Presentation Information
[T14-O-8]Fault movement of the Futagawa Fault Zone inferred from geological structure and distribution of Aso-4 pyroclastic flow deposits
*Reina KAIHARA1, Tomohiro TSUJI1, Kiyokazu OOHASHI2, Susumu SHIBUTANI3 (1. Yamaguchi University, 2. AIST, 3. Chi-ken Sogo Consultants Co.,Ltd)
Keywords:
Futagawa Fault Zone,Fault movement,Pyroclastic flow deposit,Geological structure,Volcano tectonics
布田川断層帯の断層運動について,2016年の熊本地震では,右横ずれ主体の地表変位が断層に沿って出現した(Shirahama et al., 2016).その一方で,中期更新世以降の200 m以上の累積鉛直隔離 (Shibutani et al., 2022) や約9万年前に噴出した高遊原溶岩が70~100 m北落ちする変位(渡辺・小野,1969)が確認されている.このことに関して,大橋ほか(2020)では約9万年前の大規模なマグマの放出に同期して正断層運動をした後,火山活動の停止とともに現在の右横ずれ主体の運動へと変化したと考えられている.一般的に活断層の運動方向や変位速度は第四紀を通して一様であるとされているため,縦ずれ主体の運動から横ずれ主体の運動へ変化したとされる布田川断層帯の運動履歴を解明することは重要である.
そこで本研究では,布田川断層帯周辺の地質構造と阿蘇4火砕流堆積物の標高対比に基づき,中期更新世以降の断層運動を議論する.今回,布田川断層帯の南側(下盤側)の地質構造を明らかにすべく,熊本県上益城郡益城町~熊本県阿蘇市西原村で地質調査を実施した.また,阿蘇火砕流堆積物の断定には鏡下観察や化学分析を用いた.布田川断層帯南側の杉堂地域(以降杉堂S)の地質調査より明らかになったことを以下に示す.1)阿蘇2火砕流堆積物上部は北向き緩傾斜と南向き緩傾斜が認められ,緩やかな凹部を形成しながら全体的にほぼ水平な構造をなす.2)阿蘇4火砕流堆積物のサブユニットである小谷軽石流,八女軽石流,鳥栖オレンジ軽石流が分布し,八女軽石流と鳥栖オレンジ軽石流の境界露頭および下位の小谷軽石流の分布標高から各サブユニットはほぼ水平に堆積する. 3)阿蘇4火砕流堆積物(小谷軽石流)の直下付近では阿蘇2もしくは阿蘇3火砕流堆積物の最上部が確認でき,阿蘇4火砕流堆積物の基底部は標高約150~160 m(標高対比には中間値155 mを用いる)に分布する.
これらの観察事実から,杉堂Sの阿蘇2〜阿蘇4火砕流堆積物の地質構造は全体に概ね水平であると考えられる.布田川断層帯の北側(上盤側)に位置する堂園地域(以降堂園N)と杉堂地域(以降杉堂N)の2点の既存ボーリングコアデータを加えた計3地点で阿蘇4火砕流堆積物基底部を変位基準とした対比を行ったところ,以下の考察に至った。(1)杉堂Nでは阿蘇4火砕流堆積物の基底部が少なくとも標高70 m以深に存在する(渡辺・小野,1969)ことから,鉛直隔離は85 m以上(杉堂Sでの分布標高(155 m)–杉堂Nでの分布標高(<70 m))である.また,鉛直隔離の上限は高遊原溶岩のそれを超えることはないため,推定される鉛直隔離の範囲は約85~100 mである.(2) 堂園Nでは阿蘇4火砕流堆積物基底部が標高約0 mに分布する(改原ほか,2024)ため,杉堂S-堂園N間の分布標高差は約155 mとなる.これは(1)で得られた杉堂S-杉堂N間の推定鉛直隔離より 55~70 m大きな値である.これについては,布田川断層帯北側(杉堂N-堂園N間)の阿蘇4火砕流堆積物が南西に傾動していること,木山-嘉島地溝による堂園Nの沈降,阿蘇4火砕流堆積物の分布高度が西に向かって低くなることのいずれか(もしくは複合的な要因)が示唆される.
引用文献
大橋聖和・大坪誠・松本聡・小林健太・佐藤活志・西村卓也(2020)地学雑誌,129,565-589.
Shibutani, S. Lin, W. Sado, K. Aizawa, A. Koike, K. (2022) Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 23(1), e2021GC009966.
Shirahama, Y., Yoshimi, M., Maruyama, T., Azuma, T., Asahina, D. and Miyakawa, A., (2016)Earth, Planets and Space, 68.
渡辺一徳・小野晃司(1969)地質学雑誌, 75, 365 - 374.
改原玲奈・大橋聖和・辻智大・澁谷奨(2024)日本地質学会講演要旨, T15-P-30.
そこで本研究では,布田川断層帯周辺の地質構造と阿蘇4火砕流堆積物の標高対比に基づき,中期更新世以降の断層運動を議論する.今回,布田川断層帯の南側(下盤側)の地質構造を明らかにすべく,熊本県上益城郡益城町~熊本県阿蘇市西原村で地質調査を実施した.また,阿蘇火砕流堆積物の断定には鏡下観察や化学分析を用いた.布田川断層帯南側の杉堂地域(以降杉堂S)の地質調査より明らかになったことを以下に示す.1)阿蘇2火砕流堆積物上部は北向き緩傾斜と南向き緩傾斜が認められ,緩やかな凹部を形成しながら全体的にほぼ水平な構造をなす.2)阿蘇4火砕流堆積物のサブユニットである小谷軽石流,八女軽石流,鳥栖オレンジ軽石流が分布し,八女軽石流と鳥栖オレンジ軽石流の境界露頭および下位の小谷軽石流の分布標高から各サブユニットはほぼ水平に堆積する. 3)阿蘇4火砕流堆積物(小谷軽石流)の直下付近では阿蘇2もしくは阿蘇3火砕流堆積物の最上部が確認でき,阿蘇4火砕流堆積物の基底部は標高約150~160 m(標高対比には中間値155 mを用いる)に分布する.
これらの観察事実から,杉堂Sの阿蘇2〜阿蘇4火砕流堆積物の地質構造は全体に概ね水平であると考えられる.布田川断層帯の北側(上盤側)に位置する堂園地域(以降堂園N)と杉堂地域(以降杉堂N)の2点の既存ボーリングコアデータを加えた計3地点で阿蘇4火砕流堆積物基底部を変位基準とした対比を行ったところ,以下の考察に至った。(1)杉堂Nでは阿蘇4火砕流堆積物の基底部が少なくとも標高70 m以深に存在する(渡辺・小野,1969)ことから,鉛直隔離は85 m以上(杉堂Sでの分布標高(155 m)–杉堂Nでの分布標高(<70 m))である.また,鉛直隔離の上限は高遊原溶岩のそれを超えることはないため,推定される鉛直隔離の範囲は約85~100 mである.(2) 堂園Nでは阿蘇4火砕流堆積物基底部が標高約0 mに分布する(改原ほか,2024)ため,杉堂S-堂園N間の分布標高差は約155 mとなる.これは(1)で得られた杉堂S-杉堂N間の推定鉛直隔離より 55~70 m大きな値である.これについては,布田川断層帯北側(杉堂N-堂園N間)の阿蘇4火砕流堆積物が南西に傾動していること,木山-嘉島地溝による堂園Nの沈降,阿蘇4火砕流堆積物の分布高度が西に向かって低くなることのいずれか(もしくは複合的な要因)が示唆される.
引用文献
大橋聖和・大坪誠・松本聡・小林健太・佐藤活志・西村卓也(2020)地学雑誌,129,565-589.
Shibutani, S. Lin, W. Sado, K. Aizawa, A. Koike, K. (2022) Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 23(1), e2021GC009966.
Shirahama, Y., Yoshimi, M., Maruyama, T., Azuma, T., Asahina, D. and Miyakawa, A., (2016)Earth, Planets and Space, 68.
渡辺一徳・小野晃司(1969)地質学雑誌, 75, 365 - 374.
改原玲奈・大橋聖和・辻智大・澁谷奨(2024)日本地質学会講演要旨, T15-P-30.
