Presentation Information
[T14-O-5]Evolution of the Active Zone of the Oita-Kumamoto Tectonic Line Inferred from the Geology of the Southwestern Wall of the Aso Caldera
*Kohta KARASHIMA1, Tomohiro TSUJI1 (1. Yamaguchi Univ.)
Keywords:
Oita-Kumamoto Tectonic Line,Aso caldera,Idenokuchi fault,Beppu-Shimabara Graben
【はじめに】 阿蘇カルデラなどにみられる「陥没カルデラ形成を伴う大規模火砕噴火」には,その火山地域のテクトニクスが深く関係することが分かっている(例えば,下司,2016).阿蘇カルデラでは,カルデラを横断するように大分-熊本構造線(OKTL)が発達しており,それを南限として別府-島原地溝や中部九州剪断帯などの地質構造が発達する(例えば,大橋ほか,2020)が,阿蘇カルデラ形成とテクトニクスの関係は解明されていない.これは,九州中部が阿蘇カルデラ形成期の火砕流堆積物に厚く覆われており,カルデラ形成期以前のOKTLの運動像の詳細が分かっていないことに起因している.しかし,阿蘇カルデラ南西壁にはカルデラ形成期以前の噴出物が露出しており,OKTLの西端を担う布田川(ふたがわ)断層やその南方の出ノ口(いでのくち)断層が発達していること(Toda et al., 2016)から,先カルデラ期~現在のOKTLの断層変遷,つまり先カルデラ期以降の九州中部のテクトニクス像を考察できる可能性がある. そこで本研究では,阿蘇カルデラ南西壁に発達する断層の活動変遷を明らかにするため,出ノ口断層の東限周辺とその南域の護王峠および冠ヶ岳北東域にあたるカルデラ壁を対象に研究を行った.
【結果】出ノ口断層東限周辺のカルデラ壁では,下位より両輝石安山岩,溶結凝灰岩,安山岩質凝灰岩が露出している.最下位の両輝石安山岩は岩石学的特徴から下部,中部,上部の3つに大別され,出ノ口断層の東方延長を境として,下部両輝石安山岩のみ100 mほど北側露頭の分布標高が低くなっている.これは地質構造および出ノ口断層の東方延長にあたることに基づくと,断層によるものと推定される.
護王峠および冠ヶ岳北東のカルデラ壁では凝灰角礫岩(ラピリストーン),輝石安山岩,火山礫凝灰岩,輝石角閃石デイサイト,凝灰岩,溶結凝灰岩が露出している.最下位層の凝灰角礫岩上端は,西に緩やかに傾斜しているが,冠ヶ岳北東域にて北東-南西方向に大規模に発達する沢を境に,北域の凝灰角礫岩の上端面が約250 m低下していた.これは地質構造に基づくと,断層によるものと推定される.その沢より北域では東西走向高角北傾斜を示す右横ずれ正断層が火山岩類中に複数発達していた.
また,本調査地域では明瞭な活断層地形は認められなかった.
【考察】出ノ口断層東限周辺にて,下部両輝石安山岩には鉛直隔離が発達するのに対し,中部両輝石安山岩より上位の層には地質図スケールでの変位(隔離)は認められない.よって,中部両輝石安山岩の堆積以降では出ノ口断層の活動性が低下した可能性が示唆される.
冠ヶ岳北東域の沢で観察された凝灰角礫岩の分布標高の北側低下に関して,地震波トモグラフィ解析(青柳・木村,2022)では,本沢の走向延長上に最も顕著なS波速度ギャップが発達し,本沢北側は低速度域に位置している.この結果は,本沢の推定断層により,断層北側の凝灰角礫岩が低下したという解釈と調和的である.本沢に見られる岩相分布の変化は,本推定断層が正断層または右横ずれ,あるいはその両方である可能性が指摘される.これは,本沢の北域にて東西走向の右横ずれ正断層が複数発達することと類似する.
本研究で観察された出ノ口断層の北側低下の鉛直隔離,本沢に発達すると考えられる断層の北側低下の鉛直隔離,本沢北域にて発達する右横ずれ正断層は,布田川断層の活動から考えられるOKTLの活動像(例えば,大橋ほか,2020)と調和的な断層活動となっている.加えて,地震波トモグラフィ解析により,本沢の推定断層を境にして,本研究地域全体が低速度領域に位置することは,本調査地域で観察された断層がOKTLの活動に関連して発達した断層の可能性があることを示唆する.以上の結果と先行研究の結果を合わせると,布田川断層や出ノ口断層が発達する阿蘇カルデラ南西壁では,南北約10 kmにわたってOKTLの活動に関連した断層が発達し,相当量の変位が想定される.加えて,出ノ口断層は中部両輝石安山岩の堆積以降に活動性が低下した可能性があること,冠ヶ岳北東域に発達する断層は数100 mの総鉛直隔離量を持つにもかかわらず断層地形が発達しないことを考慮すると,本研究で観察された断層はある時期を境に活動性が低下している可能性がある. その場合,かつてOKTLは現在の阿蘇カルデラ南西壁を覆うほど広範囲で活動していたが,現在は布田川断層帯を含む北域を主な活動場として活動していることが考えられる.
【引用文献】青柳・木村(2022)日本活断層学会2022年度秋季学術大会講演予稿集, 下司(2016)火山, 61, 101-118., 大橋ほか(2020)地学雑誌, 129, 565-589., Toda et al.(2016) EPS, 68:188.
【結果】出ノ口断層東限周辺のカルデラ壁では,下位より両輝石安山岩,溶結凝灰岩,安山岩質凝灰岩が露出している.最下位の両輝石安山岩は岩石学的特徴から下部,中部,上部の3つに大別され,出ノ口断層の東方延長を境として,下部両輝石安山岩のみ100 mほど北側露頭の分布標高が低くなっている.これは地質構造および出ノ口断層の東方延長にあたることに基づくと,断層によるものと推定される.
護王峠および冠ヶ岳北東のカルデラ壁では凝灰角礫岩(ラピリストーン),輝石安山岩,火山礫凝灰岩,輝石角閃石デイサイト,凝灰岩,溶結凝灰岩が露出している.最下位層の凝灰角礫岩上端は,西に緩やかに傾斜しているが,冠ヶ岳北東域にて北東-南西方向に大規模に発達する沢を境に,北域の凝灰角礫岩の上端面が約250 m低下していた.これは地質構造に基づくと,断層によるものと推定される.その沢より北域では東西走向高角北傾斜を示す右横ずれ正断層が火山岩類中に複数発達していた.
また,本調査地域では明瞭な活断層地形は認められなかった.
【考察】出ノ口断層東限周辺にて,下部両輝石安山岩には鉛直隔離が発達するのに対し,中部両輝石安山岩より上位の層には地質図スケールでの変位(隔離)は認められない.よって,中部両輝石安山岩の堆積以降では出ノ口断層の活動性が低下した可能性が示唆される.
冠ヶ岳北東域の沢で観察された凝灰角礫岩の分布標高の北側低下に関して,地震波トモグラフィ解析(青柳・木村,2022)では,本沢の走向延長上に最も顕著なS波速度ギャップが発達し,本沢北側は低速度域に位置している.この結果は,本沢の推定断層により,断層北側の凝灰角礫岩が低下したという解釈と調和的である.本沢に見られる岩相分布の変化は,本推定断層が正断層または右横ずれ,あるいはその両方である可能性が指摘される.これは,本沢の北域にて東西走向の右横ずれ正断層が複数発達することと類似する.
本研究で観察された出ノ口断層の北側低下の鉛直隔離,本沢に発達すると考えられる断層の北側低下の鉛直隔離,本沢北域にて発達する右横ずれ正断層は,布田川断層の活動から考えられるOKTLの活動像(例えば,大橋ほか,2020)と調和的な断層活動となっている.加えて,地震波トモグラフィ解析により,本沢の推定断層を境にして,本研究地域全体が低速度領域に位置することは,本調査地域で観察された断層がOKTLの活動に関連して発達した断層の可能性があることを示唆する.以上の結果と先行研究の結果を合わせると,布田川断層や出ノ口断層が発達する阿蘇カルデラ南西壁では,南北約10 kmにわたってOKTLの活動に関連した断層が発達し,相当量の変位が想定される.加えて,出ノ口断層は中部両輝石安山岩の堆積以降に活動性が低下した可能性があること,冠ヶ岳北東域に発達する断層は数100 mの総鉛直隔離量を持つにもかかわらず断層地形が発達しないことを考慮すると,本研究で観察された断層はある時期を境に活動性が低下している可能性がある. その場合,かつてOKTLは現在の阿蘇カルデラ南西壁を覆うほど広範囲で活動していたが,現在は布田川断層帯を含む北域を主な活動場として活動していることが考えられる.
【引用文献】青柳・木村(2022)日本活断層学会2022年度秋季学術大会講演予稿集, 下司(2016)火山, 61, 101-118., 大橋ほか(2020)地学雑誌, 129, 565-589., Toda et al.(2016) EPS, 68:188.
