Presentation Information
[T4-O-4]Frictional properties of limestone from seamounts : Relationship with seismic activity in subduction zones
*Mayuko SEKIKAWA1, Hanaya OKUDA2, Manami KITAMURA3, Miki TAKAHASHI3, Asuka YAMAGUCHI4, Michiyo SAWAI1 (1. Chiba Univ., 2. JAMSTEC, 3. GSJ, AIST, 4. AORI, Univ. Tokyo)
Keywords:
Friction experiment,Subduction zone,Seamount,Limestone
プレート境界型地震はアスペリティの破壊によって発生するとされており,その形成要因の一つとして沈み込んだ海底地形の凹凸が挙げられる.その最も代表的なものが海山である.これまで海山は,沈み込むとアスペリティとして作用し巨大地震を発生させる[1]と指摘されてきた.一方,バリアとして作用し破壊伝播を抑制する可能性[2]も提案されている.加えて,海山が地震を起こさずクリープを起こしている可能性も指摘されている[3].また,地形的高まりだけではなく,海山表面の摩擦が海山周辺の複雑な構造形成に関わることが近年明らかになった[4].このように,海山の沈み込みに関する多くの研究成果が報告されているが,それに関する系統的な摩擦実験は十分ではない.そこで本研究では,海山構成岩石を用いた摩擦実験を実施し,海山の力学的特性と地震活動の関係について検討することを試みた.
実験試料には,ジュラ紀付加体の美濃帯舟伏山ユニットに産出する海山由来の石灰岩を用いた.薄片観察及びXRD分析により,実験に使用した石灰岩は方解石(98.2 wt%)と石英(1.8 wt%)で構成されていることが判明した.
実験には,産業技術総合研究所設置のガス圧式高温高圧変形試験機を使用し,封圧150 MPa,間隙水圧100 MPa,温度(T)20-350℃,軸変位速度0.1—100 µm/sの条件下で行った.その結果,定常摩擦係数μss は約0.70-0.83となり,高温条件の方が高い値を示した.すべりの安定性を示すパラメータa-b値は,T = 20—50℃では0.0023—0.0051の値を示し,a-b > 0の速度強化となった.a-b値は,温度が上昇するに伴い減少し,T = 100℃では0.0003の値をとりa-b ≈ 0の速度中性を,T = 150—200℃になると,-0.0044—-0.0021の値を示し,a-b < 0の速度弱化へと遷移した.しかし,さらに温度が上昇するとa-b値は増加傾向へと転じ,T = 250—300℃で-0.0031—0.0009の値をとる速度中性,T = 350℃で0.0053の値をとり再び速度強化を示すことが明らかとなった.
SEMを用いた微細構造観察の結果,T =20℃の場合,試料全体にリーデル剪断面が発達しており,それら剪断面近傍には破砕による細粒化が発達していた.一方,T =350℃の場合,破砕はより剪断面近傍に集中しつつも,ガウジ層全体で粒子間に圧力溶解による凝集と思われる構造が確認されるなど,延性的な変形の証拠が観察された.a-b値が最小値を示すT =190℃では細粒化と粒子の凝集がともに見られ,脆性と延性の両特性を併せ持つ中間的な変形様式が認められた.高温の条件ほど,ガウジ層全体の中でこの凝集構造が占める割合が増加していた.これらの観察結果は,温度上昇により脆性的な変形から延性的な変形へと変形機構が遷移したことを示唆している.
本研究で得られた石灰岩の摩擦強度(μss:0.70—0.83)は,海山由来玄武岩の摩擦強度(μss:0.39—0.55) (Sawai et al., 2024 JpGU)と比べると高く,断層帯において両岩相が共存するような環境では,玄武岩が優先的に変形を担う可能性があると考えられる.一方で,a–b値が負の値をとる100℃—250℃では,石灰岩はすべりが不安定となる.このような条件下で石灰岩に剪断応力が集中すると,破壊の核となって地震を引き起こす可能性があると推測される.変質玄武岩[5]および泥岩[6]を用いて行われた高温高圧摩擦実験の結果から,石灰岩は変質玄武岩や泥岩より相対的に低い温度でa-b値が負から正に転じるため,より高温の地震発生帯の深部では石灰岩が不安定すべりを抑制する可能性を示唆している.このことから,沈み込み帯において石灰岩は,浅部の低温域では高い摩擦強度により応力を支える,または断層強度を高め,100℃—250℃の温度帯まで沈み込むと震源核の形成原因となり,250℃以上の深部領域ではすべり挙動が安定しすべりを抑制するなど,深度(温度)の変化に応じて異なる役割を果たしている可能性がある.
引用文献
[1] Cloos, 1992, Geology, 20(7), 601-604.
[2] Kodaira, et al., 2000, Science, 289(5476), 104-106.
[3] Mochizuki et al., 2008. Science, 321(5893), 1194-1197.
[4] Okuma et al., 2022, Tectonophysics, 845, 229644.
[5] Okuda et al., 2023, JGR Solid Earth, 128(1), e2022JB025072.
[6] den Hartog et al., 2012, Earth Planet Sci Lett, 353–354, 240-252
実験試料には,ジュラ紀付加体の美濃帯舟伏山ユニットに産出する海山由来の石灰岩を用いた.薄片観察及びXRD分析により,実験に使用した石灰岩は方解石(98.2 wt%)と石英(1.8 wt%)で構成されていることが判明した.
実験には,産業技術総合研究所設置のガス圧式高温高圧変形試験機を使用し,封圧150 MPa,間隙水圧100 MPa,温度(T)20-350℃,軸変位速度0.1—100 µm/sの条件下で行った.その結果,定常摩擦係数μss は約0.70-0.83となり,高温条件の方が高い値を示した.すべりの安定性を示すパラメータa-b値は,T = 20—50℃では0.0023—0.0051の値を示し,a-b > 0の速度強化となった.a-b値は,温度が上昇するに伴い減少し,T = 100℃では0.0003の値をとりa-b ≈ 0の速度中性を,T = 150—200℃になると,-0.0044—-0.0021の値を示し,a-b < 0の速度弱化へと遷移した.しかし,さらに温度が上昇するとa-b値は増加傾向へと転じ,T = 250—300℃で-0.0031—0.0009の値をとる速度中性,T = 350℃で0.0053の値をとり再び速度強化を示すことが明らかとなった.
SEMを用いた微細構造観察の結果,T =20℃の場合,試料全体にリーデル剪断面が発達しており,それら剪断面近傍には破砕による細粒化が発達していた.一方,T =350℃の場合,破砕はより剪断面近傍に集中しつつも,ガウジ層全体で粒子間に圧力溶解による凝集と思われる構造が確認されるなど,延性的な変形の証拠が観察された.a-b値が最小値を示すT =190℃では細粒化と粒子の凝集がともに見られ,脆性と延性の両特性を併せ持つ中間的な変形様式が認められた.高温の条件ほど,ガウジ層全体の中でこの凝集構造が占める割合が増加していた.これらの観察結果は,温度上昇により脆性的な変形から延性的な変形へと変形機構が遷移したことを示唆している.
本研究で得られた石灰岩の摩擦強度(μss:0.70—0.83)は,海山由来玄武岩の摩擦強度(μss:0.39—0.55) (Sawai et al., 2024 JpGU)と比べると高く,断層帯において両岩相が共存するような環境では,玄武岩が優先的に変形を担う可能性があると考えられる.一方で,a–b値が負の値をとる100℃—250℃では,石灰岩はすべりが不安定となる.このような条件下で石灰岩に剪断応力が集中すると,破壊の核となって地震を引き起こす可能性があると推測される.変質玄武岩[5]および泥岩[6]を用いて行われた高温高圧摩擦実験の結果から,石灰岩は変質玄武岩や泥岩より相対的に低い温度でa-b値が負から正に転じるため,より高温の地震発生帯の深部では石灰岩が不安定すべりを抑制する可能性を示唆している.このことから,沈み込み帯において石灰岩は,浅部の低温域では高い摩擦強度により応力を支える,または断層強度を高め,100℃—250℃の温度帯まで沈み込むと震源核の形成原因となり,250℃以上の深部領域ではすべり挙動が安定しすべりを抑制するなど,深度(温度)の変化に応じて異なる役割を果たしている可能性がある.
引用文献
[1] Cloos, 1992, Geology, 20(7), 601-604.
[2] Kodaira, et al., 2000, Science, 289(5476), 104-106.
[3] Mochizuki et al., 2008. Science, 321(5893), 1194-1197.
[4] Okuma et al., 2022, Tectonophysics, 845, 229644.
[5] Okuda et al., 2023, JGR Solid Earth, 128(1), e2022JB025072.
[6] den Hartog et al., 2012, Earth Planet Sci Lett, 353–354, 240-252
