Presentation Information
[T14-O-4]Central Kyushu as a Transtension Tectonic Zone
*Kiyokazu Oohashi1 (1. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology)
Keywords:
Beppu-Shimabara graben,paleostress analysis,minor faults,transtension tectonics,the 2016 Kumamoto earthquake
九州中部には別府から島原にかけて地溝帯(「別府―島原地溝(帯)」)が存在することが提唱されている(松本,1979)が,本地域の中新世から現在に至るテクトニクスの解釈は単純ではない.1970年代以降,本地域の火山層序や地質構造,重力異常,地殻の水平ひずみ,さらに活断層の分布が精力的に調査される中で,「別府―島原地溝」を挟んで南北伸張の展張場であるという考えと,「別府―島原地溝」は右横ずれとそれに付随するプルアパート盆地であるという考えの主に2つが対立することとなった(長谷ほか編,1993 地質学論集).九州中部の西側に右横ずれ主体の変位を生じさせた2016年熊本地震は,本地域のテクトニクスに再考の余地があることを改めて示し,「広域地溝」の概念に疑問を呈している(竹村,2019).大橋ほか(2020)は,測地・地震・地質の各データに基づき,九州中部の第四紀~現在のテクトニクスをフィリピン海プレートの西進に伴う横ずれ引張テクトニクス(Transtension tectonics)で説明し,中新世から鮮新世まで断続的に起こった南北伸長とは区別した.そしてその上で,第四紀の変動場を「中部九州剪断帯」と呼ぶことを提案した.しかし,地質から得られた過去の応力場は時空間的に限定的であり,九州中部(特に西半分)における第四紀の応力・変形史の理解は依然として不十分であった.
本発表では,筑肥山地・耳納山地・日田盆地南方の小断層解析(応力多重逆解析)から得られた鮮新世以降の古応力場をまとめ,九州中部全体の第四紀テクトニクス像を描写する.調査の結果,いずれの地域からも多数の小断層を見出すことができ,筑肥山地の星原部層・相良部層(下部鮮新統)からは96条,耳納山地の下津江累層(下部鮮新統)からは46条,日田盆地南方の大山層(中部更新統)からは37条の良質な断層スリップデータを得た.いずれの断層も細粒物を伴わないか,伴ったとしても断層ガウジの幅は数mm~1 cm程度と薄い.応力多重逆解析の結果,星原部層・相良部層からは,σ1軸が鉛直,σ3軸がN-S方向の正断層型応力と,σ1軸がE-W方向,σ3軸がN-S方向の横ずれ断層型応力が得られた.下津江累層からも,これと類似するσ1軸がほぼ鉛直,σ3軸が低角なNNW-SSE方向の正断層型応力と,σ1軸が低角なWSWENE方向,σ2軸がN-S方向の横ずれ断層型応力が見出された.まとめると,検出された応力方位は,星原部層・相良部層,下津江累層では共通して南北引張の正断層型応力と東西圧縮・南北引張の横ずれ断層型応力であり,産状に違いが認められないことから同時期に異なる応力が共存したか,短期間で応力が転換した可能性がある.一方で,大山層で得られた斜めずれ型応力は,南北にσ3軸を持つ正断層型と,東西にσ1軸,南北にσ3軸を持つ横ずれ断層型応力の合算で説明可能であり,本地域が本質的に横ずれ引張テクトニクスの場であることを示していると考えられる.結論として,鮮新世以降の九州中西部は,右横ずれと正断層が混在する広域的な変動場(ひずみ集中帯)であったと考えられる.
【謝辞】本発表では,川口慶悟氏,佐藤友香氏(山口大学)の修士論文および卒業論文で得られたデータを使用しました.記して感謝申し上げます.
【引用】
長谷義隆ほか編, 1993. 地質学論集, 41, pp192.
松本征夫, 1979. 地質学論集, 16, 127–139.
大橋聖和ほか, 2020. 地学雑誌, 129, 565–589.
竹村恵二, 2019. 第四紀研究, 58, 91–99.
本発表では,筑肥山地・耳納山地・日田盆地南方の小断層解析(応力多重逆解析)から得られた鮮新世以降の古応力場をまとめ,九州中部全体の第四紀テクトニクス像を描写する.調査の結果,いずれの地域からも多数の小断層を見出すことができ,筑肥山地の星原部層・相良部層(下部鮮新統)からは96条,耳納山地の下津江累層(下部鮮新統)からは46条,日田盆地南方の大山層(中部更新統)からは37条の良質な断層スリップデータを得た.いずれの断層も細粒物を伴わないか,伴ったとしても断層ガウジの幅は数mm~1 cm程度と薄い.応力多重逆解析の結果,星原部層・相良部層からは,σ1軸が鉛直,σ3軸がN-S方向の正断層型応力と,σ1軸がE-W方向,σ3軸がN-S方向の横ずれ断層型応力が得られた.下津江累層からも,これと類似するσ1軸がほぼ鉛直,σ3軸が低角なNNW-SSE方向の正断層型応力と,σ1軸が低角なWSWENE方向,σ2軸がN-S方向の横ずれ断層型応力が見出された.まとめると,検出された応力方位は,星原部層・相良部層,下津江累層では共通して南北引張の正断層型応力と東西圧縮・南北引張の横ずれ断層型応力であり,産状に違いが認められないことから同時期に異なる応力が共存したか,短期間で応力が転換した可能性がある.一方で,大山層で得られた斜めずれ型応力は,南北にσ3軸を持つ正断層型と,東西にσ1軸,南北にσ3軸を持つ横ずれ断層型応力の合算で説明可能であり,本地域が本質的に横ずれ引張テクトニクスの場であることを示していると考えられる.結論として,鮮新世以降の九州中西部は,右横ずれと正断層が混在する広域的な変動場(ひずみ集中帯)であったと考えられる.
【謝辞】本発表では,川口慶悟氏,佐藤友香氏(山口大学)の修士論文および卒業論文で得られたデータを使用しました.記して感謝申し上げます.
【引用】
長谷義隆ほか編, 1993. 地質学論集, 41, pp192.
松本征夫, 1979. 地質学論集, 16, 127–139.
大橋聖和ほか, 2020. 地学雑誌, 129, 565–589.
竹村恵二, 2019. 第四紀研究, 58, 91–99.
