Presentation Information
[G-O-27]Formation processes of andosols distributed in Tomakomai city, Hokkaido, Japan: Evaluation by organic matter analysis.
*Ryosuke FUKUCHI1, Ken Sawada1,2, Akira Matsui3 (1. Graduate School of Science, Hokkaido Univ., 2. Department of Earth and Planetary Sciences, Faculty of Science, Hokkaido University, 3. Nippon Koei)
Keywords:
Biomarker,Andosol,Polycyclic Aromatic Hydrocarbon (PAH),Hokkaido,Tephra
[はじめに] 黒ボク土は火山砕屑物を母材とし腐植に富んだ黒色の土壌であり,国土面積の3割程度を占める。主に火山の周辺地域に分布しており,北日本においては完新世の開始と連動して褐色の土層から黒ボク土へと変化していることが多い。その形成においては緩慢なテフラの埋積と,土壌化による腐植の蓄積がともに進行することで,上位方向へ堆積していくとされる(細野・佐瀬,2015)。黒ボク土に含まれる多量の腐植は活性アルミニウムや微粒炭などにより集積したと考えられ(高橋,2019),植物珪酸体や花粉(河室・鳥居,1986),炭素同位体比(石塚ほか,1999)などの分析から草本植生が腐植の主な供給源として有力とされる。本研究では遊離態有機分子のうち特に燃焼起源分子や植物起源バイオマーカーに着目し,黒ボク土に含まれる有機物の起源や運搬過程を議論する。燃焼起源分子である多環芳香族炭化水素(PAH)は芳香環の数などによって燃焼有機物の運搬過程を検討できる。また、植物バイオマーカーを用い,黒ボク土に集積した有機物の起源について考察する。
[試料と方法] 本研究では2024年9月に北海道苫小牧市柏原にて採取した黒ボク土試料を用いた。最下層に恵庭テフラ(En-a)が露出しており,その上位から黒ボク土を3層含む。各黒ボク土はTa-d, c, bテフラによって埋積されており,Ta-bの上位に1mほどの火山砕屑物が堆積し,最上層は表層土に覆われていた。上位の黒ボク土から第1,第2,第3黒色土とし,およそ5㎝厚で各黒ボク土について2~5試料ずつ採取した。採取後,試料は冷凍保管し,分析前に鉄乳鉢で細かく粉砕した。有機溶媒により有機分子を抽出し,GC-MSを用いて分析を行った。
[結果と考察] 試料からは主に植物ワックスに由来する長鎖n-アルカン,被子植物由来のトリテルペノイド,PAHが検出された。有機分子濃度は上位の黒ボク土で高く,おそらく有機炭素全体の特徴を反映していると考えられる。n-アルカンの平均鎖長(ACL)はほとんどの試料で高く草本植生の優勢を示す値であった。黒ボク土中の植物珪酸体などから示唆される植生復元と調和的な結果であり,柏原地域の黒ボク土形成環境でも草原植生が広がっていたと考えられる。一方、キク科やカバノキ科がもつルペオールやベツリンなどの植物トリテルペノイドが検出され,上位に向けてそれらの割合が増加した。上位で黒ボク土の起源となる植物の種類が変化した可能性がある。検出されたPAHは2~5環であった。PAHの主な起源として,燃焼または続成由来が考えられるが,本試料においては第3黒ボク土であってもEn-aテフラ(17ka)上にあり,埋没後に芳香族化が進むような熱熟成を受けたとは考えにくく,PAHの起源としては有機物の燃焼が有力である。2~4環の低分子PAHが卓越し,5環以上の高分子PAHは全体の2割程度であった。低分子PAHは燃焼時の煤に多く,高分子PAHは炭などの燃焼残渣に多く含まれることが知られており,PAH全体に対する低分子PAHの割合を指標化したLMW/TotalはPAHの起源が煤か,燃焼残渣かを区別できる(Karp et al., 2020)。LMW/Totalは0.8以上の高い値をとっており,PAHは煤を起源とすることがわかり,さらに現地での燃焼ではなく,主に遠方からの飛来に由来すると推察した。また,3環性PAHのうちレテンは裸子植物の燃焼に由来し,レテンの割合(Ret/3-rings)により燃焼した植物が裸子植物であったかを評価できる(Simoneit, 1977; Miller et al., 2017)。Ret/3-ringsは第3,2黒色土では0.2以上であり,第1黒色土では0.1以下であった。第2黒色土の上位のTa-cの降下年代は2.5kaであり,2.5ka以降では針葉樹の燃焼が減少したと考えられる。
[引用文献]
細野衛・佐瀬隆(2015)第四紀研究, 54, 323―339.
石塚成宏ほか(1999)第四紀研究, 38, 85―92.
Karp, A.T. et al.(2020)Geochim. Cosmochim. Acta, 289, 93―113.
河室公康・鳥居厚志(1986)第四紀研究, 25, 81―93.
Miller, D. R. et al.(2017)J. Paleolimnol., 58, 455―466.
Simoneit, G.R.T.(1977)Geochim. Cosmochim. Acta, 41, 463―476.
高橋正(2019)日本土壌肥料科学雑誌, 90, 327―330.
[試料と方法] 本研究では2024年9月に北海道苫小牧市柏原にて採取した黒ボク土試料を用いた。最下層に恵庭テフラ(En-a)が露出しており,その上位から黒ボク土を3層含む。各黒ボク土はTa-d, c, bテフラによって埋積されており,Ta-bの上位に1mほどの火山砕屑物が堆積し,最上層は表層土に覆われていた。上位の黒ボク土から第1,第2,第3黒色土とし,およそ5㎝厚で各黒ボク土について2~5試料ずつ採取した。採取後,試料は冷凍保管し,分析前に鉄乳鉢で細かく粉砕した。有機溶媒により有機分子を抽出し,GC-MSを用いて分析を行った。
[結果と考察] 試料からは主に植物ワックスに由来する長鎖n-アルカン,被子植物由来のトリテルペノイド,PAHが検出された。有機分子濃度は上位の黒ボク土で高く,おそらく有機炭素全体の特徴を反映していると考えられる。n-アルカンの平均鎖長(ACL)はほとんどの試料で高く草本植生の優勢を示す値であった。黒ボク土中の植物珪酸体などから示唆される植生復元と調和的な結果であり,柏原地域の黒ボク土形成環境でも草原植生が広がっていたと考えられる。一方、キク科やカバノキ科がもつルペオールやベツリンなどの植物トリテルペノイドが検出され,上位に向けてそれらの割合が増加した。上位で黒ボク土の起源となる植物の種類が変化した可能性がある。検出されたPAHは2~5環であった。PAHの主な起源として,燃焼または続成由来が考えられるが,本試料においては第3黒ボク土であってもEn-aテフラ(17ka)上にあり,埋没後に芳香族化が進むような熱熟成を受けたとは考えにくく,PAHの起源としては有機物の燃焼が有力である。2~4環の低分子PAHが卓越し,5環以上の高分子PAHは全体の2割程度であった。低分子PAHは燃焼時の煤に多く,高分子PAHは炭などの燃焼残渣に多く含まれることが知られており,PAH全体に対する低分子PAHの割合を指標化したLMW/TotalはPAHの起源が煤か,燃焼残渣かを区別できる(Karp et al., 2020)。LMW/Totalは0.8以上の高い値をとっており,PAHは煤を起源とすることがわかり,さらに現地での燃焼ではなく,主に遠方からの飛来に由来すると推察した。また,3環性PAHのうちレテンは裸子植物の燃焼に由来し,レテンの割合(Ret/3-rings)により燃焼した植物が裸子植物であったかを評価できる(Simoneit, 1977; Miller et al., 2017)。Ret/3-ringsは第3,2黒色土では0.2以上であり,第1黒色土では0.1以下であった。第2黒色土の上位のTa-cの降下年代は2.5kaであり,2.5ka以降では針葉樹の燃焼が減少したと考えられる。
[引用文献]
細野衛・佐瀬隆(2015)第四紀研究, 54, 323―339.
石塚成宏ほか(1999)第四紀研究, 38, 85―92.
Karp, A.T. et al.(2020)Geochim. Cosmochim. Acta, 289, 93―113.
河室公康・鳥居厚志(1986)第四紀研究, 25, 81―93.
Miller, D. R. et al.(2017)J. Paleolimnol., 58, 455―466.
Simoneit, G.R.T.(1977)Geochim. Cosmochim. Acta, 41, 463―476.
高橋正(2019)日本土壌肥料科学雑誌, 90, 327―330.
