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[T8-O-8]Methods for detecting magmas and high-temperature fluids

*Koichi ASAMORI1, Atsushi SAIGA1, Shoma FUKUDA1, Shigeru SUEOKA1, Koji UMEDA2 (1. Japan Atomic Energy Agency, 2. Hirosaki University)
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Keywords:

geological disposal,magmas and high-temperature fluids

 1.はじめに
 地層処分システムに著しい影響を及ぼす可能性のある自然現象のうち,火山活動に伴うマグマの貫入・噴出は,地層の物理的な隔離機能を喪失させる恐れがある。このため,「特定放射性廃棄物の最終処分における概要調査地区等の選定時に安全確保上少なくとも考慮されるべき事項」(原子力規制員会, 2022)では,概要調査地区等の選定時において「第四紀に活動した火山が存在しない場所であっても,新たな火山が生じる可能性のある場所」を避けることとしている。
沈み込み帯である日本列島では,スラブから放出された水の働きによってマントルの一部が融けて上昇し,マグマが形成される。このような過程で形成されたマグマは,一旦地殻内のマグマ溜りに蓄えられる等した後,地表に噴出し,火山になると考えられている。そのため,新たな火山の発生に係る潜在的なリスクを排除するには,地下深部のマグマ等の高温流体の有無を予め把握することが重要となる。本発表では,それに有用と考えられる手法や適用事例について述べる。

2.地球物理学・地球化学的手法
マグマ等の高温流体の存在を確認するためには,温度や流体の存在に応じて変化する性質をもつ物性値の空間分布を把握することが肝要である。これに有用な地球物理学的情報として,地殻や上部マントルを対象として推定が可能な地震波速度構造,地震波減衰構造,比抵抗構造が挙げられる。このほか,地温勾配,地震発生層の深さ分布,S波反射面の分布もマグマや高温流体等の存在についての情報を与えることができる。また,温泉ガス等に含まれるヘリウム同位体比(3He/4He比)も,地下深部にマグマが存在する可能性を示唆する地球化学的な指標の一つに挙げられる。
しかしながら,これらの情報を得るための手法は,対象領域の様々な条件により適用性や分解能が異なるほか,推定された結果をボーリング掘削によって直接的に確認することは困難である。そのため,調査にあたっては,単独の手法のみならず複数の観測や解析による情報をもとに総合的に考察し,その信頼性を確保することが重要となる。

3.非火山地域における適用事例
東北日本の背弧域に位置する飯豊山地では,新第三紀の火山活動の痕跡が認められるものの,それ以降の火山活動が認められていない。その一方で,飯豊温泉(泉温55℃)や湯ノ平温泉(泉温56℃)といった高温の温泉が湧出している。Umeda et al.(2006)によるMT(magnetotelluric)法電磁探査の適用事例では,これらの高温泉を含む領域に観測点を配置し,深さ40 km までの二次元比抵抗構造を推定した。その結果,地殻からモホ面付近まで連続する顕著な低比抵抗体が存在することや,この低比抵抗体の上面の形状が地殻内地震発生層の下面深度と調和的であることが示された。さらに,地震波トモグラフィによる三次元地震波速度構造の推定によって,この低比抵抗体の分布域と調和的な地震波低速度体が下部地殻に認められることを示した(Umeda et al., 2007)。この事例では,さらに温泉井で採取された地下水や遊離ガスのヘリウム同位体比といった地球化学的な情報も組み合わせることで,これらの地震波低速度・低比抵抗体はマントル起源のマグマ等の高温流体を示唆すると推定している。
最近では,飯豊山地の花崗岩試料に対して低温の閉鎖温度(<300℃)を持つ熱年代法(フィッション・トラック法,(U-Th)/He法)を適用した結果,この低比抵抗体の直上の領域を中心に有意な年代の減少が見られることが明らかになった(福田ほか, 印刷中)。この傾向は,奥羽脊梁山地のように,地下の高温領域が存在する地域に歪が集中し,結果として山地の隆起・削剥に関与している可能性を示唆する(例えば,深畑ほか, 2022)。すなわち,マグマ等の高温流体の存否を検討する上で,このような地表における山地スケールでの熱年代学的手法の適用も有用であることを示している。

謝 辞
本報告には経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成27~30年度地層処分技術調査等事業(沿岸部処分システム高度化開発)」及び「令和5~7年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部を使用している。

参考文献
深畑ほか (2022) 地学雑, 131(5), 479-496. 福田ほか (印刷中) フィッション・トラックニュースレター. 原子力規制委員会 (2022) 令和4年8月24日 原規規発第2208241号. Umeda et al. (2006) G-Cubed, 7, 1–8. Umeda et al. (2007) J. Geophys. Res., 112, 1–9.