Presentation Information
[T1-P-14]Metasomatism accompanied by mantle carbonation reaction at slab-mantle interface: An example from Sarutagawa region in Sambagawa metamorphic belt, central Shikoku
*Shunya Okino1, Atsushi Okamoto1, Madhusoodhan Satish Kumar2 (1. Tohoku University Graduate School of Environmental Studies, 2. Niigata University Faculty of Science Department of Science)
Keywords:
Mantle wedge,Slow slip,Mantle carbonation,Rheology
[はじめに] 沈み込み帯には地殻由来の様々な物質が持ち込まれており,地球深部を構成するマントルと多様な反応・物質移動を引き起こしている.特に炭素は年間60Mt[1]という莫大な量が沈み込んでいるとされており,マントルウェッジの地殻-マントル境界を介して滑石の析出を伴い大規模に炭素が固定されている可能性が指摘されているが[2],その量や反応に関してはほとんど制約されていない.また暖かい沈み込み帯では,マントルウェッジ付近でスロー地震がしばしば観測されており,厚い滑石層がその一因となる可能性も提唱されている[3].このように,マントルウェッジにおける炭素の挙動と副生成物である滑石による力学的変化は密接に関連している可能性があるが,その実態は全く分かっていない.本研究では四国中央部三波川変成帯・猿田川沿いに位置する約20m×10mの蛇紋岩体(猿田蛇紋岩体)と隣接する泥質片岩との地殻-マントル境界を調査した.猿田蛇紋岩体はざくろ石帯に位置し,その温度は450-520℃と推定されている[4].
[結果] 蛇紋岩体を構成する蛇紋石は特定の構造を持たないアンチゴライトである.カンラン石や輝石は残っておらず,幅1-5mmのドロマイト脈をしばしば伴う.不均質に数cm幅の炭酸塩鉱物脈が岩体内部に発達しており,滑石とマグネサイトおよびドロマイトで構成されている.泥質片岩-蛇紋岩境界では地殻・マントルのいずれも変質を受けており,反応帯の厚さはおよそ0.5mである.母岩である泥質片岩は緑泥石,白雲母,曹長石,石英,ざくろ石を含んでいる.境界に近づくと泥質片岩由来の緑泥石-緑簾石岩が見られるが元の構造は保存されていない.蛇紋岩側では著しく変形を被ったカルサイトおよびドロマイトの炭酸塩鉱物を含む透閃石岩が形成されており,緑泥石や石英およびスピネルを含む.母岩の泥質片岩に含まれる炭質物に対してラマン温度計を適用すると488±8.0℃であり,最大被熱温度は先行研究とほぼ一致する.対して,緑泥石-緑簾石岩に含まれる緑泥石に対して温度計を適用するとおよそ360-440℃(中央値412℃)となった.また透閃石岩に含まれる炭酸塩鉱物にカルサイト-ドロマイト温度計を適用させると300-400℃という結果が得られた.さらに透閃石岩が含有するクロマイトの組成は緑色片岩相(~300-450℃)の変質を受けたことを示している.炭酸塩鉱物の安定同位体はδ¹⁸O = +11.28〜+15.10‰(V-SMOW),δ¹³C = -13.13〜-9.85‰(V-PDB)であり,関東山地長瀞の樋口蛇紋岩体において報告された炭酸塩鉱物脈に含まれるそれとほぼ一致し[5],泥質片岩に含まれる炭質物の分解によってCO₂流体が発生したと考えられる.
[考察] 猿田蛇紋岩体と泥質片岩境界に発達した一連の反応帯の空間的分布は,ここから約2km南西に離れた富郷蛇紋岩体における地殻-マントル境界のそれと酷似している[6]が,猿田蛇紋岩体では炭酸塩鉱物が多く含まれることからCO₂流体を介した岩石-流体相互作用が起きたと考えられる.炭質物ラマン温度計は他の温度計と比較して有意に高い温度を示したことから,ピーク時において岩体内部に炭酸塩脈が形成されたのち,やや上昇期に蛇紋岩体が泥質片岩中にブロックとして取り込まれ,CO2流体による境界での反応帯を形成したと考えられる.
このような反応はピーク時でも起きうるため,マントルウェッジと沈みこむスラブがCO2流体を伴って反応することでそのレオロジーが大きく変化しうる可能性がある.これはスロー地震を議論する上で重要な視点であり,特にどの段階でどのような変形を被ったかについては詳細な検討が必要である.講演では構造地質学的な観点も交えて,CO2流体によるマントル岩石の弱化および変形について総合的な議論を行う予定である.
[1] Clift, P.D., 2017. Rev. Geophys. 55, 97–125.
[2] Oyanagi, R., Okamoto, A., 2024. Nat. Commun. 15, 7159.
[3] Lindquist, P.C. et al., 2023. Geochem. Geophys. Geosyst. 24, e2023GC010981.
[4] Enami, M. et al., 1994. Contrib. Mineral. Petrol. 116, 182–198.
[5] Okamoto, A. et al., 2021. Commun. Earth Environ. 2, 151.
[6] Oyanagi, R. et al., 2023. Contrib. Mineral. Petrol. 178, 27.
[結果] 蛇紋岩体を構成する蛇紋石は特定の構造を持たないアンチゴライトである.カンラン石や輝石は残っておらず,幅1-5mmのドロマイト脈をしばしば伴う.不均質に数cm幅の炭酸塩鉱物脈が岩体内部に発達しており,滑石とマグネサイトおよびドロマイトで構成されている.泥質片岩-蛇紋岩境界では地殻・マントルのいずれも変質を受けており,反応帯の厚さはおよそ0.5mである.母岩である泥質片岩は緑泥石,白雲母,曹長石,石英,ざくろ石を含んでいる.境界に近づくと泥質片岩由来の緑泥石-緑簾石岩が見られるが元の構造は保存されていない.蛇紋岩側では著しく変形を被ったカルサイトおよびドロマイトの炭酸塩鉱物を含む透閃石岩が形成されており,緑泥石や石英およびスピネルを含む.母岩の泥質片岩に含まれる炭質物に対してラマン温度計を適用すると488±8.0℃であり,最大被熱温度は先行研究とほぼ一致する.対して,緑泥石-緑簾石岩に含まれる緑泥石に対して温度計を適用するとおよそ360-440℃(中央値412℃)となった.また透閃石岩に含まれる炭酸塩鉱物にカルサイト-ドロマイト温度計を適用させると300-400℃という結果が得られた.さらに透閃石岩が含有するクロマイトの組成は緑色片岩相(~300-450℃)の変質を受けたことを示している.炭酸塩鉱物の安定同位体はδ¹⁸O = +11.28〜+15.10‰(V-SMOW),δ¹³C = -13.13〜-9.85‰(V-PDB)であり,関東山地長瀞の樋口蛇紋岩体において報告された炭酸塩鉱物脈に含まれるそれとほぼ一致し[5],泥質片岩に含まれる炭質物の分解によってCO₂流体が発生したと考えられる.
[考察] 猿田蛇紋岩体と泥質片岩境界に発達した一連の反応帯の空間的分布は,ここから約2km南西に離れた富郷蛇紋岩体における地殻-マントル境界のそれと酷似している[6]が,猿田蛇紋岩体では炭酸塩鉱物が多く含まれることからCO₂流体を介した岩石-流体相互作用が起きたと考えられる.炭質物ラマン温度計は他の温度計と比較して有意に高い温度を示したことから,ピーク時において岩体内部に炭酸塩脈が形成されたのち,やや上昇期に蛇紋岩体が泥質片岩中にブロックとして取り込まれ,CO2流体による境界での反応帯を形成したと考えられる.
このような反応はピーク時でも起きうるため,マントルウェッジと沈みこむスラブがCO2流体を伴って反応することでそのレオロジーが大きく変化しうる可能性がある.これはスロー地震を議論する上で重要な視点であり,特にどの段階でどのような変形を被ったかについては詳細な検討が必要である.講演では構造地質学的な観点も交えて,CO2流体によるマントル岩石の弱化および変形について総合的な議論を行う予定である.
[1] Clift, P.D., 2017. Rev. Geophys. 55, 97–125.
[2] Oyanagi, R., Okamoto, A., 2024. Nat. Commun. 15, 7159.
[3] Lindquist, P.C. et al., 2023. Geochem. Geophys. Geosyst. 24, e2023GC010981.
[4] Enami, M. et al., 1994. Contrib. Mineral. Petrol. 116, 182–198.
[5] Okamoto, A. et al., 2021. Commun. Earth Environ. 2, 151.
[6] Oyanagi, R. et al., 2023. Contrib. Mineral. Petrol. 178, 27.
