Presentation Information
[T8-P-2]Literature reviews: how do we know patterns and amounts of vertical crustal movements with a timescale of 10,000 to 100, 000 years in shelves?
*Tetsuya KOMATSU1 (1. JAEA)
Keywords:
Shelf,Clinoform,Uplift and subsidence,Quaternary
資源エネルギー庁によって示された「文献調査段階の評価の考え方」1)を読むと,陸棚において過去10万年程度の期間の隆起量の確認が必要であることがわかる.では,陸棚において何に着目すれば,そのような確認ができるのであろうか?そもそも,隆起に限らず,陸棚における1万–10万年オーダーでの地殻変動の傾向・量は,どのようにして確認すればよいのか?本研究では,これらの問いへの回答を文献に基づいて検討した.その要点は以下である.
1. 地殻変動の傾向
陸棚における10万年オーダーでの地殻変動(隆起・沈降・傾動・安定)の傾向を推定する方法には,陸棚の地質構造,特に活構造を詳細に明らかにする方法以外にも陸棚外縁クリノフォームの累重様式の違いに着目する方法がある2~4).陸棚外縁クリノフォームとは,クリノフォームと呼ばれる緩やかに傾斜した堆積面が前進することにより形成される堆積体のうち,起伏が100–500 m,形成に要する時間が1万–100万年オーダーのものである7).非活動大陸縁辺においては陸棚外縁として認識される地形的な遷急部を形成する7).
陸棚外縁クリノフォームの累重様式に基づいて陸棚の地殻変動の傾向を推定した主題図には,四国沖を事例としたもの2)がある.公開されている音波探査記録の地質解釈断面図に対して陸棚外縁クリノフォームの累重様式に着目した見方を適用することで,それと同様の主題図を作成できるかもしれない.
2. 隆起・沈降量
陸棚の隆起・沈降量については,氷期の最低位海面期における旧汀線の位置を推定し,その水深と氷期の最低位海面期の海水準との差分をとることで求められる.このとき,氷期の最低位海面期の海水準については,あらかじめ文献等から求めておく必要がある.氷期の最低位海面期における旧汀線の位置については,(1) 最低位海面期の陸上デルタ・クリノフォーム6~8), (2) 海退期堆積体上面の侵食面の下限9), (3) 最低位海面期の水中デルタ・クリノフォーム10~12), (4) 最低位海面期の海底海食崖13),から推定されている.陸上デルタ・クリノフォーム(汀線クリノフォーム)とは,デルタや浜堤列平野がつくるクリノフォームのことであり,水中デルタ・クリノフォームとは,内側陸棚から外側陸棚に形成されるクリノフォームであり14),しばしばシグモイドな形状の段丘地形として認識され,海底堆積段丘と呼ばれることもある15)堆積体である.これらの地形・地層のうち,沈降量の推定に使えるのは,(1),(2),(3)であり,隆起量の推定に使えるのは,(1),(3),(4)である.推定できる隆起・沈降量の時間スケールについては,沈降量が氷期の再来間隔である約10万年単位であるのに対して,隆起量は最終氷期の最低位海面期以降,つまり2万年程度となる.このことは,現在のところ陸棚において10万年間程度の隆起量を直接的に求める方法が無いことを意味する.また,現在のところ国内の陸棚において1万–10万年オーダーの隆起・沈降量を推定した事例は無い.
【謝辞】本研究には,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30–31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」(JPJ007597)の成果の一部を使用している.
【引用文献】1) 資源エネルギー庁, 2023, 文献調査段階の評価の考え方. 2) 岡村, 1990, 地質学雑誌, 96, 223–237. 3) Choi et al., 2019, Geo-Marine Letters, 39, 493–511. 4) 佐藤 2022, 月刊地球号外, 73, 79–86. 5) Patruno et al., 2015, Earth Sci Rev, 142, 79–119. 6) Rabineau et al., 2006, EPSL, 252, 119–137. 7) Castillo et al., 2018, GSAB, 131, 21–42. 8) Williams et al., 2018, Deep-Sea Research Part II, 150, 132–145. 9) Maselli et al., 2010, JGR, 115, B12106. 10) Chiocci & Orlando, 1996, Geology, 134, 127–143. 11) Fraccascia et al., 2013, Geology, 41, 375–378. 12) Pepe et al., 2014, Quat Int, 332, 85–98. 13) Chaytor et al., 2006, GSAB, 120, 1053–1071. 14) Patruno & Helland-Hansen, 2018, Earth Sci Rev, 185, 202–233. 15) Casalbore et al., 2017, Quat Int, 439, 169–180.
1. 地殻変動の傾向
陸棚における10万年オーダーでの地殻変動(隆起・沈降・傾動・安定)の傾向を推定する方法には,陸棚の地質構造,特に活構造を詳細に明らかにする方法以外にも陸棚外縁クリノフォームの累重様式の違いに着目する方法がある2~4).陸棚外縁クリノフォームとは,クリノフォームと呼ばれる緩やかに傾斜した堆積面が前進することにより形成される堆積体のうち,起伏が100–500 m,形成に要する時間が1万–100万年オーダーのものである7).非活動大陸縁辺においては陸棚外縁として認識される地形的な遷急部を形成する7).
陸棚外縁クリノフォームの累重様式に基づいて陸棚の地殻変動の傾向を推定した主題図には,四国沖を事例としたもの2)がある.公開されている音波探査記録の地質解釈断面図に対して陸棚外縁クリノフォームの累重様式に着目した見方を適用することで,それと同様の主題図を作成できるかもしれない.
2. 隆起・沈降量
陸棚の隆起・沈降量については,氷期の最低位海面期における旧汀線の位置を推定し,その水深と氷期の最低位海面期の海水準との差分をとることで求められる.このとき,氷期の最低位海面期の海水準については,あらかじめ文献等から求めておく必要がある.氷期の最低位海面期における旧汀線の位置については,(1) 最低位海面期の陸上デルタ・クリノフォーム6~8), (2) 海退期堆積体上面の侵食面の下限9), (3) 最低位海面期の水中デルタ・クリノフォーム10~12), (4) 最低位海面期の海底海食崖13),から推定されている.陸上デルタ・クリノフォーム(汀線クリノフォーム)とは,デルタや浜堤列平野がつくるクリノフォームのことであり,水中デルタ・クリノフォームとは,内側陸棚から外側陸棚に形成されるクリノフォームであり14),しばしばシグモイドな形状の段丘地形として認識され,海底堆積段丘と呼ばれることもある15)堆積体である.これらの地形・地層のうち,沈降量の推定に使えるのは,(1),(2),(3)であり,隆起量の推定に使えるのは,(1),(3),(4)である.推定できる隆起・沈降量の時間スケールについては,沈降量が氷期の再来間隔である約10万年単位であるのに対して,隆起量は最終氷期の最低位海面期以降,つまり2万年程度となる.このことは,現在のところ陸棚において10万年間程度の隆起量を直接的に求める方法が無いことを意味する.また,現在のところ国内の陸棚において1万–10万年オーダーの隆起・沈降量を推定した事例は無い.
【謝辞】本研究には,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30–31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」(JPJ007597)の成果の一部を使用している.
【引用文献】1) 資源エネルギー庁, 2023, 文献調査段階の評価の考え方. 2) 岡村, 1990, 地質学雑誌, 96, 223–237. 3) Choi et al., 2019, Geo-Marine Letters, 39, 493–511. 4) 佐藤 2022, 月刊地球号外, 73, 79–86. 5) Patruno et al., 2015, Earth Sci Rev, 142, 79–119. 6) Rabineau et al., 2006, EPSL, 252, 119–137. 7) Castillo et al., 2018, GSAB, 131, 21–42. 8) Williams et al., 2018, Deep-Sea Research Part II, 150, 132–145. 9) Maselli et al., 2010, JGR, 115, B12106. 10) Chiocci & Orlando, 1996, Geology, 134, 127–143. 11) Fraccascia et al., 2013, Geology, 41, 375–378. 12) Pepe et al., 2014, Quat Int, 332, 85–98. 13) Chaytor et al., 2006, GSAB, 120, 1053–1071. 14) Patruno & Helland-Hansen, 2018, Earth Sci Rev, 185, 202–233. 15) Casalbore et al., 2017, Quat Int, 439, 169–180.
