Presentation Information

[T13-P-25]Slump folds and formation process in Tayu area, Kashima Town, Matsue City, Shimane Prefecture

*Hiroto HOTTA1, Tetuya SAKAI2 (1. Graduate School of Natural Science and Technology, Shimane University(Master course), 2. Shimane Univ.)
PDF DownloadDownload PDF

Keywords:

Slump structure,Slump fold,Josoji,Miocene,formation process

 1. 背景・目的
 島根県松江市鹿島町手結周辺には, 中新統の成相寺層が広く分布している(鹿野・中野, 1996). この周辺の成相寺層はおよそ1600万年前の深海で堆積した黒色泥岩や海底火山の活動に伴って形成された流紋岩とその火砕岩を主体とする. 手結港近隣の道路沿いの露頭に海底地すべり(スランプ)堆積物が露出する. そこには単一の緑色の凝灰岩が地すべり停止時に折り畳まれることでできた褶曲構造(スランプ褶曲)が見られる. しかし, このスランプ褶曲した部分のすぐ側方では, その層は目立った変形を示さず, 板状の特徴をもつ. 野村(2018)では褶曲部についての解釈を述べているが, 板状部を含めたスランプ褶曲の形成過程については明らかになっていない. そこで, スランプ堆積物とその上下層の詳細な観察から地すべりの運動像を復元し, スランプ褶曲の形成過程を明らかにすることを目的とした.
2. スランプ堆積物の特徴
 本研究対象のスランプ堆積物を含む地層は下位から, 黒色泥岩, だいだい色や黄緑色の凝灰岩, 暗緑色の凝灰岩(この層がスランプ褶曲している), 流紋岩片を含む黒色泥岩, 火山礫凝灰岩の順で重なる. 暗緑色の凝灰岩については, スランプ褶曲の発達する部分の側方で, 褶曲が見られず, 同一層が板状になって地層に挟まれる部分がある. スランプ褶曲の見られる部分は幅約2m, 高さ約1.7mの範囲で厚さ約20cmの細粒な凝灰岩層がコンパクトに折れ曲がる. 褶曲の軸面は層理面に対して立っているものが目立つ. スランプ褶曲部の北東端では層が地すべりの移動方向と反対側に折れ曲がる様子が見られた. 褶曲部の先頭は, 土塊の停止する直前にめくれあがった可能性がある.
3. 地すべり土塊の運動中の動き
 褶曲により曲がった部分の「隙間」には, 直下の凝灰岩ないし, 上位の流紋岩片を含む黒色泥岩が取り込まれている. また, 直下の凝灰岩は暗緑色の板状の凝灰岩と上位の黒色泥岩の中に不規則に連続している部分が見られた. 上下層との関係から, スランプ褶曲ができた時, 下の凝灰岩層(凝灰岩が固まる前は火山灰)は液状化していたこと, 地すべり土塊が動いていた時, 暗緑色の凝灰岩の上位には流紋岩片を含む黒色泥岩が重なっていたことがわかった. 一方, 板状の凝灰岩の部分には, 地層の変形がほとんど見られない, すなわち, 底面との間に顕著な摩擦が作用していなかったことが読み取れる. 土塊の移動時には, ハイドロプレーニング現象(地すべり土塊の下に薄い水の膜ができ, 土塊がその上をほぼ摩擦なしで動く現象)が起きていた可能性が高い.
4. 地すべり土塊の停止プロセス
 スランプ褶曲の発達する地層は, 直下の黒色泥岩のトップが作り出す, 局所的な凹みにのみ見られる. この凹みは下位層が地すべりにより移動したことでできたものと解釈される. 地すべり土塊として移動してきた暗緑色の凝灰岩とその上の黒色泥岩は, この凹みを通過する際に, 凹みの下流側斜面を登る際に停止したと考えられる.
5. 褶曲の形成プロセス
 上位の流紋岩片を含む黒色泥岩は, スランプ褶曲部の南西端で切られていて, 直上では薄く引き伸ばされている. また, さらに上位の火山礫凝灰岩の火山礫も引き伸ばされていて, 剪断を受けていることがわかった. スランプ褶曲が下位の泥岩の作り出す凹みの中だけに見られることなどを踏まえると, スランプ褶曲が局所的にできた原因としては, 凹みの中で止まった板状の地すべり土塊を, 直後に到来した水中土石流が後方から押したことが考えられる. この解釈は野村(2018)とも共通する. スランプ褶曲の南西端では, 火山礫凝灰岩層がスランプ褶曲した部分にのし上がるように段階的に重なることから, 水中土石流が連続的に押したと解釈される.
6. まとめ
 地すべりそのものを引き起こした自然現象としては, 水中火山の噴火が考えられる. 手結のスランプ褶曲は, 丁寧な観察と記載によって, 海底地すべりの移動過程を明快かつコンパクトに読み解くことができる, 地質学的に価値の高い実例であると言える.
引用文献
鹿野和彦・中野 俊(1996)恵曇地域の地質. 地域地質研究報告(5 万分の1地質図幅), 地質調査所, 30p.
野村律夫(2018)松江市鹿島町の”手結のスランプ褶曲”. 島根県地学会誌, 33, 2.