Presentation Information
[T10-P-11]Geochemical analysis of fault rocks in the Kojaku Body of Kojaku Granite and evaluation of the activity of the Shufukuji Fault
*Hibiki CHIBA1, Marika HAYASHI1 (1. Nuclear Regulation Authority (NRA))
Keywords:
Fault Rock,Whole-rock Compositional Analysis,Kojaku Granite,Active Fault,Tsuruga,Shufukuji Fault
はじめに
断層が将来活動する可能性を評価する手法の一つとして、断層の上位層の堆積年代及びその変位・変形の有無から断層の活動年代を評価する“上載地層法”が用いられている。しかし、断層の上位層が存在しない等の理由から、この方法を適用できない例も多い。近年、“上載地層法”を適用できない断層に対する新たな活動性評価手法として、断層岩の化学組成を利用した方法が提案されている。この方法は活断層及び非活断層間における断層岩の化学組成に差異が生じること(石川・廣野,2012;Niwa et al., 2019;立石ほか,2021)に着目し、活断層と非活断層を判別しようとするものである。しかし、既報ではこれらの化学組成の差異が研究毎に異なる上、その差異の発生プロセスについて詳細な分析・考察が行われておらず、判別指標としての適用性に課題がある。
そこで本研究では、断層岩の化学組成を用いた断層活動性評価手法の有効性を確認することを目的として、断層の深度に伴う風化等の影響も考慮した上で、化学分析データを系統的に蓄積し、活断層及び非活断層における断層岩の化学組成に差異が生じるか確認する。
調査地域
調査対象は、福井県敦賀市及び滋賀県長浜市に分布する江若花崗岩のうち、敦賀平野以南に広がる江若岩体(澤田ほか,1997)である。本地域には白亜系の江若花崗岩(68 Ma;末岡ほか,2016)をはじめ、ジュラ系の美濃–丹波帯堆積岩コンプレックスが広く分布する。本地域の地質構造は近畿三角帯の北端に位置し、NE–SW方向の右横ずれ断層(湖北山地断層)とNW–SE方向の左横ずれ断層(野坂・集福寺断層)が交錯する特徴を持つ。さらに、江若岩体の分布域にはN–S方向の地質断層も報告されている(栗本ほか,1999)。
研究計画
2024〜2028年度の5ヶ年で、次のとおり調査計画を立案した。江若岩体の分布域に存在する複数の活断層及び非活断層に対し、断層破砕帯を貫くボーリング調査を実施する。深度に伴う風化等の影響が断層岩の化学組成に与える影響も考慮するため、本ボーリング調査により浅部(数10m)及び深部(100 m 程度)の断層コアを採取する。得られた試料について全岩化学組成分析を行い、活断層・非活断層間の化学的差異の有無を確認する。また、断層岩の化学変化の要因となり得る地質学的背景を明らかにするため、構造解析も実施する。
結果・考察
本調査地域の全域に分布する断層を対象に、化学分析を実施する断層の選定を目的として既往文献調査及び地形判読を実施し、リニアメント、段丘面等の情報を取得した。地表地質調査では、既往文献調査及び地形判読の結果をもとに断層トレースや断層露頭を重点的に調査し、活動年代の推定を試みた。調査の結果、断層露頭からは14C年代測定に適した試料は採取できなかった。また化学分析の結果、断層岩は原岩よりもFeやMgに富むことが明らかとなった。
本研究では断層の活動性と化学組成との関係を明らかにすることが主目的であるが、ここまでの地表踏査等では、断層の活動性を判断できる断層露頭に乏しい状況にある。そこで本調査地域の断層のうち、明瞭な断層地形とそれに伴うせき止め堆積物が分布する集福寺断層を対象として、断層の活動性を評価するためのボーリング調査を実施した。本ボーリング調査では、集福寺断層のトレース上に位置する逆断層性の断層崖近傍において、隆起側で1地点、低下側で2地点の群列ボーリング調査を実施した。断層崖を挟んだ2地点の柱状図の対比及び地質断面図から、断層崖の南西側では、北東側に比べて全ての層相境界の標高が高いことが分かった。このような層相の高度差は、断層崖の形態から推定される南西側の隆起と調和的である。また、低下側の2地点間における柱状図の対比から、断層変位に伴って沖積層の基底面に高度差が生じていること、そのうち断層崖側の地点では地下に集福寺断層の分岐断層が確認されることから、沖積層が分岐断層によって変位・変形を受けたか、または分岐断層の活動直後に沖積層が基底面の高度差を埋めるように堆積した可能性が高いと考えられる。この沖積層のボーリング試料から得られた14C年代(20780±70 yr B.P.、18570±60 yr B.P.)に基づくと、集福寺断層は約2万年前以降に活動した可能性が示唆される。
引用文献
石川・廣野,2012,地球化学,46,217-230.栗本ほか,1999,地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,73p.Niwa et al., 2019,Eng, Geol., 260, 105235.澤田ほか,1997,地球科学,51,401-412.末岡ほか,2016,地学雑誌,125,201-219.立石ほか,2021,応用地質,62,104-112.
断層が将来活動する可能性を評価する手法の一つとして、断層の上位層の堆積年代及びその変位・変形の有無から断層の活動年代を評価する“上載地層法”が用いられている。しかし、断層の上位層が存在しない等の理由から、この方法を適用できない例も多い。近年、“上載地層法”を適用できない断層に対する新たな活動性評価手法として、断層岩の化学組成を利用した方法が提案されている。この方法は活断層及び非活断層間における断層岩の化学組成に差異が生じること(石川・廣野,2012;Niwa et al., 2019;立石ほか,2021)に着目し、活断層と非活断層を判別しようとするものである。しかし、既報ではこれらの化学組成の差異が研究毎に異なる上、その差異の発生プロセスについて詳細な分析・考察が行われておらず、判別指標としての適用性に課題がある。
そこで本研究では、断層岩の化学組成を用いた断層活動性評価手法の有効性を確認することを目的として、断層の深度に伴う風化等の影響も考慮した上で、化学分析データを系統的に蓄積し、活断層及び非活断層における断層岩の化学組成に差異が生じるか確認する。
調査地域
調査対象は、福井県敦賀市及び滋賀県長浜市に分布する江若花崗岩のうち、敦賀平野以南に広がる江若岩体(澤田ほか,1997)である。本地域には白亜系の江若花崗岩(68 Ma;末岡ほか,2016)をはじめ、ジュラ系の美濃–丹波帯堆積岩コンプレックスが広く分布する。本地域の地質構造は近畿三角帯の北端に位置し、NE–SW方向の右横ずれ断層(湖北山地断層)とNW–SE方向の左横ずれ断層(野坂・集福寺断層)が交錯する特徴を持つ。さらに、江若岩体の分布域にはN–S方向の地質断層も報告されている(栗本ほか,1999)。
研究計画
2024〜2028年度の5ヶ年で、次のとおり調査計画を立案した。江若岩体の分布域に存在する複数の活断層及び非活断層に対し、断層破砕帯を貫くボーリング調査を実施する。深度に伴う風化等の影響が断層岩の化学組成に与える影響も考慮するため、本ボーリング調査により浅部(数10m)及び深部(100 m 程度)の断層コアを採取する。得られた試料について全岩化学組成分析を行い、活断層・非活断層間の化学的差異の有無を確認する。また、断層岩の化学変化の要因となり得る地質学的背景を明らかにするため、構造解析も実施する。
結果・考察
本調査地域の全域に分布する断層を対象に、化学分析を実施する断層の選定を目的として既往文献調査及び地形判読を実施し、リニアメント、段丘面等の情報を取得した。地表地質調査では、既往文献調査及び地形判読の結果をもとに断層トレースや断層露頭を重点的に調査し、活動年代の推定を試みた。調査の結果、断層露頭からは14C年代測定に適した試料は採取できなかった。また化学分析の結果、断層岩は原岩よりもFeやMgに富むことが明らかとなった。
本研究では断層の活動性と化学組成との関係を明らかにすることが主目的であるが、ここまでの地表踏査等では、断層の活動性を判断できる断層露頭に乏しい状況にある。そこで本調査地域の断層のうち、明瞭な断層地形とそれに伴うせき止め堆積物が分布する集福寺断層を対象として、断層の活動性を評価するためのボーリング調査を実施した。本ボーリング調査では、集福寺断層のトレース上に位置する逆断層性の断層崖近傍において、隆起側で1地点、低下側で2地点の群列ボーリング調査を実施した。断層崖を挟んだ2地点の柱状図の対比及び地質断面図から、断層崖の南西側では、北東側に比べて全ての層相境界の標高が高いことが分かった。このような層相の高度差は、断層崖の形態から推定される南西側の隆起と調和的である。また、低下側の2地点間における柱状図の対比から、断層変位に伴って沖積層の基底面に高度差が生じていること、そのうち断層崖側の地点では地下に集福寺断層の分岐断層が確認されることから、沖積層が分岐断層によって変位・変形を受けたか、または分岐断層の活動直後に沖積層が基底面の高度差を埋めるように堆積した可能性が高いと考えられる。この沖積層のボーリング試料から得られた14C年代(20780±70 yr B.P.、18570±60 yr B.P.)に基づくと、集福寺断層は約2万年前以降に活動した可能性が示唆される。
引用文献
石川・廣野,2012,地球化学,46,217-230.栗本ほか,1999,地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,73p.Niwa et al., 2019,Eng, Geol., 260, 105235.澤田ほか,1997,地球科学,51,401-412.末岡ほか,2016,地学雑誌,125,201-219.立石ほか,2021,応用地質,62,104-112.
