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[T4-O-7]Experimental study on rheological properties of pelitic schists in the Nankai Trough seismogenic zone

*Suzuka Yagi1, Keishi Okazaki1 (1. Hiroshima University)
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Keywords:

Nankai Trough,Pelitic schist,Pore pressure,ETS

 南海トラフのプレート境界型地震発生帯の上限・下限付近では様々なスロー地震活動が観測されている。このような領域では高間隙水圧帯の存在が示唆されており(Shelly et al., Nature, 2006; Hirose et al., J. Geophys. Res.: Solid Earth, 2021)、高間隙水圧によって有効圧が低下し、岩石の強度が低下する可能性がある(Peterson and Wong, J. Geophys. Res.: Solid Earth, 2005)。また、南海トラフは付加体によって構成された沈み込み帯のため、地震発生帯およびスロー地震発生帯でのプレート境界断層の挙動は、この付加体の中でも特に強度の低い泥質岩によって支配されると予想される。
本研究では南海トラフを構成する泥質岩を用いて変形実験を行うことでそのレオロジー特性を観測し、南海トラフ地震発生帯との関連を探った。試料として三波川帯に属する⾼知県⻑岡郡本⼭町汗⾒川沿いにて採取した泥質⽚岩を⽤いた。XRD測定よりこの試料は石英と白雲母を主要鉱物とすることが確認された。変形実験には実験の温度圧⼒条件は、Kouketsu et al. (J. Metamorph. Geol., 2020)でのラマン分光法による測定結果と、Okuda et al. (Earth Planet. Sci. Lett., 2023)およびGao and Wang (Nature, 2017) で⽰された南海トラフの温度構造モデルから、温度は480℃、封圧は1250 MPaとした。この温度圧力条件は南海トラフのETS領域での環境に相当する。泥質片岩の変形に対する間隙水圧(PP)の影響を調べるため、実験は乾燥条件、含水条件(非排水)、間隙水圧条件(排水)の3つで行った。間隙水圧条件では、排水環境下にて200 MPa、400 MPa、600 MPa、750 MPa、800 MPaの間隙水圧で実験を行った。すべての実験は0.23 μm/sの剪断速度で実施した。
実験結果より、泥質片岩は乾燥条件と比べ含水条件および間隙水圧条件にて強度が低下し、不安定なスロースリップ様挙動を示した。また、どの結果においても大きな応力降下の発生が観察された。モール円より計算された摩擦係数(µ)は、応力降下前で0.32、応力降下後で0.25であった。また、各実験より得られた各剪断応力と混合則の比較より、応力降下を境界として、石英が支配的な準脆性な変形から内部に発達した白雲母のレイヤーによる塑性な変形に移行したことが考えられる。各回収後実験試料の薄片のP面の角度から剪断ひずみを計算・比較した結果、有効圧の減少に伴って局所変形から分散変形への移行が起きていることが確認された。これらの結果より、流体や間隙水圧が泥質片岩の強度を低下させ、不安定な挙動を誘発することを示唆している。Tokle et al. (J. Struct. Geol., 2023)は白雲母が水と優先的に反応・変形することによってこのような強度低下が生じると提案している。
以上より、白雲母を含む泥質片岩は乾燥条件においても強度が低いが、含水条件および間隙水圧条件ではより強度が低下し、不安定な挙動を示す。有効圧の低下は岩石の強度低下だけでなく、変形の分散にも寄与することが確認された。
これらの知見は、南海トラフ地震発生帯における高間隙水圧下での泥質片岩のレオロジー特性を理解するうえで重要であり、流体の存在や有効圧の変化が断層の強度や安定性、ひいてはスロー地震や巨大地震の発生メカニズムに与える影響を明らかにするための重要な手がかりとなる。