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[T7-O-4][Invited]Long-term deep-sea paleoseismology around the Japanese islands: current status and future challenges

*Ken IKEHARA1,2,3 (1. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, 2. National Museum of Nature and Science, Tokyo, 3. Shizuoka University)
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【ハイライト講演】  海底に堆積するタービダイトは昔から堆積学者の興味を惹きつけてきており,数多くの研究がなされてきた.長年にわたる知見の蓄積や研究者の経験に基づいた深い洞察力に加え,最近の計測・測定機器の進歩が組み合わさることにより,精度の高い地震履歴の解明につながりつつある.タービダイト研究の将来的な展開に注目したい. ※ハイライト講演とは...

Keywords:

earthquake,turbidite,turbidity current,surface sediment,environmental change


 巨大地震時に形成されるイベント堆積物(タービダイトあるいはタービダイト/ホモジェナイトなど)を用いて、過去の巨大地震の発生履歴を知ろうとする研究は、世界各地の活動的縁辺域の海域や湖沼域で行われている。研究の初期は堆積物コア中に挟在するイベント堆積物の年代を推定することで巨大地震の平均的な発生間隔が求められたが、広域でのイベント堆積物の対比やイベント堆積物と歴史地震の対比、最近発生した巨大地震直後の調査結果の蓄積が増えるにしたがい、地震や地震動の規模や堆積プロセスの復元などの議論も可能となってきた。しかし、湖の一部を除いて、堆積物の給源である斜面域からイベント堆積物の堆積域である海盆/湖盆までを連続に検討することが進んでおらず、イベント時の堆積プロセスの理解の妨げとなっている。さらに、詳細な堆積相や生痕相の解析に基づく堆積プロセスや時間間隙の有無の検討も十分とはいえず、堆積学の面での課題も多く残されている。また、長尺のピストンコアや掘削コアを用いた研究も行われつつあるが、まだ研究例は限られており、例えば十分な数の発生間隔データを基にした間隔の周期性の議論や氷期-間氷期スケールでの地震性タービダイトの堆積現象の変化を議論できていない。
このような現状認識だけからは課題ばかりが目立ってしまうが、近年のコア計測/測定/観察技術の進歩は、私たちの理解を間違いなく向上させている。マイクロX線CT画像解析と高分解能蛍光X線化学分析の組み合わせは、イベント堆積物中の生痕の存在やそれを基にした時間間隙の認定、イベント堆積物と半遠洋性堆積物の区別を可能にしつつある(例えば、Hovikoski et al., 2025)。さらに、さまざまな年代測定技術の進歩は、より精度がよく、多数の年代コントロールを堆積物コア中に入れることを可能にした。この両者の結合はより確からしい深度-年代モデルの構築に貢献すると期待できる。これに、より信頼性の高いテフラなどを基準としたコア間対比を加えることで、イベント堆積物の確固たる対比とその特徴の時空間変化が捉えられるようになると期待できる。これに数値計算を取り入れれば、地震の規模や破壊領域などの情報を知ることができるようになるであろう。
一方で、より長期的な地震履歴の理解にはバックグラウンドの環境変動が地震性イベント堆積物の形成に与える影響を考える必要があるであろう。また、日本海溝の海溝充填堆積物には巨大地震が作るイベント堆積物の堆積間隔よりも長い時間間隔で繰り返す変形構造が確認されており、プレート境界浅部すべりの痕跡である可能性が指摘されている(Pizer et al., 2025)。高解像度の反射法地震探査と掘削の組み合わせは、イベント堆積物を使った過去の巨大地震の見方に新たな展開を与える可能性がある。

Hovikoski, J. et al. (2025) Nature Communications, 16, 1401.
Pizer, C. et al. (2025) Geology, 53, 370–374.