Presentation Information
[T12-O-17]Terrestrial and marine paleoecology of the Middle Paleocene: Insights from biomarker analysis of the Nemuro Group
*Tatsuya Yoshida1, Hideto Nakamura2, Keiichi Hayashi3, Masashi Ikeda1, Takuto Ando4 (1. Hokkaido university, 2. Fukui prefectural university, 3. Hokkaido research organization, 4. Akita university)
Keywords:
Paleocene,Paleoenvironmental reconstruction,Biomarker,Nemuro Group
はじめに
古第三前期は、白亜紀から続く温暖な気候と、複数の環境撹乱イベントによって特徴づけられる。その中でも暁新世中期には、Mid-Paleocene Biotic Event(MPBE)と呼ばれる、生物相の急激な変化を伴う短期間の温暖化イベントが発生した。特に、海洋表層のプランクトンなどの海洋生態系の撹乱が示唆されているが(Gilen et al., 2007など)、東アジア地域における研究例は少ない。また、陸上における生態系の応答については、未だ十分な検討が行われていないのが現状である。
そのため本研究では、これらのイベント時の生態系変動の実態の解明や、地域間での対比を可能にするため、北海道東部に分布する上部⽩亜系-古第三系根室層群のバイオマーカー分析により、北⻄太平洋地域の当時の陸上古植⽣及び古海洋⽣態系の復元を試みた。これにより、他サイトで報告されているような、海洋表層の貧栄養化が東アジアでも起きていたかなどの検証を行いたい。
試料と分析方法
本研究では、林ら, 2023で得られた北海道白糠丘陵地域のピラウンナイ川及び左の沢沿いの露頭から採取された試料を用いた。これらの試料は、林ら, 2023により、渦鞭⽑藻シスト化⽯-炭素同位体⽐統合層序が検討され、暁新世から始新世初期の各時代境界や、顕著な炭素同位体比変動を示す箇所が特定された。こうした岩石試料を粉末化し、有機溶媒を用いた有機物抽出を行った後、シリカゲルクロマトグラフィーによる分画、GC-MSを用いたバイオマーカー分析を行った。また、粉末試料のRock-Eval分析も行った。
結果
分析の結果、植物全般に由来するセスキテルペノイド、主に針葉樹に由来するジテルペノイド、被子植物に由来するトリテルペノイドなど、陸上植物に由来する芳香族テルペノイド類が検出された。このうち、芳香族セスキテルペノイドと芳香族ジテルペノイドの比を用いて、植物全般に占める針葉樹の寄与の大きさを示す指標であるHPP(van Aarssen et al., 2000)は、MPBE周辺の層準で顕著な針葉樹の寄与の低下を示した。また、主に渦鞭毛藻に由来する三芳香環ジノステロイドや、渦鞭⽑藻や珪藻、ハプト藻などの多様な海洋基礎⽣産種に由来する三芳香環ステロイド、ステランなど藻類由来のバイオマーカーも検出された。藻類全般に対する渦鞭毛藻の寄与の大きさを示す指標であるTADS(Ando et al., 2015)は、暁新世中期に減少し、藻類群集の擾乱が示唆された。林ら, 2023の渦鞭毛藻シスト化石の結果とも比較し、海洋表層生態系についての詳細な検討や、地域間での生態系応答の比較についても議論したい。
引用文献
・Gilen Bernaola et al., 2007. Evidence of an Abrupt Environmental Disruption during the Mid-Paleocene Biotic Event (Zumaia Section, Western Pyrenees). GSA Bulletin, 119 (7–8), 785–795.
・林圭⼀ら, 2023. 北海道東部に分布する根室層群における暁新世〜始新世前期の渦鞭⽑藻シスト化⽯-炭素同位体⽐統合層序, ⽇本地球惑星科学連合 2023年⼤会, SGL22-06.
・Ben G.K van Aarssen et al., 2000. Higher plant biomarkers reflect palaeovegetation changes during Jurassic times. Geochimica et Cosmochimica Acta, 64, 1417-1424.
・Ando Takuto. et al., 2017. Marine primary producer community during the mid-Cretaceous oceanic anoxic events (OAEs) 1a, 1b and 1d in the Vocontian Basin (SE France) evaluated from triaromatic steroids in sediments. Organic Geochemistry 106, 13–24.
古第三前期は、白亜紀から続く温暖な気候と、複数の環境撹乱イベントによって特徴づけられる。その中でも暁新世中期には、Mid-Paleocene Biotic Event(MPBE)と呼ばれる、生物相の急激な変化を伴う短期間の温暖化イベントが発生した。特に、海洋表層のプランクトンなどの海洋生態系の撹乱が示唆されているが(Gilen et al., 2007など)、東アジア地域における研究例は少ない。また、陸上における生態系の応答については、未だ十分な検討が行われていないのが現状である。
そのため本研究では、これらのイベント時の生態系変動の実態の解明や、地域間での対比を可能にするため、北海道東部に分布する上部⽩亜系-古第三系根室層群のバイオマーカー分析により、北⻄太平洋地域の当時の陸上古植⽣及び古海洋⽣態系の復元を試みた。これにより、他サイトで報告されているような、海洋表層の貧栄養化が東アジアでも起きていたかなどの検証を行いたい。
試料と分析方法
本研究では、林ら, 2023で得られた北海道白糠丘陵地域のピラウンナイ川及び左の沢沿いの露頭から採取された試料を用いた。これらの試料は、林ら, 2023により、渦鞭⽑藻シスト化⽯-炭素同位体⽐統合層序が検討され、暁新世から始新世初期の各時代境界や、顕著な炭素同位体比変動を示す箇所が特定された。こうした岩石試料を粉末化し、有機溶媒を用いた有機物抽出を行った後、シリカゲルクロマトグラフィーによる分画、GC-MSを用いたバイオマーカー分析を行った。また、粉末試料のRock-Eval分析も行った。
結果
分析の結果、植物全般に由来するセスキテルペノイド、主に針葉樹に由来するジテルペノイド、被子植物に由来するトリテルペノイドなど、陸上植物に由来する芳香族テルペノイド類が検出された。このうち、芳香族セスキテルペノイドと芳香族ジテルペノイドの比を用いて、植物全般に占める針葉樹の寄与の大きさを示す指標であるHPP(van Aarssen et al., 2000)は、MPBE周辺の層準で顕著な針葉樹の寄与の低下を示した。また、主に渦鞭毛藻に由来する三芳香環ジノステロイドや、渦鞭⽑藻や珪藻、ハプト藻などの多様な海洋基礎⽣産種に由来する三芳香環ステロイド、ステランなど藻類由来のバイオマーカーも検出された。藻類全般に対する渦鞭毛藻の寄与の大きさを示す指標であるTADS(Ando et al., 2015)は、暁新世中期に減少し、藻類群集の擾乱が示唆された。林ら, 2023の渦鞭毛藻シスト化石の結果とも比較し、海洋表層生態系についての詳細な検討や、地域間での生態系応答の比較についても議論したい。
引用文献
・Gilen Bernaola et al., 2007. Evidence of an Abrupt Environmental Disruption during the Mid-Paleocene Biotic Event (Zumaia Section, Western Pyrenees). GSA Bulletin, 119 (7–8), 785–795.
・林圭⼀ら, 2023. 北海道東部に分布する根室層群における暁新世〜始新世前期の渦鞭⽑藻シスト化⽯-炭素同位体⽐統合層序, ⽇本地球惑星科学連合 2023年⼤会, SGL22-06.
・Ben G.K van Aarssen et al., 2000. Higher plant biomarkers reflect palaeovegetation changes during Jurassic times. Geochimica et Cosmochimica Acta, 64, 1417-1424.
・Ando Takuto. et al., 2017. Marine primary producer community during the mid-Cretaceous oceanic anoxic events (OAEs) 1a, 1b and 1d in the Vocontian Basin (SE France) evaluated from triaromatic steroids in sediments. Organic Geochemistry 106, 13–24.
