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[T11-O-11]Relationship Between Unit Weight of Siliceous Mudstone Distributed in the Noto Peninsula and Landslide Displacement During Earthquakes

*Takeshi KUSUMOTO1, Toshinori SAKAI2, Yoshinori MIYACHI3, Daisaku KAWABATA3, Daisuke SHODA1 (1. Rural Engineering Research Division, NARO, 2. Mie University, 3. Geological Survey of Japan, AIST)
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Keywords:

the Noto Peninsula,Unit Weight,Siliceous Mudstone,Earthquakes,Landslide Displacement

 令和6年能登半島地震では,1,000galを超えるような加速度が発生して,多数の地すべり災害が生じた.そこで,著者らは,楠本ほか(2021)の手法を用いて,石川県輪島市稲舟地区の地すべりについて,上記地震の際の地すべり移動量の算定を行った.本手法は,一般的な地すべりの安定解析に用いられている二次元断面の標準スライス法(簡便法)(農林水産省,2022)をもとに,フィルダム堤体のすべり破壊に対する検討で用いられる円形すべり面スライス法(農林水産省,2003)に記されるように水平方向の地震慣性力を加味し,すべり面上に働く荷重合力の接線分力と垂直分力との差分を求め,これを地すべり土塊の質量で除した後,得られた加速度を二重積分することで,地すべりの移動量を求めるものである.
 本地すべりの災害対応では,詳細な地質情報が入手できなかったことから,柳沢(2017)と小林ほか(2005)を用いて,まず地質断面図を作成した.柳沢(2017)によれば,本地すべり周辺の地質は,下位から,砂岩・泥岩・礫岩からなる縄又層,砂岩・砂質泥岩・礫岩・凝灰岩からなる輪島層,珪質泥岩からなる塚田層で構成され,地層が向斜軸に沿った走向で北西に緩く傾斜するとされる.この情報を用いると,地層境界の傾斜角は9°となり,本地すべりの移動土塊は,塚田層の珪質泥岩が主体であると考えられた.
 楠本ほか(2021)の手法で必要とする情報は,地すべり安定解析断面図(地下水位を含む),内部摩擦角φ’,粘着力c’,単位体積重量,地震加速度である.このうち単位体積重量は,一般的な泥岩地帯の地すべりの安定計算では18kN/m3が用いられている(山崎・山田,2008).しかし,本地すべり周辺の珪質泥岩を筆者の所属機関で試験を行ったところ16.4kN/m3が得られた.さらに,宮北・前川(1983)は,能登半島東端の珠洲市の試料について13.2kN/m3と報告している.このため,楠本ほか(2021)の手法を用いて,これら3つの値を使った地すべり移動量の算定を行い,単位体積重量の影響について検討した.その結果,地下水位が高い場合に,単位体積重量が小さいほど地すべり移動量が大きくなるという結果が得られた.AMeDAS輪島観測地点においては,令和6年能登半島地震の10日程度前に60cmの積雪深を記録した後,地震発生前日までの9日間ですべて溶けたことが観測された。こうした気象現象によって地下水位が上昇したことが,令和6年能登半島地震による土砂災害の多発につながった可能性が指摘されている(松四,2024)が,地下水位とともに単位体積重量が地すべりの移動量に影響を与えることが示唆された.
 今回の検討から,地震時の地すべり移動量を算定する場合,とくに詳細な地質調査が実施されていない地すべりについては,すべり面の設定に既往の文献に記された地質図が有効な情報となること,また,単位体積重量の差異が地すべり移動量に影響を与えることが明らかとなった.地層の走向・傾斜などのデータは,産総研地質調査総合センターによってデジタル化され,シェープファイルで公開された(川畑・阪口,2024)ものの,5万分の1地質図幅が刊行済の地域に限定されている.今後も大規模地震の発生が想定されている中,地震による地すべり災害を防止するために,岩相のみならず走向・傾斜や単位体積重量など,地質図の情報が充実され,広く使用できるようになることを望みたい.
 引用文献
 川畑・阪口,2024,斜面災害リスク評価のための地質情報集-その1:全国走向傾斜データ-.https://www.gsj.jp/data/openfile/no0747/gsj_openfile_report_747.pdf.
 小林ほか,2005,能登半島輪島地域の中新統の層序・堆積環境・テクトニクス.地質学雑誌,111(5),286-299.
 楠本ほか,2021,地すべり土塊の簡便な耐震性能照査手法について.日本地すべり学会誌,58(1),16-27.
 松四,2024,2024年能登半島地震による斜面変動と連鎖複合災害-予察と展望-.京都大学防災研究所年報,67(A),131-140.
 宮北・前川,1983,能登地方における珪藻質軟岩(珪藻土)の工学的性質.土と基礎,31(1),83-88.
 農林水産省,2003,土地改良事業計画設計基準 設計「ダム」技術書〔フィルダム編〕.農業農村工学会,Ⅱ-102p.
 農林水産省,2022,土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 計画「農地地すべり防止対策」.農業農村工学会,282p.
 山崎・山田,2008,講座 地すべり解析における有限要素法の利用第8回 2.FEMによる地すべり解析の基礎理論.日本地すべり学会誌,41(1),47-77.
 柳沢(2017)石川県輪島市(能登半島)に分布する中新統から産出した珪藻化石.地質調査研究報告,68(4),141–153.