Presentation Information
[T1-P-32]Resolution assessment of subduction-zone geodynamic models : Matching grid size to geological process scale
*Kohei SHISEKI1, Tatsuki TSUJIMORI1 (1. Tohoku Univ.)
Keywords:
Subduction zone,Geodynamic modeling,I2VIS code,Grid resolution,High-/ultrahigh-pressure metamorphic rocks
造山帯に産する高圧−超高圧変成岩は、沈み込み帯における物理的・化学的プロセスの記録媒体として重要視されてきた。特に、完全にエクロジャイト化した玄武岩質の海洋地殻はマントルかんらん岩よりも高密度であり、静的な浮力条件下では沈み込み続けると予想される。しかしながら、実際にはこうした高密度変成岩の断片が、地殻浅部にまで移動し、変成岩体として造山帯表層に露出する例が多く報告されている。このような高密度岩石の上昇メカニズムに関しては、過去40年以上にわたり、チャネルフロー、ダイアピル上昇、ウェッジからの絞り出し、コーナーフローなど、多様なモデルが提案されてきた。
プレート収束域における物質フローの理解において大きなブレイクスルーとなったのが、I2VISコード(Gerya and Yuen, 2003)の登場と、その沈み込み帯ダイナミクス解析への応用である。近年では、汎用的コンピュータの高性能化によって同コードを用いたジオダイナミック(動力学)モデリングが簡単に行えるようになり、地質学・岩石学・年代学の知見に基づく過去の物質移動プロセスを、簡易的に検証・再現できる環境が整いつつある。例えばMorita, Tsujimori et al. (2022) は大陸衝突帯のダイナミクス、とりわけ時間スケールの問題に対し、従来の変成岩岩石学と地質年代学に加え、2次元動力学モデリングを用いることで、天然の変成岩研究からより確からしい過去のダイナミクスを読み解く新しい雛形を提案している。また、I2VISコードの普及により、数値実験によって予測された未解明プロセスの地質記録を天然において探索する「モデリングに触発された研究」も活発化している。
一方で、数値モデリングによって得られる計算結果(ヴァーチャルな世界)と、天然に観察される地質記録との間には、しばしば乖離や矛盾が生じることもある(例:Kerswell et al., 2023)。これは、既に広く普及している熱力学的相平衡モデリング(シュードセクション法など)と同様に、基礎的なパラメータ設定や計算アルゴリズムの理解を欠いたまま解析を行うことで、恣意的でアドホックな解釈を大量に生み出すリスクを内包していることを意味する。
我々は、I2VISコードを用いたモデリングにおける「グリッドサイズ」に関する評価を行ってきた。先行研究の多くは1×1 kmのグリッドサイズを採用しており(例えばWang et al., 2019; Kerswell et al., 2023)、高解像度とされる場合でも0.5×0.5 km程度にとどまっている(例えばAngiboust et al., 2021)。しかしながら、これらの研究が対象とする地質現象のスケールは、しばしば数mから数十mオーダーであり、モデリング解像度との間に顕著なスケールギャップが存在する。たとえば、一般的な蛇紋岩メランジュの地質の変成岩岩塊のサイズは10~100 m程度であり、現在のI2VISモデリングのグリッドサイズでは、それらを直接的に表現することは困難である。本発表では、I2VISコードを用いた沈み込み帯に関連する既存の研究のグリッドサイズと、それらが対象とする地質現象のスケールとの関係を整理・比較する。さらに、同一の条件下においてグリッドサイズのみを変更して数値実験を実施し、解像度がモデリング結果および解釈に与える影響について考察する。これにより、沈み込み帯の地質現象を対象としたジオダイナミックモデリングにおける「解像度の妥当性」について、あらためて評価する。
【引用文献】
Angiboust et al. (2021) Geosphere, 18, 69-103.
Gerya and Yuen (2003) Phys. earth planet. Inter., 140, 293-318.
Kerswell et al. (2023) Geochem. Geophys. Geosyst., 24, e2022GC010834.
Morita and Tsujimori et al. (2022) J. Petrol., 63, egac012.
Wang et al. (2019) Tectonics, 38, 1764-1797.
プレート収束域における物質フローの理解において大きなブレイクスルーとなったのが、I2VISコード(Gerya and Yuen, 2003)の登場と、その沈み込み帯ダイナミクス解析への応用である。近年では、汎用的コンピュータの高性能化によって同コードを用いたジオダイナミック(動力学)モデリングが簡単に行えるようになり、地質学・岩石学・年代学の知見に基づく過去の物質移動プロセスを、簡易的に検証・再現できる環境が整いつつある。例えばMorita, Tsujimori et al. (2022) は大陸衝突帯のダイナミクス、とりわけ時間スケールの問題に対し、従来の変成岩岩石学と地質年代学に加え、2次元動力学モデリングを用いることで、天然の変成岩研究からより確からしい過去のダイナミクスを読み解く新しい雛形を提案している。また、I2VISコードの普及により、数値実験によって予測された未解明プロセスの地質記録を天然において探索する「モデリングに触発された研究」も活発化している。
一方で、数値モデリングによって得られる計算結果(ヴァーチャルな世界)と、天然に観察される地質記録との間には、しばしば乖離や矛盾が生じることもある(例:Kerswell et al., 2023)。これは、既に広く普及している熱力学的相平衡モデリング(シュードセクション法など)と同様に、基礎的なパラメータ設定や計算アルゴリズムの理解を欠いたまま解析を行うことで、恣意的でアドホックな解釈を大量に生み出すリスクを内包していることを意味する。
我々は、I2VISコードを用いたモデリングにおける「グリッドサイズ」に関する評価を行ってきた。先行研究の多くは1×1 kmのグリッドサイズを採用しており(例えばWang et al., 2019; Kerswell et al., 2023)、高解像度とされる場合でも0.5×0.5 km程度にとどまっている(例えばAngiboust et al., 2021)。しかしながら、これらの研究が対象とする地質現象のスケールは、しばしば数mから数十mオーダーであり、モデリング解像度との間に顕著なスケールギャップが存在する。たとえば、一般的な蛇紋岩メランジュの地質の変成岩岩塊のサイズは10~100 m程度であり、現在のI2VISモデリングのグリッドサイズでは、それらを直接的に表現することは困難である。本発表では、I2VISコードを用いた沈み込み帯に関連する既存の研究のグリッドサイズと、それらが対象とする地質現象のスケールとの関係を整理・比較する。さらに、同一の条件下においてグリッドサイズのみを変更して数値実験を実施し、解像度がモデリング結果および解釈に与える影響について考察する。これにより、沈み込み帯の地質現象を対象としたジオダイナミックモデリングにおける「解像度の妥当性」について、あらためて評価する。
【引用文献】
Angiboust et al. (2021) Geosphere, 18, 69-103.
Gerya and Yuen (2003) Phys. earth planet. Inter., 140, 293-318.
Kerswell et al. (2023) Geochem. Geophys. Geosyst., 24, e2022GC010834.
Morita and Tsujimori et al. (2022) J. Petrol., 63, egac012.
Wang et al. (2019) Tectonics, 38, 1764-1797.
