Presentation Information
[T5-O-11]Reduction of total sulfur and their whereabout associated with short-duration heating along faults
*Yuzuru YAMAMOTO1, Yuino KOBAYASHI1, Mayuko FUKUYAMA2, Stephen Allan BOWDEN3, Yohei HAMADA4, Takumi Mimura2, Shun CHIYONOBU2 (1. Kobe University, 2. Akita University, 3. University of Aberdeen, 4. JAMSTEC)
Keywords:
earthquake,pseudotachylite,pyrite
地質学が貢献する地震防災・減災に向けて、ある断層が引き起こす地震の最大ポテンシャルを評価することが重要である。そのためには、過去の事象を記録している地震断層からも動力学パラメータを抽出することが求められる。近年注目されているのが、「断層に記録された温度異常」である。断層の摩擦発熱は、断層のすべり速度と量を示す。しかしながら、過去に活動した地震断層から発熱量を正確に抽出することは困難であり、短時間温度上昇を正確に記録する温度指標の確立と検証が求められている。本研究は、堆積物中に主に黄鉄鉱として存在する硫黄が、短時間被熱によって減少する様子を室内実験および天然の火成岩貫入と断層から確認したので、報告する。室内実験は、秋田県に分布する女川層1箇所と千葉県房総半島に分布する保田層群3箇所の泥質岩を加熱し、その試料中に含まれる硫黄全量を分析した。分析は、フランスVinci Technologies社製のRockEval7-Sと秋田大学のLeco社製628CHNSを使用した。実験は、銅管に窒素ガスとともに粉末試料を封入したものと銅の皿に粉末試料を置いたものをマッフル炉で加熱した。前者はpyrolysis(熱分解)、後者がOxidation(酸化)に相当する。加熱は、1)温度を300℃に固定して被熱時間を103、104、105、106秒に変化させた実験と、2)被熱時間を103秒固定して温度を200、300、400、500、600℃に変化させた実験を実施した。結果、4種類いずれの試料でもpyrolysis、Oxidationともに400℃以上で硫黄が明瞭に減少した(600℃で約30%にまで減少)。また300℃に固定して被熱時間を変化させた実験では、pyrolysis では105秒以上で明瞭な減少が見られたが(106秒で約40-60%にまで減少)、Oxidationでは変化が見られなかった。詳しく見ると、無酸素下の500-550℃付近で見られる硫黄の分解反応が明瞭に減少していることから、これらの変化は黄鉄鉱の熱分解によるものと判断される。酸素は黄鉄鉱の熱分解を妨げる働きがあるため、Oxidationで変化が認められないのはこれを反映していると考えられる。天然地質体への適用として、短時間発熱イベントを経験したであろう次の2つの例に注目した。①山梨県南部に分布する上部中新統の富士川層群において、小規模な閃緑岩脈(幅<1.5 m)周辺の泥質岩、それに②房総半島の中部・上部中新統付加体の境界断層でOut-of-sequence thrustとして認定されている石堂断層である。それぞれイベント時に期待される被熱時間は、数十万秒(数日)、数秒であり、温度異常値は<400℃、約1000℃である。①は、5枚の泥質岩単層を設定し、岩脈の伸びに対して直交方向に距離を測定しつつ連続的にサンプリングを行った。その結果硫黄量は、岩脈から離れたところでは若干の変動が認められるものの、岩脈近傍では例外なく極端に減少しゼロになった。また、岩脈とのコンタクト部分で若干の上昇が見られることも注目に値する。②は、秋田大学が所有しているBruker社製のマイクロXRFスキャナーM4 TORNADOを使用し、断層岩周辺の元素マッピングを実施した。その結果、シュードタキライトが認められる断層のコア部分では硫黄と鉄がイメージングされない一方で周辺の破砕・流動化部分と上盤側の保田層群のクラックに沿って特徴的に両元素が分布していた。これらは、瞬間的に高温になった断層のコア部分で黄鉄鉱が急速に分解し、周辺の破砕帯およびクラックを通じて移動していったことを示す。断層を構成している岩石が多孔質であることから断層運動時にサーマルプレッシャリゼーションが起こったことが期待され、破砕帯とクラックに明瞭に硫黄と鉄が分布することから、これらの元素が高温流体に沿って断層コア外に運び去られた可能性が高い。①で確認された岩脈コンタクト部分の硫黄異常も、同様の可能性が考えられる。なお、すでに報告されている短時間被熱によるケロジェンからのS2およびS4CO2の減少について、今回の実験と計測でも再現性が認められた、発表では、これらを含めて短時間地質温度計の可能性についても現状を報告する。
