Presentation Information
[T14-O-9]Timing of volcanism in the Himeshima volcano group constrained by the tephrostratigraphy of the Pleistocene Karato Formation
*Tomonori Naya1, Kiyohide Mizuno1, Yu Horiuchi2 (1. AIST, GSJ, 2. Oita Himeshima Geopark Promotion Office)
Keywords:
Oita Prefecture,volcano,Pleistocene,stratigraphy,tephra,diatoms
国東半島の北方約4km沖合の周防灘と伊予灘の境界付近に位置する姫島には,流紋岩質およびデイサイト質 溶岩と火砕岩などからなる姫島火山群(伊藤ほか,1997)が分布する.姫島火山群は九州の火山フロントの 最北端に位置する火山である.従来,姫島火山群の年代はK–Ar年代やFT年代に基づき,中期更新世の 30〜20万年前と考えられてきた(Kaneoka and Suzuki, 1970;鎌田ほか, 1988).また,近年ではK–Arと 40Ar/39Ar法によって,12〜7万年前という年代値も得られている(松本ほか,2010).しかし,姫島に分布 する姫島火山群と唐戸層との層序関係には不明な点が多く,また,姫島火山群と島外を起源とするテフラの層 位関係の報告も無かったため,地層の累重関係に基づく姫島火山群の位置づけはよく分かっていなかった.
唐戸層は浅海成層と淡水成層の繰り返しからなり,姫島火山群よりも下位の下部〜中部更新統と考えられて きた.最近の筆者らの調査により,唐戸層には8.7万年前に噴出したとされるAso-4テフラが挟在することか ら,本層には上部更新統が含まれることがわかってきた(納谷ほか,2024).本発表では,唐戸層に挟まる Aso-4テフラ前後の地層に挟まる姫島火山群起源のテフラの層序関係,唐戸層や姫島火山群を構成する火山砕 屑性堆積物の堆積環境に基づき姫島火山群の活動時期を検討する.
姫島北岸浮洲の干潟の波食棚に分布する唐戸層は,見かけの傾斜が30−80°と変化に富み,走向の変化も大 きく,変形構造がしばしば観察される.また,異なる層相・走向の地層が断層で接することもあり,極めて複 雑な地質構造を有する.その中に層厚約15mの地層が連続的に観察できる区間がある.この区間は下位より A–E層の5層に区分され,A,C,E層が湖沼を主体とする淡水成層,BとD層が海成層である.D層の最下部に Aso-4テフラが挟在されるため,海成層との層位関係からA層はMIS 5d,B層はMIS 5c,C層はMIS 5c-b,D層 は MIS 5a,E層はMIS 5a-4に堆積したと推定される(納谷ほか,2025).
浮洲波食棚の唐戸層にはAso-4テフラ以外の4枚のテフラが確認された.A層とE層にそれぞれ挟まれるテフ ラ層は黒雲母を多く含み角閃石を伴い硬石膏をわずかに含むガラス質火山灰を主体とし,A層ではざくろ石が 確認されE層では基底部に火山灰と同じ岩質の流紋岩角礫が含まれる.両テフラの特徴は,姫島火山群の達磨 山火山と稲積火山噴出物と一致する.またB層とC層にはそれぞれ姫島火山群の城山火山と浮洲火山噴出物と一 致する特徴を有する,最大径10cmの灰白色流紋岩角礫が挟在する.したがって,浮洲波食棚の唐戸層に挟在 される姫島火山群由来のテフラの層位から,約11万年前(MIS5d)から約7万年前(MIS4)に流紋岩質マグマ による火山活動があったと考えられる.
Aso-4テフラを挟在する一連の地層の見かけの傾斜は30°であるが地層の上下が逆転している.このこと は,この地点では湖底で姫島起源の流紋岩質テフラが堆積した後に大きな変形を受け,さらに隆起したことを 示唆する.また,珪藻化石の分析から姫島火山群のほとんどの火山砕屑物は湖沼環境の淡水域で堆積したと推 定される。例えば,矢筈岳の北麓では標高70m地点に湖沼で堆積したデイサイト質火山砕屑物が確認されるこ とから,姫島火山群の火山砕屑物も水底で堆積した後に隆起したと考えられる.しかし,姫島火山群を構成す るいずれのデイサイト質火山砕屑物の層位は不明であり,隆起の時期を制約することはできない.伊藤 (1989)が考えたように,唐戸層に見られる地質構造が姫島火山群を形成したマグマの上昇により未固結の 地層が隆起したことにより形成されたとすると,E層の流紋岩を噴出させた火山活動の後,7万年前以降にもマ グマ活動が継続していたのかもしれない.今回検討した浮洲干潟のA〜E層以外の層準における姫島火山群起源 テフラの有無や,唐戸層や姫島火山群の火山砕屑物を隆起させる構造運動の時期と火山活動の有無について は,今後さらなる検討が必要である.
引用文献:伊藤(1989)火山第2集,34,1–17.伊藤ほか(1997)地域地質研究報告(1/5万地質図幅),産総研地質調査総合センター.鎌田ほか(1988)月刊地球,10,568–574.Kaneoka & Suzuki (1970) Jour. Geol. Soc. Jpn, 76, 309–313. 松本ほか(2010)日本火山学会講演要旨集,132.納谷ほか(2024)日本地 質学会131年学術大会講演要旨,T15-O-21.納谷ほか(2025)JpGU2025, HQR05-14
唐戸層は浅海成層と淡水成層の繰り返しからなり,姫島火山群よりも下位の下部〜中部更新統と考えられて きた.最近の筆者らの調査により,唐戸層には8.7万年前に噴出したとされるAso-4テフラが挟在することか ら,本層には上部更新統が含まれることがわかってきた(納谷ほか,2024).本発表では,唐戸層に挟まる Aso-4テフラ前後の地層に挟まる姫島火山群起源のテフラの層序関係,唐戸層や姫島火山群を構成する火山砕 屑性堆積物の堆積環境に基づき姫島火山群の活動時期を検討する.
姫島北岸浮洲の干潟の波食棚に分布する唐戸層は,見かけの傾斜が30−80°と変化に富み,走向の変化も大 きく,変形構造がしばしば観察される.また,異なる層相・走向の地層が断層で接することもあり,極めて複 雑な地質構造を有する.その中に層厚約15mの地層が連続的に観察できる区間がある.この区間は下位より A–E層の5層に区分され,A,C,E層が湖沼を主体とする淡水成層,BとD層が海成層である.D層の最下部に Aso-4テフラが挟在されるため,海成層との層位関係からA層はMIS 5d,B層はMIS 5c,C層はMIS 5c-b,D層 は MIS 5a,E層はMIS 5a-4に堆積したと推定される(納谷ほか,2025).
浮洲波食棚の唐戸層にはAso-4テフラ以外の4枚のテフラが確認された.A層とE層にそれぞれ挟まれるテフ ラ層は黒雲母を多く含み角閃石を伴い硬石膏をわずかに含むガラス質火山灰を主体とし,A層ではざくろ石が 確認されE層では基底部に火山灰と同じ岩質の流紋岩角礫が含まれる.両テフラの特徴は,姫島火山群の達磨 山火山と稲積火山噴出物と一致する.またB層とC層にはそれぞれ姫島火山群の城山火山と浮洲火山噴出物と一 致する特徴を有する,最大径10cmの灰白色流紋岩角礫が挟在する.したがって,浮洲波食棚の唐戸層に挟在 される姫島火山群由来のテフラの層位から,約11万年前(MIS5d)から約7万年前(MIS4)に流紋岩質マグマ による火山活動があったと考えられる.
Aso-4テフラを挟在する一連の地層の見かけの傾斜は30°であるが地層の上下が逆転している.このこと は,この地点では湖底で姫島起源の流紋岩質テフラが堆積した後に大きな変形を受け,さらに隆起したことを 示唆する.また,珪藻化石の分析から姫島火山群のほとんどの火山砕屑物は湖沼環境の淡水域で堆積したと推 定される。例えば,矢筈岳の北麓では標高70m地点に湖沼で堆積したデイサイト質火山砕屑物が確認されるこ とから,姫島火山群の火山砕屑物も水底で堆積した後に隆起したと考えられる.しかし,姫島火山群を構成す るいずれのデイサイト質火山砕屑物の層位は不明であり,隆起の時期を制約することはできない.伊藤 (1989)が考えたように,唐戸層に見られる地質構造が姫島火山群を形成したマグマの上昇により未固結の 地層が隆起したことにより形成されたとすると,E層の流紋岩を噴出させた火山活動の後,7万年前以降にもマ グマ活動が継続していたのかもしれない.今回検討した浮洲干潟のA〜E層以外の層準における姫島火山群起源 テフラの有無や,唐戸層や姫島火山群の火山砕屑物を隆起させる構造運動の時期と火山活動の有無について は,今後さらなる検討が必要である.
引用文献:伊藤(1989)火山第2集,34,1–17.伊藤ほか(1997)地域地質研究報告(1/5万地質図幅),産総研地質調査総合センター.鎌田ほか(1988)月刊地球,10,568–574.Kaneoka & Suzuki (1970) Jour. Geol. Soc. Jpn, 76, 309–313. 松本ほか(2010)日本火山学会講演要旨集,132.納谷ほか(2024)日本地 質学会131年学術大会講演要旨,T15-O-21.納谷ほか(2025)JpGU2025, HQR05-14
