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[G-P-13]Was the "site amplification map" effective for the damaging earthquake that occurred in northern Nagano Prefecture in April 2025?

*Tatsuro TSUGANE1, Shinshu-Univ. Ground Motion Research Group (1. Shinshu Univ.)
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Keywords:

site amplification map,site amplification factor,basin-edge effect,landslide area,terrace,heavily damaged belt zone

 はじめに
 信州大学震動調査グループは,これまでに長野県松本市,大町市,安曇野市の「揺れやすさマップ」を作成1) 2) 3)してきたが,2025年4月18日に長野県北安曇郡池田町広津地区を震源とする地震(以後広津地震と呼ぶ)は,これら「揺れやすさマップ」のエリア内に被害をもたらした初めての地震であった.そこで,想定されていた「揺れやすい」地域と実際の被害地域の関係を検討し,新たに見出された揺れを増幅する地形的要素を指摘する.
震源断層
 広津地震は松本盆地の東,フォッサマグナの大峰帯と水内帯を境する小谷-中山断層4)近傍の深度13kmで発生したMj5.1の地震であった.気象庁発表のCMT解と余震分布から断層面は南北走向,西落ち48°で,断層運動は上盤側が南へ20°ずり上がる動きであった.この断層面の走向傾斜から,震源断層は活断層である松本盆地東縁断層の共役断層と推定される.
地震被害
 広津地震の最大震度は震度5弱(大町市八坂など)であった.被害は震央付近の山地域から西側の盆地中央部に及ぶ.被害を集計すると屋根瓦(棟瓦)・壁の破損等の建物被害;51軒,ブロック塀・石垣・道路等被害;13ヵ所,墓石等石造物被害;13ヵ所(50基以上)となる.集計値は大町市,池田町,生坂村,安曇野市への問い合わせと,震央付近の山地部を中心とした独自の現地調査による.
被害地域の特徴と震度
 被害は松本盆地内部には少ないが,盆地東縁と犀川沿いの段丘上に転々と連なる(大町市;三日町~山下,池田町;中島~坂下~南台,安曇野市明科塩川原~生坂村大日向区のV字上で南北には18kmの範囲).被害範囲は広いが件数は少ない.山間部では震央の北東に被害が多く,集中して被害が発生した地域(大町市;切久保・矢下・大平・藤尾,池田町;足崎)もあり,そのほとんどが尾根上か地すべり地内である.被害内容とその程度から被害地域の震度は震度5弱~5強相当と判断する.震度5強としたのは尾根上の足崎と地すべり地内の大平,藤尾である.これらの地点の実際の震度は不明だが,気象庁[推計震度分布図]・防災科研[J-RISQ地震速報]・構造計画研究所[QUIET+]が公表した震度分布図では,ほとんどが震度4の地域にあたる.
被害と地盤の評価
 大町市の「揺れやすさマップ」に被害地域を重ねると,松本盆地東縁の段丘上,山間部とも被害地域は相対的に揺れやすい地域にあたることが多いが,3機関の震度分布図では広津地震の被害地域は揺れにくい地域にあたる.この違いは山地や段丘上の地震波の地盤増幅率の見積もりの差異による.「揺れやすさマップ」では山地や段丘上のボーリングデータから(比較的)軟弱な地盤を多数確認し,それに基づき増幅率を計算し設定しているが2),各震度分布図は震度観測点がない地域では微地形区分を援用して得られた地盤増幅率(山地や段丘の地盤増幅率は1.0以下)5)を用いている.
地形効果
 被害地域の多くが相対的に「揺れやすい地域」にあたるとは言ってもそれに反する被害地域もある.この原因は地盤増幅率の設定自体にも求められようが,むしろ被害地域が地形との相関が高いことが注目される.兵庫県南部地震のいわゆる“震災の帯”形成メカニズムの一つとして盆地端部効果(堆積盆地への直達S波と盆地端部からの表面波との増幅的干渉)が受け入れられてきた6).広津地震のV字の被害域はまさに,山地の縁辺の盆地(段丘)で盆地端部効果の効くゾーンある.また,地すべり地内の顕著な被害は,地すべりの滑落崖と移動体が山地と盆地の関係にあると見れば同じ効果で説明し得る.
まとめ
「揺れやすさマップ」,各機関の震度分布図はもちろんJ-SHISの全国地震動予測地図も地形による地震波の増幅は考慮されていない.一般的に揺れにくいと考えられがちな山地や段丘であっても“盆地縁辺の段丘”と“背後に滑落崖を持つ地すべり地域”は周囲より揺れが増幅される可能性が高く地震被害のリスクは高い.そのため各マップの改訂を待たず当該地域への周知をはかった方がよいであろう.

引用文献
1) 信大震動調査G(2014)「揺れやすさマップ」を活かして地震に備える.
2) 信大震動調査G (2016)大町市の地震動と地盤に関する調査報告書.
3) 信大震動調査G (2020)安曇野市地盤と地震動に関する調査報告書.
4) 小坂ほか(1979)地質学論集,16,169-182.
5) 若松加寿江・松岡昌志(2020)日本地震工学会誌,40,24-27.
6) 石川ほか(2000)第四紀研究,39,389-400.

信大震動調査G;遠藤正孝・古本吉倫・原田晋太郎・原山 智・井関芳郎・北沢淳史・小松宏昭・小坂共栄・松下英次・宮沢洋介・小野和行・太田勝一・塩野敏昭・土本俊和・津金達郎・富樫均・高橋康・竹下欣宏・田中俊廣・田邉政貴・山浦直人・矢野孝雄・吉田孝紀