの間に起こったと考えられている[3]。これらの考えを統合すると、関東山地は17.5~15.8 Maの間に西南日本の一部としてアジア大陸に対して45°程度時計回りに回転し、15.8 Ma以降さらに45°程度時計回りに回転したことになる。しかし、今回得られたデータはこの推論と合わない。
秩父盆地 中新統赤平層群上部、秩父町層に挟在する珪長質軽石質凝灰岩についてLA-ICP-MS法でジルコンU-Pb年代を測定した。この凝灰岩は火山灰タービダイトと考えられ、ジルコン粒子年代値の分布から砕屑性ジルコンの混入が確認されたため、YC2σ(3+)法[4]を適用して最若年代クラスター判別とその年代決定を試みた。その結果、15.2 ± 0.2 Ma(7粒子、MSWD = 1.3)の加重平均年代値が決定された。これは赤平層群上部から初となる放射年代値報告である。この年代値は最大堆積年代(MDA)と判断されるが、軽石質凝灰岩であること、および粒子年代値が適度にまとまっていることから,ほぼ堆積年代を示す可能性が高い。先行研究の古地磁気データ[1]を信用すると、赤平層群上部は正極性であることからクロノゾーンC5Bn下部に対比され、年代は約15.1 Maと判断される。赤平層群の古地磁気方位は約90°の東偏を示すことから、秩父盆地における約90°の時計回り回転は15.1 Ma以降に起こったと考えられる。
五日市盆地 中新統秋川層群上部、横沢層の下部に挟在する珪長質細粒凝灰岩についてもLA-ICP-MS法でジルコンU-Pb年代を測定した。この凝灰岩も火山灰タービダイトであり、砕屑性ジルコンの混入も確認されたため、秩父盆地の場合と同様にYC2σ(3+)法で最若年代クラスター判別とその年代決定を試みた。その結果、17.9 ± 0.2 Ma(11粒子、MSWD = 1.3)の加重平均年代値が決定された。これは秋川層群から初となる放射年代値報告である。この年代値はMDAと判断されるが、秩父盆地の場合と同様、ほぼ堆積年代を示す可能性が高い。横沢層の上部は浮遊性有孔虫化石層序のN8帯(17.0~15.1 Ma)に対比されるため、横沢層の下部と上部との間に数10万年以上の堆積年代ギャップ(堆積速度の著しい減少、または不整合)が存在する可能性がある。一方、秋川層群の合計23地点から採取した泥岩と凝灰岩の古地磁気を検討した結果、10地点から古地磁気褶曲テストと逆転テストに合格する信頼性の高い方位が得られた。秋川層群下部の幸神層・小庄層・館谷層が正極性、横沢層下部が逆極性であり、上述のU-Pb年代を踏まえると正極性帯はC5Enに、横沢層下部の逆極性帯はC5Drにそれぞれ対比可能と判断される。10個の地点方位の平均は偏角が約98°、伏角が約57°で(α95 = 約10°)、アジア大陸の前期中新世参照方位と比較すると、五日市盆地では横沢層下部堆積後にアジア大陸に対して約90°の時計回り回転が起こったと考えられる。
示唆 秩父盆地と五日市盆地の古地磁気方位はほぼ同じで有意差がないため、今回得られた2個のU-Pb年代値が凝灰岩の堆積年代を示すと仮定すると、関東山地では17.9 ± 0.2 Maから15.1 Maまでの間に回転運動がなかったことになる。関東山地は日本海拡大時にアジア大陸に対して平行移動し、日本海拡大後の15.1 Ma以降に伊豆弧衝突によって約90°時計回りに回転したと考えられる。今回の結果は、伊豆弧衝突が関東山地の地殻運動に与えた影響は従来の推測よりも大きいこと、本格的な衝突開始は15.1 Ma以降の可能性が高いこと、および本州中部の八の字型屈曲構造(関東対曲構造)の形成過程は見直しが必要であることを示唆する。
文献
[1] Hyodo & Niitsuma, 1986, J. Geomag. Geoelectr. 38, 335-; [2] Takahashi & Saito, 1997, Isl. Arc 6, 168-; [3] Hoshi et al., 2015, EPS 67, 92; [4] Dickinson & Gehrels, 2009, EPSL 288, 115-
秩父盆地 中新統赤平層群上部、秩父町層に挟在する珪長質軽石質凝灰岩についてLA-ICP-MS法でジルコンU-Pb年代を測定した。この凝灰岩は火山灰タービダイトと考えられ、ジルコン粒子年代値の分布から砕屑性ジルコンの混入が確認されたため、YC2σ(3+)法[4]を適用して最若年代クラスター判別とその年代決定を試みた。その結果、15.2 ± 0.2 Ma(7粒子、MSWD = 1.3)の加重平均年代値が決定された。これは赤平層群上部から初となる放射年代値報告である。この年代値は最大堆積年代(MDA)と判断されるが、軽石質凝灰岩であること、および粒子年代値が適度にまとまっていることから,ほぼ堆積年代を示す可能性が高い。先行研究の古地磁気データ[1]を信用すると、赤平層群上部は正極性であることからクロノゾーンC5Bn下部に対比され、年代は約15.1 Maと判断される。赤平層群の古地磁気方位は約90°の東偏を示すことから、秩父盆地における約90°の時計回り回転は15.1 Ma以降に起こったと考えられる。
五日市盆地 中新統秋川層群上部、横沢層の下部に挟在する珪長質細粒凝灰岩についてもLA-ICP-MS法でジルコンU-Pb年代を測定した。この凝灰岩も火山灰タービダイトであり、砕屑性ジルコンの混入も確認されたため、秩父盆地の場合と同様にYC2σ(3+)法で最若年代クラスター判別とその年代決定を試みた。その結果、17.9 ± 0.2 Ma(11粒子、MSWD = 1.3)の加重平均年代値が決定された。これは秋川層群から初となる放射年代値報告である。この年代値はMDAと判断されるが、秩父盆地の場合と同様、ほぼ堆積年代を示す可能性が高い。横沢層の上部は浮遊性有孔虫化石層序のN8帯(17.0~15.1 Ma)に対比されるため、横沢層の下部と上部との間に数10万年以上の堆積年代ギャップ(堆積速度の著しい減少、または不整合)が存在する可能性がある。一方、秋川層群の合計23地点から採取した泥岩と凝灰岩の古地磁気を検討した結果、10地点から古地磁気褶曲テストと逆転テストに合格する信頼性の高い方位が得られた。秋川層群下部の幸神層・小庄層・館谷層が正極性、横沢層下部が逆極性であり、上述のU-Pb年代を踏まえると正極性帯はC5Enに、横沢層下部の逆極性帯はC5Drにそれぞれ対比可能と判断される。10個の地点方位の平均は偏角が約98°、伏角が約57°で(α95 = 約10°)、アジア大陸の前期中新世参照方位と比較すると、五日市盆地では横沢層下部堆積後にアジア大陸に対して約90°の時計回り回転が起こったと考えられる。
示唆 秩父盆地と五日市盆地の古地磁気方位はほぼ同じで有意差がないため、今回得られた2個のU-Pb年代値が凝灰岩の堆積年代を示すと仮定すると、関東山地では17.9 ± 0.2 Maから15.1 Maまでの間に回転運動がなかったことになる。関東山地は日本海拡大時にアジア大陸に対して平行移動し、日本海拡大後の15.1 Ma以降に伊豆弧衝突によって約90°時計回りに回転したと考えられる。今回の結果は、伊豆弧衝突が関東山地の地殻運動に与えた影響は従来の推測よりも大きいこと、本格的な衝突開始は15.1 Ma以降の可能性が高いこと、および本州中部の八の字型屈曲構造(関東対曲構造)の形成過程は見直しが必要であることを示唆する。
文献
[1] Hyodo & Niitsuma, 1986, J. Geomag. Geoelectr. 38, 335-; [2] Takahashi & Saito, 1997, Isl. Arc 6, 168-; [3] Hoshi et al., 2015, EPS 67, 92; [4] Dickinson & Gehrels, 2009, EPSL 288, 115-
