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[T2-O-15]High-Mg andesite sill near the Oidake pluton in Akakusa-Kamishima, Kumamoto prefecture: Possible western extension of the Setouchi Volcanic Rocks

*Hironao Shinjoe1, Kentaro Ushimaru2, Hideki Iwano3, Takafumi Hirata3, Yuji Orihashi4, Minoru Sasaki4 (1. Tokyo Keizai University, 2. Geological Survey of Japan, AIST, 3. Geochemical Research Center, the Univesity of Tokyo, 4. Graduate School of Science and Technology, Hirosaki University)
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Keywords:

middle Miocene,Setouchi Volcanic Rocks,U-Pb age,high-Mg andesite

 熊本県西部の天草諸島には中期中新世の貫入岩が小規模ではあるが広範囲にわたって分布する.それらの多くは岩脈あるいは岩床であり一部は幅数百mにも及ぶ規模のものがある(濱崎, 1996).さらに岩株状の花こう閃緑岩体が,天草下島西北部の富岡半島と天草上島北部の老嶽付近に見られる.これらの貫入岩については,主にK-Ar法やジルコンフィッショントラック(FT)法により,13.2–16.7 Maの年代が報告されていたほか(濱崎, 1996; 三浦・大平,2012など),富岡プルトンからは19.0 Maの黒雲母K-Ar年代の報告があり(柴田・冨樫, 1975),数百万年にわたる活動時期を想定する見方もあった(濱崎, 1997).Shinjoe et al. (2024)は富岡プルトンの試料を含む4点のU-Pb年代測定を行ったところ14.45–14.76 Maの結果を得て,火成活動はほぼ中期中新世のものである可能性が高いことを示した.岩脈・岩床のなかには,岩株状の貫入岩体を中心として放射状をなすものがある(牛丸・山路,2020).天草上島の老嶽プルトンの周辺にも多数の中間質-珪長質の岩脈・岩床が見られる.今回,天草上島の老嶽プルトンの周囲に分布する岩脈・岩床群の全岩組成分析を行ったところ高Mg安山岩組成の岩石を見出した.さらに新たに老嶽プルトンの角閃石黒雲母花こう閃緑岩について,ジルコンのU-Pb年代も測定した.それらの結果を踏まえ,これらのマグマ活動の位置付けについて考察する.
 老嶽プルトン周辺の岩脈・岩床はSiO2量が57.1–67.5%(酸化物のtotalを100%換算)の範囲にあり,おおむね安山岩からデイサイト組成である.そのうち老嶽南東方の複輝石安山岩岩床は高Mg安山岩組成のものであった(SiO2 = 57.1%,MgO = 7.9%,FeO*/MgO = 0.91,Cr=314 µg/g,Ni = 80 µg/g).また,老嶽プルトンのジルコンU-Pb年代測定を行った結果,コンコーダントな分析点の238U-206Pb 年代の加重平均として14.62 ± 0.10 Maを得た.これらはShinjoe et al. (2024)による既報年代の範囲に入り天草諸島の他の貫入岩と同時期の活動である.
 永尾ほか(1992)は天草下島から1本の高Mg安山岩岩脈を見出すとともに14.24 ± 0.34 Maの全岩K-Ar年代を報告し,全岩化学組成の類似性と放射年代にもとづき,瀬戸内区の火成活動に対比される可能性を示唆した,一方 Tatsumi et al. (2003; 2020)は瀬戸内火山岩類の西縁を九州東部の大野火山岩類に置いている.Ushimaru and Yamaji (2022)は,天草諸島の岩脈群の方向が富岡プルトンからの距離に応じて放射状から東西性の平行状に側方遷移することを示し,後者の方位から貫入時の広域応力を推定した.その結果,岩脈群が他の瀬戸内地域と同様の南北引張の広域応力場のもとで貫入したとし,天草の火成活動も四国海盆沈み込み下でのものだと議論した. Shinjoe et al. (2024)は珪長質の貫入岩類のU-Pb年代と全岩化学組成の類似性からそれらが瀬戸内火山岩類の西方延長の火成活動である可能性を示唆するとともに,富岡プルトンとその周囲にある珪長質岩脈のジルコンU-Pb年代に差がないことも明らかにしている.今回測定した老嶽プルトンを含めて,天草の珪長質~中間質の岩株・岩脈・岩床のU-Pb年代がどれも14.5~14.8 Maの範囲に集中することから,天草の貫入岩体は形体によらず中期中新世の同時期に形成されたと考えられる.これに加え,本研究で上島から新たに高Mg安山岩組成の岩床を見出したことは,天草諸島が中期中新世の四国海盆沈み込み下で活動した瀬戸内火山岩類の西方延長であるという主張を補強する所見である.
文献:濱崎(1996) 地調月報, 47, 201–207.;濱崎(1997) Resource Geology, 47, 121–129.;三浦・大平(2012)フィッション・トラックニュースレター, 25, 46–49.;永尾ほか(1992) 岩鉱, 87, 283–290.;柴田・冨樫(1975) 地調月報, 26, 187-191.;Shinjoe et al.(2024) Island Arc, 33, e12506.;Tatsumi et al. (2003) Journal of Petrology, 44, 1561–1578.;Tatsumi et al. (2020) Scientific Reports, 10, 15005.;牛丸・山路(2020) 地質雑, 126, 631–638.;Ushimaru & Yamaji. (2022) Journal of Structural Geology, 154, 104485.