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[T2-O-16]Dehydration and dissolution of biotite during disequilibrium melting of granites

*Hiroshi KAWABATA1, Shigeru Yamashita2 (1. Kochi University, 2. Okayama University)
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Keywords:

biotite,Disequilibrium melting,granite

 火山岩には、部分溶融の証拠を示す捕獲岩がしばしば取り込まれている。これらのゼノリスでは、鉱物粒界に沿ってガラスのバンドが網目状に分布し、ガラスの組成は不均質であることが多い。こうした特徴は、ゼノリスがホストマグマによって急速に加熱されて非平衡溶融を被ったことを示唆している。岩石の非平衡溶融過程を理解するためには、鉱物―メルト界面で起こる現象を鉱物種ごとに把握することや、鉱物溶解の律速過程を特定することが不可欠である。本発表では、部分溶融を経験した花崗岩類ゼノリスの観察・解析を通して得られた、黒雲母の脱水・溶解過程に関する知見を報告する。

【試料】研究に用いた試料は、瀬戸内安山岩中に見いだされる花崗岩・花崗閃緑岩ゼノリスである。鉱物粒間に沿うガラスバンドの存在で特徴づけられる。ゼノリスはgranite minimumに近い全岩化学組成をもつ。また、ゼノリスから得たガラスの組成は不均質で、その組成不均質は、AlとSiの遅い拡散速度を強く反映している。

【仮像と反応帯の形成】組織観察と組成分析の結果、ゼノリス中の黒雲母は、まず脱水分解反応によって細粒鉱物集合体(仮像)へと変化したと考えられる。この仮像は磁鉄鉱、アルカリ長石、Mgに富む黒雲母から主に構成される。仮像はその後、周囲のメルトと反応することで、仮像周辺部から反応帯に覆われていく。反応帯の形成に伴って、仮像内の黒雲母モード量が減少する一方、斜方輝石のモード量は増加する。また、仮像を構成する長石の組成は大きく変化し、全体としてはアルカリ長石(Or 50–60程度)から斜長石(An 20–30程度)へ組成変化する。この長石の組成変化によって、仮像と反応帯のバルク組成の違いをほぼ説明できる。なお、こうした長石の組成変化は、反応帯周辺の局所バルク組成が、ノルムQz-Or-Ab-An四面体内のアルカリ長石―斜長石cotectic surfaceを横切るように変化したことに起因すると解釈できる(川畑・山下, 2023.日本鉱物科学会年会講演要旨)。

【黒雲母―メルト界面を、長石―メルト界面と捉える】本研究の結果から、黒雲母の溶解が実質的に仮像の溶解であることが分かった。また、仮像の溶解が、反応帯を構成する斜長石とメルトとの界面(斜長石消滅前線)の移動として捉えられることが明らかとなった。黒雲母そのものではなく、黒雲母の仮像がメルトと反応するという視点に立つことで、ゼノリス内に見られる特徴の理解が深まる。例えば、黒雲母と長石の粒界にガラスバンドが発達しないのは、黒雲母―長石粒子境界が異相鉱物境界でなく、長石同士(片方は黒雲母仮像・反応帯の長石)の同相鉱物境界として働き、メルトが効果的に発生しないためと解釈できる。また、黒雲母近傍と長石近傍のガラス組成が、FeOを除けば、類似した主成分組成を示すことについては、黒雲母―メルト界面が実質的に長石―メルト界面としてふるまうためと説明できる。
このような視点は、メルトバンドの厚さが時間とともにどのように増加するかという動的過程の検討においても有用である。例えば、花崗岩類ゼノリスの主要鉱物が石英、アルカリ長石、斜長石、黒雲母の4種で構成されていたとしても、鉱物―メルト界面が4種類存在するとは限らない。これは、溶解析出反応によって鉱物相が変化するためである。実際、本研究で扱ったゼノリスでは、アルカリ長石がメルトと反応して斜長石に置き換わっていくことが観察されている。このことは、外見上はアルカリ長石―メルト界面に見えても、実質的に斜長石―メルト界面として機能すること意味する。先述したように、黒雲母仮像についてもその溶解は、反応帯を形成する斜長石―メルト界面の移動によって進行する。本研究で対象としたゼノリスにおいて、鉱物―メルト界面の種類を整理すると、石英―メルト界面と斜長石―メルト界面の2種類に集約される。これら2種類の界面移動速度こそが、対象ゼノリス内に発達するメルトバンドの厚化速度を支配していると考えられる。