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[T8-O-1][Invited] Current status and issues of geological disposal study focused on coastal areas

*REO IKAWA1 (1. Geological Survey of JAPAN, AIST)
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Keywords:

Geological Disporsal,Coastal area,Groundwater,Salt water/freash water boundary,Site Discriptive Model

 産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門地下水研究グループは2000年以降,経済産業省資源エネルギー庁からの委託事業として,北海道の利尻島,千葉県の九十九里,茨城県の東海村などで沿岸部のおもに浅層地下水と塩淡境界に関する研究を実施してきた.その後,より地層処分事業を意識した沿岸域深部における地質環境特性に関する知見の収集のため,2007年4月から研究開発事業「沿岸域塩淡境界・断層評価技術高度化開発」を開始した.本事業は,現在までつづく沿岸部や海域を対象とした地層処分研究の基礎となった.本事業では海岸線から約300m内陸に位置する北海道幌延町浜里小学校跡地において深度1200mの調査孔を含む複数のオールコアボーリング掘削を行い,各種物理検層や地下水の採水を実施するとともに,コアから抽出した間隙水を用いて浅層から深層に至るまで連続的に地下水流動系を評価した.また,陸域における反射法探査ならびに,海陸連続の電磁探査を実施し,地下深部における塩水と淡水の空間分布を評価した.これらの成果の詳細については,本稿では割愛するが,国内において沿岸海底下の広範囲(当該地域においては,少なくとも海岸線から5km以上)にわたり,氷期の海退時に涵養された淡水性地下水が保存されている可能性が高いことを初めて実証した.また,これまで地下水の流動場だと考えられてきた第四紀堆積物内においても,過去の地層堆積時に貯留された化石海水が残存することを実証した貴重な研究となった.
本事業により,超長期の海水準変動による塩淡境界の変遷が地層処分事業における沿岸部の地質環境特性の一つであることが示されたことから,2011年度以降も沿岸域深部の地質環境特性に着目したフィールド研究は加速されていくことになる.2013年度からは研究フィールドを静岡県富士市の沿岸部(駿河湾)へと移した.静岡県富士市沿岸部を選定した理由は,該当地域は,後背地に富士山を有し,おそらく国内において最も動水勾配が大きく,また火山性堆積物から構成される帯水層は非常に大きな透水性を有することから,地下水の視点からは,北海道幌延町沿岸部とは対極の地質環境特性を有していると考えられ,両地域の地下水流動特性を把握することで,国内における沿岸部地下水の流動に関する一般性と地域性を評価できると考えたためである.
2013年度以降は,静岡県の公設試である静岡県環境衛生科学研究所と連携し,国内の既存調査では,比較的狭い範囲かつ水深の浅い場所に限定されてきた海底湧出地下水の大規模な調査にも取り組んだ.海域は地下水の出口である一方で,陸域と比較してその情報量は非常に限定されていることから,海底湧出地下水を正確に評価することで,沿岸部における地下水流動をより正確に把握することが可能となると考えたからである.富士市の沿岸部を対象とした研究は2023年度まで継続され,地質構造モデルの不確実性低減にむけた課題整理や,地下水の数値解析手法の高度化,広範囲かつ大深度の海底湧出地下水調査手法の高度化など様々な成果を生み出すことができた. 2024年度以降は,「沿岸部地質環境調査・処分システム評価統合化技術開発」の一環として令和5年に策定された地層処分研究開発に関する全体計画に沿う形で,処分サイトの対象母岩である新第三紀以前の地層を対象に,おもに沿岸海底下の地質環境特性の把握を目的にNUMOが実施する概要調査段階で必要となる調査技術開発の高度化を,静岡県静岡市由比地区を対象に進めている.主な課題としては,低透水性の岩盤を対象とした孔内試験とそれに基づく地下水流動評価,浅海域における固結岩を対象とした地震探査ならび電磁探査技術の適用,課陸連続のシームレス地質断面図の作成などが挙げられる.
上記では主に産総研が主体となっている地質環境特性に関する研究をとりあげたが,2015年度以降,沿岸部事業は,複数の研究機関とのコンソーシアム方式で進められている.これは,地層処分事業が「地質環境の調査・評価」「処分場の設計」「安全評価」という3分野から成り立っており,それぞれの分野を担当する研究機関が連携することによって,より実事業において必要となる調査技術や知見が洗い出され,個々の研究成果が機能的に分野間で引き継がれることを意識しているためである.一方で,分野間連携を実施するためには,土台作りから始める必要があり,連携に向けた環境を醸成することも大きな課題の一つである.
本講演では,沿岸部研究の現状と課題についてより詳しく紹介する.

謝辞;本稿で紹介した成果は経済産業省資源エネルギー庁委託事業(「高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)」等で得られたものです.